3
1話、3000〜4000文字に編集しました。
みんなに触られてヨレヨレになった鵺がようやく床に下りられたのは数十分後だった。その間、何十回も抱きしめてくる八橋を蛇尾が噛みついたけど。
たらりと額に流れる血を拭いながら、八橋が正気に戻ったのか、鵺を見下ろした。
「さっきから君たちは、このレッサーパンダちゃんを鵺と呼んでいるけど、どういうこと?」
「こいつは、その前足にくっついている銅鏡に封じられていたのだ。それをオレが見つけ出し、こうして手下……ぎゃっ」
手下と言うことを口にした瞬間、鵺の蛇尾が満夜の足に食いついた。鵺の右前足の脇に、宙に浮くようにして飛翔輪がついている。どうやら、四肢にこの飛翔輪がくっつけば空を駆けることが可能らしい。
「見つけ出したって……古墳からかい? でも他に銅鏡はなかったけど……」
「これはオレの家の土蔵で見つけた物で、代々芦屋家に伝わる怨霊を封じ込めていた物なのだ。実際はこのレッサーパンダが封じられていたわけだが。こいつ! 何度も噛みつかせんぞ!」
そう言って、満夜が蛇尾を両手でシュタタタタとかわした。
「怨霊?」
「崇徳院の怨霊だ」
「平坂町に崇徳院の伝説はないけどなぁ……」
「オレも調べ尽くしたが、この銅鏡の謂れは全くわからなかったが、封印されていたのは確かで、封印したオレの先祖がいたというのは事実だ」
八橋が「うーん」と首をかしげる。
「そもそも勾玉はなんだったの?」
満夜の手の中にある箱を見つめる。
「この勾玉が銅鏡の封印を解くからここに連れていけとこいつが言ったのだ」
「で、封印は解けたと言うことなのか。でも、伝説の中の鵺はこんなかわいらしい物じゃないよね」
「そうなのだが……」
二人がじっと鵺を見下ろして顎を手で撫でた。
「わしの体が八つ裂きにされて封印された話をしたではないか。正確には六つに裂かれたのだがな」
「そういえば、そんなことをいうてたな」
「ええ……!? でもちゃんと五体満足じゃないですか?」
凜理と菊瑠が不思議そうな顔をした。
「わしを封印した男はわしの体——魂を六つに分けたとも言える。神通力を六つに分けて封じ、わしが力を発揮できぬようにした上、飛翔輪も隠してしまったのだ。しかもわしの神器もバラバラにしてしまいおったが、こうして飛翔輪の一つと勾玉は戻ってきた。あとは八束の剣だけだ。おまえ、わしの勾玉を返せ」
満夜の腕にもふもふが飛びついた。ぶらぶらとぶら下がっていた鵺が、よじ登って満夜の肩に掴まる。器用に前足を伸ばし、勾玉を掴んだ。
勾玉が鵺の前足で掴めないほど大きくて持て余しているのを見た満夜が、鵺から勾玉を取り上げた。
「返さぬか! これはわしの爪と牙なるぞ」
「キサマに勾玉を渡して、平坂町が再び恐怖のどん底に陥れられないと言えるか!?」
「そんなことがあるわけがなかろう! わしは平坂の民の守護神なるぞ」
満夜と鵺が言い争っている脇で、八橋がうらやましそうに見つめながら、凜理に訊ねる。
「八束の剣とか守護神と言っているけど、どういうこと?」
「全部、鵺の話してくれたことなんで真偽の程はわからないです。でも、八束の剣はうちの神社に伝わる神器なんです」
「そんな物が存在していたのか……その剣は今どこにあるの?」
凜理はそこまで話した後、八橋に剣のありかを教えていいものか迷った。きっと満夜なら教えないのではないだろうか?
