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怨霊鏡ねこむすめ! 〜オカルト研究部へようこそ〜  作者: あいうえ
10 ご神鏡を取り戻せ!
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「仕方ない。鵺、そいつを食ってもいいぞ」

「え! そんな残酷なこと許すのん?」

「えー、もふもふちゃん、お母さんを食べないでください〜」

「鵺ちゃんのお口じゃ、お母さんを食べるのは至難の業じゃない?」

「抜かせ! このような首、ひとひねりだわ」

「命だけはぁ!」


 とうとう、龍神王が命乞いを始めた。

 満夜はにやりと笑い、それを狙っていたように口を開く。


「とうとう馬脚を現したな、おまえに特別な力などない! このオレにかかれば正体を暴くなど造作もないこと!」

「正体を暴いたのは鵺やないの」

「さぁ! ご神鏡を俺に渡すのだ!」

「そ、そこに」


 龍神王が祭壇の上に飾ってある小さな銅鏡を指さした。

 満夜が駆けつけるより早く、龍神王の頭を蹴って鵺が銅鏡に飛びついていた。


「おお、わしの飛翔輪だ、しかも体の一部が封じられておるぞ」


 小さな手に銅鏡を抱きしめて、かわいらしく鵺が座り込んでいる。しかし、それだけではどうやら封印は解けないらしい。


「キサマ、それをオレに渡すのだ!」

「何を言うか! わしのものだぞ、渡せるものか!」


 やいのやいのと言い合いをしている後ろで、凜理はぐったりとうなだれて畳に座り込んでいる龍神王に話しかけた。


「おばさん、ほんまに力をなくしはったん?」

「……」


 龍神王は黙ったまま答えようとしない。


「お母さん……これを機会に宗教なんてやめよう、ね?」


 菊瑠もしゃがみ込んで、母親の肩に手を乗せた。

 美虹もひざまずいて、菊瑠と一緒に母親の背中に手を添える。


「お母さん、本当はもう、いざなみ様の声なんて聞こえないんだよね? もう、普通の人になっちゃったんだよね?」

「……!」


 そこまで言われて、龍神王——光子は顔を上げた。涙を浮かべて驚いたような顔をしている。


「なんで知っているの……!?」

「知ってるよ。拝み屋さんだった頃の気配がお母さんからなくなってるもの」

「美虹……あんたはあたしの血を受け継いだみたいだね……もしや、あたしが能力を失ったのは、あんたが能力に目覚めたからかい?」

「それは秘密」

「そこはほんまのこと言ってやりぃな」

「秘密」

「お姉ちゃん」

「菊瑠ちゃんにも秘密。わたしには力があるよっていって何か変わる? わたしが望むのは普通の親子だよ。家庭なんだって」

「美虹……そこまでして……でも、菊瑠はそこらへんにいるような人間じゃないんだよ?」

「それはお母さんがそう思ってるだけじゃない」


 美虹が強い語調で言った。


「そこら辺にいるような人間やないて? 白山さんが?」

「あの……お母さんが、わたしのことをくくりひめ様の生まれ変わりだって信じちゃってて……だからこの前、芦屋先輩がくくりひめ様の話をしたとき、ドキッてしたんです」

「白山さんがくくりひめの生まれ変わり……?」

「だから、お母さんはわたしが生まれたときに菊瑠って名前を付けたらしいんです」

「変わった名前やなぁて思うてたけど、そうやったんか……そやけど、能力がのうなったゆうてたやん。なんで銅鏡を盗んだんやろ?」

「できごころ……と言いたいけど……本当に夢枕にいざなみ様が立ったのよ。だからこの神器があったらあたしの能力が元に戻るって思って……でも盗んだら、急に祭り上げられてしまって、自分では止められなかったのよ」

「いざなみ様が枕元に立ったのは、お母さんの願望が見せた夢じゃない? 元々お母さんは目立つの好きな人じゃなかったよね。宗教は簡単にやめられないから、せめてお母さんが龍神王って名乗るのをやめたら?」


