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「銅鏡とは我が飛翔輪のことぞ。わしの四肢は銅鏡に封じられ、胴体は勾玉、頭が剣だ」
「飛翔輪の一つはこうやってもふもふちゃんのお手々に戻ってきましたし、勾玉で封印を解いたから胴体は平坂大学にあるってことですね」
「正確には発掘された古墳に勾玉はあったのだ。しかしこれの封印自体は解けていない」
「真名井にはなんもなかったと思うねんけど」
「真名井ではなく、九頭龍神社かもしれん。それで、今日集まったのは、これから部員全員で九頭龍神社の神器を確かめに行こうと思うのだ」
「もしあったらどないするのん」
「封印を解く!」
「……ちょっと待ち。封印を解いた後、鵺の体に飛翔輪として戻るんやろ? 持っていったらまずいと思わないん?」
「大儀のためには致し方なかろう! それに元々の持ち主からの依頼だからな」
「飛翔輪はわしのものだ。九頭龍神社などのものではないぞ」
「確かにそうやけど……」
いきなり満夜が立ち上がった。
「いざ、九頭龍神社へ!」
「おー」
拳を上げて菊瑠と美虹も参戦した。
「しょうがないなぁ……」
仕方なさそうに凜理も賛同するのだった。
***
白山宅からこっそりと抜け出してきた四人は、九頭龍神社を前にたたずんでいた。
「で、どうやって中に入るん? さすがに本殿に勝手に入ったらまずいんちゃうん?」
「問題ない! 秘密の抜け穴があるのだ。本殿に入った後、神器を確認するのだ」
「そういえば……」
凜理が菊瑠を見やった。
「神社ダメやったんやないの?」
「それが、ダメなのはご祭神がいざなぎ様の神社だけなんです」
「そうなん? いざなぎ、いざなみがご祭神の神社多いもんな」
「ここの神はくくりひめなのだ」
「くくりひめ?」
満夜の言葉に凜理が首をかしげた。
「くくりひめはなかなか表舞台に出てこない神だからな、しらんのは仕方あるまい。くくりひめとは、いざなみといざなぎが夫婦けんかしたときに間に入って仲裁した神なのだ」
「けんかってなんやの」
「例の黄泉の国に迎えに行った際にいざなぎが振り返ってしまって、ゲ、こいつとやり直すの無理だわとなったときに、いざなみが振り返ったおまえが悪いと言い返して大げんかしたときの話だ」
「わかりやすいけど、そんなふうに解説されると夫婦関係ってなんやて思うな」
「ともかく。くくりひめはそのときにどこからともなくやってきて二人のけんかが大きくならないように仲裁に入ったのだ。しかし、誰もくくりひめが二人になんと言ったのか知らないという不思議な神なのだ」
「でも、そんな神様が九頭龍神社とどういう関係があるのん?」
——ふ、ははははははは!
いきなり、満夜が高笑いを始めた。
「よくぞ聞いてくれた! 実は九頭龍神社の九頭龍大神はくくりひめでもあるのだ!」
「えー!」
鵺を抱きしめたままの菊瑠と美虹が驚きの声を上げた。
「九頭龍って龍の神様やろ?」
「その通りだが、とある坊さんがある山に導かれて頂上にたどり着いたときに、九頭龍が現れた。その龍は観音ということだったが、実はこの観音こそがくくりひめだった。それが、白山信仰なのだ」
「白山って……」
凜理がチラリと姉妹を見た。
美虹がニコニコとして答える。
「そうだよ。お母さんが自分のことを『白山龍神王』って名乗ってるのはそのせい」
美虹が堂々としているのに反して、菊瑠はもじもじと恥ずかしそうにしている。
「そういうことか! オレもそう踏んでいたのだ。しかも、九頭龍をいざなみだという説もあるのだ」
「ごちゃごちゃやなぁ」
「いや、そうでもない。オレの溢れるような知識から推察するに、くくりひめは実はいざなみといざなぎを隔てた川……龍の化身でもあり、水の神なのだ。いざなみをくくりひめと考えている説もあるが、オレは違う。くくりひめはいざなみの子供だと思う。しかも夫婦げんかの最中に生まれたのだ」
「夫婦げんかの最中に? けんかしてるときに子供なんかできるかいな。しかもいざなみは子供一五〇〇人殺してやるいうたやん」
満夜がそんなことは何の問題にもならないというふうに胸をはった。
「凜理は勉強ができても、オカルトに必要な知識が乏しいな! 古事記では二人は激しい言い争いをしたことになってるが、日本書紀ではじじいが出てきてまぁまぁとなだめていざなみからの伝言を伝えた後、くくりひめもいざなぎに何やら耳打ちして、機嫌を直したいざなぎは黄泉から去ったことになっているのだ。言い争いなどなかったとされている」
「でも殺す、生ますていう話は有名やんなぁ」
「そっちはゴシップ的に愚か者が喜ぶからだ。実際には、くくりひめという子供が生まれたではないか」
「男女の仲は奥が深いねんなぁ」
「そうだねぇ」
「ですねぇ……」
女子三人が腕組みをして頷いた。
「白山くんも九頭龍神社は平気だといっている。さぁ! 本殿に乗り込むぞ!!」
スタスタと鳥居をくぐって、満夜はさっさと九頭龍神社の本殿へ向かった。拝殿など無視してぐるっと裏側に回り込んでいく。
「待ってぇな!」
三人は慌てて満夜の後ろを追っていった。
神社の杜にたたずむ本殿はひっそりとしていて、夏の日差しが遮られて涼しい。そのかわり、ジーワジーワとアブラゼミの声がうるさかった。
神社の本殿は高床になっており、床下は広く、掃除道具などが収められている。横木を踏み越えれば、簡単に中に入られる仕様だ。ただ、内部に入られるかは謎だが。
「ここから中に入るん? おこられんやろか」
「大丈夫だ! ここはオレしか知らない秘密の入り口だ」
「なんで満夜がそんなことしっとるの」
凜理が呆れていった。
「全て父ちゃんが遺したメモに書かれていた。父ちゃんはよく勝手に神社内に入り込んでいたらしいがなぜなのかはわからん」
「子が子なら、親も親やな……」
鵺がぴょんと菊瑠の腕から飛び降りて、日陰になっている床下に潜り込んだ。
「あいつも先に入ったぞ。オレたちも続こう」
ためらいなく横木を踏み越え、床下へ体をかがませて入り込んだ。三人も慌ててそれに付いていく。
「こっちだ」
満夜が床下を突き進むと、ちょうど配電の真ん中辺りで立ち止まり、床下に当たる部分を見上げた。
「ぬぅ。子供の頃に見たきりだが、塞がれていなければここを外すことができるはずだ」
そう言って、手で床下の板を押し上げた。
ガタガタと何度か揺すると、ギッと何かきしむ音がして板が外れた!
「ふはははは! 見てみろ。簡単に開いたぞ。これは中に入って真実を見極めろという神の采配なのだ」
「ただの不法侵入や。見つかったら、怒られるだけじゃすまへんで」
凜理は優等生らしく満夜を引き留めたが、満夜は連れなく自分の服を引っ張る凜理の手を払った。
「オレは行くぞ。九頭龍神社の神器をしかとこの目で確かめて、自分が導き出した答えであっているか知りたいのだ! この偉大なる究明を誰にも止めることなどできはせん!」
と言っている間に、板の隙間から鵺がよじ登って入っていった。蛇の尾っぽがシュルリと暗い内部に吸い込まれていく。
「ぬぅ、鵺が先頭切ってしまったではないか。まぁ、謎究明のためだ、順番など問題ではない」
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