「わかりません」
「八束の剣とレッサーパンダちゃんの銅鏡。研究室に勾玉。これって立派な三種の神器だね」
「三種の神器の剣は天叢雲剣じゃないんですか?」
「そう言われてるね。ただ、天叢雲剣は一度八岐大蛇の尾を刺したときに欠けているんだ。十握剣とも呼ばれていたけど、握りこぶし二つ分欠けたんだね。それで八束の剣と呼ぶ研究者もいるよ」
「はぁ」
「それにしても平坂町に三種の神器があったなんて……夢だなぁ」
うっとりとした目をして両手を胸の前で組んで、八橋はため息をついた。
当初の目的は勾玉で銅鏡の封印を解くことだったから目的は果たせたわけだけど、問題は鵺の存在を八橋が知ってしまったことにある。
凜理は鵺と言い争っている満夜を横目で見て、八橋に言った。
「あの……このこと秘密にしてくれませんか?」
「どうして?」
「頭がおかしいて思われるからです」
「ふーん……確かに普通、レッサーパンダちゃんはしゃべらないし、尾っぽが蛇のレッサーパンダもいないしね」
「じゃあ、秘密にしてくれるんですか」
凜理がほっとすると、八橋がにこりと笑った。
「いやいや、秘密にするとは言ってないよ。でも、条件を呑んでくれたら別だけど」
「条件てなんですか……?」
嫌な予感が凜理の胸を騒がせた。
「ボクの研究に付き合ってもらうのはどうかな?」
「研究……ですか?」
なんだかどっかのだれかみたいなことを言うな、と凜理は思った。
「そう。さっき言ったでしょ? ボクは平坂町の神々について調べてるって。宗教に関してもそうなんだ」
「……満夜と同じや……」
凜理は八橋が誰に似てるかわかった。お騒がせオカルト野郎、芦屋満夜にそっくりなのだ。
「めんどくさいことになったなぁ……」
そんな凜理をさておき、八橋が菊瑠に話しかけている。
「やっぱり君、白山龍神王の関係者じゃない? 確か高校生くらいの娘がいるって聞いたし」
「いいえいいえ、それは勘違いです。わたしは普通の白山です」
菊瑠の顔が見る間に青ざめていく。
「ふむ。ともかく、レッサーパンダちゃんのことを秘密にしたかったら、ボクの研究に協力してね」
「協力しなかったらどうなるんですか」
凜理がきっと見据えて言うと、
「そうだなぁ……まずはレッサーパンダちゃんのことを学会に発表するかな」
心なしかほっとした凜理を押しのけて、いつの間にか満夜が八橋に言い放った。
「こいつはオレの研究材料だ! おまえなんぞに渡してなる物か!」
「ていうか、そこ? 言い争うとこそこなん!?」
満夜の肩に乗ったままの鵺が吠える。
「わしを研究とはいかなることか! わしは平坂の民の神なるぞ! おまえなんぞ、一口で食らってやるわ!」
と、小さくて可愛いお口をあーんと開けて見せた。小さな牙がちょっとだけ凶器に見える。
「いやいや、レッサーパンダちゃんにボクが食べられるわけ……あいたたたた!」
さっきの教訓も生かせず、八橋はまたも蛇尾の餌食になった。
どこかマッドな雰囲気を醸していた八橋だったが、蛇尾に噛まれるのもまんざらではなさそうだ。
「とにかく、オレたちは対等な立場だ。秘密だの、なんだの言うのはナンセンスではないか」
意外にまともなことを満夜が口にした。
でも、凜理からしてみたら、ねこむすめのことを秘密にしてやる代わりにオレの助手になれとのたまった満夜の、どの口が言うと心の中で思った。
「おまえが学会に鵺のことを突き出すならば、考えがあるとだけ言っておこう!」
考えなどないに違いない……けれど凜理は黙っておいた。
「わかったよ。そのかわり、レッサーパンダちゃんをもふらせて」
「いくらでももふるがいい!」
鵺にがぶがぶ噛まれながら、八橋は柔らかくてもっふりとした鵺の体を抱きしめた。
「他に何か知りたいことがあれば、協力してもいいよ」
「ただし、もふらせれば……だな?」
どうも満夜と八橋の間でなんらかの協定が結ばれたようだが、鵺は納得してないようだ。
「と言うことであれば、ボクの携帯番号を教えておくよ。面白いことがわかったらボクにも教えてくれよ」
「承知した」
二人はいそいそと番号を教え合い、がしっと握手した。
「何やらお互い気が合うような気がする」
「ボクはそうでもないけどね」
類は友を呼ぶというのを目の当たりにした凜理と菊瑠は二人の姿を見てなんだか複雑な気分になるのだった。
面白かったら、是非、一番下にある☆で評価を教えてください!
よろしくお願いします。