 美虹が母親を説得し始めた。


「……そうだね、美虹の言うとおりだ……」


 なぜか光子もその言葉に納得しているようだった。それほど、能力がないのに教祖をしているのは苦痛だったのだろう。


「当分の間、わたしが代理を務めるよ。お母さんは休んで……もう疲れたでしょ?」

「そうするよ……」


 光子は力なく立ち上がると祈祷所から出て行った。


「それを渡せ!」

「渡すものか!」


 家族の涙する場面の背後で、一人と一匹は今も言い合いをしていた。


「満夜、ええかげんしぃ」


 腰に手を当てて、凜理が満夜の前に立った。


「鵺もええかげんにしぃ。銅鏡を取り合っても、封印が解かれんと鵺のものにはならんとちゃうの。鵺一人で封印を解くことができるなら、満夜もその銅鏡を上げたらええんちゃう」


 ごもっともな意見に、鵺のほうがぐうの音も出ない。満夜は形勢不利になった鵺に向かって、笑いながらふんぞり返った。


「ふははははは! 凜理のいうとおりだ! 貴様一人では何もできまい。銅鏡の封印を解くのは俺に任せれば良いのだ。キサマは俺に八束の剣を渡すことだけに専念するがいい」

「そのご神鏡に何が封印されてるって?」


 ひょいと美虹が割って入ってきた。


「鵺の体が封印されているのだ。まぁ、いずれ、オレの聡明な頭脳が残りの封印された体を探し当て、八束の剣を手に入れるのだがな」

「鵺ちゃんの体って封印されてるんだ? どうやってご神鏡の封印を解くの?」

「ふははははは! オレにもわからないが、なんとかなる! そうだ、オレの銅鏡の封印を解いた方法が使えるかもしれん」

「勾玉! そうや、あれにも体が封印されとったんちゃうん」

「まさしくその通りだ」


 鵺は封印が解けてないせいで体に装備できない飛翔輪を両手に抱えて、後ろ足立ちになった。


「もふもふちゃん、かわいいですぅ」

「鵺ってもっと怖い妖怪じゃなかったっけ?」


 姉妹が改めて鵺をじろじろと眺めている。


「力が足りぬせいだ。元に戻れば、我が姿は畏怖すべきものになるだろう。そのときは、かならずや、おまえを食ろうてやるからな!」


 シャーッと威嚇しながら、前足を広げ二本足で立った鵺は満夜を睨んだ。

 なんだかんだ言って、満夜は銅鏡を取り上げるとポケットにそれを収めた。


「なんや複雑やなぁ。盗まれた銅鏡を取り返しても、こうやって着服するんやもん」

「着服とは聞こえが悪いぞ。元あるべき場所に戻しただけだ。元々鵺の体だったのだ、九頭龍神社はただの物置に過ぎん。神があそこにいたとしてもこんな銅鏡など問題にせんだろう」


 くるりと凜理が菊瑠を振り向いた。


「それより、さっきの話はほんまなんか?」

「え!? 何のことですか?」


 わざとらしく菊瑠がしらばっくれた。


「くくりひめの生まれ変わりやていうてたやん」

「それを言ってたのはお母さんで、わたしじゃないです。お母さんは思い込みが激しかっただけです」

「そうかな? 菊瑠ちゃんが自覚してないだけかもよ? 忘れちゃってるだけかも」


 美虹も一緒になって菊瑠を問い詰めた。


「お姉ちゃんまで……困ります……そんなこと言われても、わたし、何もわからないです」

「ここでこないな押し問答しとってもしゃあないな。挨拶して、うちらは解散する?」

「そうだな、今日のところはこれくらいにしといてやろう。平坂大学へ行かねばならんし、今からでは無理だから、明日、改めて」

「そやな」

「わかりました」

「それじゃあ、明日どこで待ち合わせする?」


 美虹が当然のように満夜に訊ねた。


「公園前のバス停に朝九時に集まろう」


 そう決めると、鵺を肩に乗せた満夜と凜理は玄関口で姉妹に見送られて家路についた。

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