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1話、3000〜4000文字に編集しました。
「新興宗教?」
オカルト好きの満夜が早くも食いついてきた。それに対して、八橋も目を輝かせる。
「そう! 平坂町で布教されているいざなみ教のことなんだけど、君たち、知ってるかい?」
「いざなみ教だと!」
満夜が目をカッと見開いた。
「そう、いざなみ教! 知っているのかい!? 是非取材させてくれないか!」
「しらん!」
「しらんのかい」
隣から凜理の突っ込みが入る。
「そんな名前の宗教があるとは初めて聞いたぞ」
「そうだね。最近平坂町を拠点に興した新興宗教なんだよ。ボクの研究テーマは神々についてだからね。この宗教が一体どういう神を信心しているのか研究したいんだ」
「いざなみ教っていうんやから、いざなみを信仰してるんとちゃうのん?」
凜理が満夜に聞いた。
「そうとも限らないぞ。いざなぎ神社でいざなぎだけでなく蛇信仰もあるとおまえが教えてくれたではないか!」
「なになに? それはどういうこと!?」
本の山をかき分けて八橋が三人の前に立った。
「満夜、それ秘密や言うたやろ」
「誰も知らないとは聞いたが、秘密とは聞いてないぞ。勝手に発言を曲げるんじゃない」
「秘密の信仰ってことなのかい? それを知っているってことは、君はいざなぎ神社の関係者なのかな?」
「凜理はいざなぎ神社の偽巫女だ!」
「偽だけ余計や!」
「巫女見習いと言うことだね」
八橋の興味が凜理に移ったのを見た菊瑠がほっとした様子で、折りたたみ椅子に座った。
満夜の前に立った八橋はイケメンメガネだけでなく背も高くて、八橋より背が低い満夜は目線を上げた。
「いざなぎ神社にはずいぶん前に取材に行かせてもらったんだけど、そのときは蛇のことは何も言われなかったんだよね。蛇と言えば、紋も三つ逆鱗だよね。あれが蛇に通じるのかな!?」
矢継ぎ早に問いかけられて、凜理は目を白黒させる。
「し、しりません! うちも蛇を祀っているって聞いたばっかりなんです!」
「蛇かぁ……平坂町は蛇に関係する場所がたくさんあるね。もう一度取材に行ってみないと」
「そのときはこのオレも同行し、いざなぎ神社の秘めたる神力がなんなのか、探る必要性があるな!」
満夜と八橋が目をキラキラさせて、拳を握った。
「それだけじゃない。いざなみ教にも俄然興味が湧いてきた。再度取材の申し入れをしなければ! 白山龍神王の出自について調べなくちゃ」
「白山……? 白山くんと同じ名字ではないか」
八橋の言葉に、満夜が反応した。
「ち、違います! わたしの名前の発音は普通のしらやまで、そっちははくざんですから!」
「どっちも同じ漢字だぞ。何か怪しいな。白山くん、やましいことがあるのではないか!?」
満夜が問い詰め始めたのを見て、凜理は菊瑠が可哀想になってきた。
「満夜、ここには白山さんがどうとかってことで来たんやないやろ?」
「ハッ! そうだった! おい、八橋。ここに勾玉はあるか!?」
いきなりの呼び捨てにさすがに八橋も苦笑いした。
「年下から呼び捨てされるのは初めてだなぁ。体育会系みたいだ」
「ぬう、では先生と呼べばいいのだな? ここに勾玉はあるか?」
満夜が八橋に向かって手のひらを出した。
「勾玉? そりゃたくさんあるけど」
「では見せるのだ! その中に未知なる力を秘め、呪力が籠もった勾玉があるはずだ!」
「呪力が籠もった勾玉? 勾玉は確かに呪術に使われたりもするけど、何百個もあるよ?」
「その全部を……!」
横から凜理が割って入った。
「古墳から出土したちょっと珍しい感じの勾玉なんですけど」
当てずっぽうだが、封印を解くほどの力があるのだから珍しい物に違いないと勝手に推測したのだ。
「珍しい感じの……そうだな、一番大きな勾玉があるよ。持ってこよう」
そう言って、両手をひらひらさせながら、八橋は本棚の間にあるドアを開けて隣室に入っていった。
ガチャン、ドサッと言う音がしたかと思ったら、箱を持って現れた。
「これのことかな」
そう言って紙の箱を開けると、中には綿が敷き詰められていて、その上に直径十センチくらいはある大きな勾玉が入っていた。
満夜が口を開く前に、ポケットの中の銅鏡が赤く光を発して、鵺が叫んだ!
——それだ! 早くそれを鏡面にあてがえ!!
「え? 今のは何?」
「何でもありません!」
「この勾玉で間違いないのだな!? よし!」
満夜がポケットから銅鏡を出して、鏡面を勾玉に向けてかぶせた。
突然、カッとまばゆい光が溢れて、その場にいるみんなが目をつぶった。
「な、なに!?」
やがて、眩しい光が消え、その場の全員が目を開けて、満夜と八橋の手の上にいる物を見つめた。
八橋の手の上に箱、箱の上に鏡、鏡の上に満夜の手、その上には——。
レッサーパンダみたいな動物が二本足で立ち上がってつぶらな瞳で辺りを見回していた。
「なんやこれ」
「動物園から逃げ出したんでしょうか?」
「レッサーパンダちゃんだ!」
「鵺……キサマは鵺なのか!?」
四人が唖然と見守る中、レッサーパンダがもふもふの手を上げた。
「封印を解いてくれて礼を言うぞ。これで晴れて自由の身だ。さらば!」
と言って、前足で満夜の手をどけて、銅鏡の上に二本足で立った。
「レッサーパンダちゃんがおちんちんしている……!」
八橋が瞳をハート型にしてメロメロになった口ぶりで叫んだ。
レッサーパンダが力んでぷるぷる震えている。
「キ、キサマ……何をしているのだ?」
さすがの満夜もこればかりは理解しがたいらしくテンションの下がった声音で言った。
「と、飛べぬ!」
レッサーパンダが悔しそうにうなった。
「凄い! レッサーパンダちゃんがしゃべった!」
そう一声上げたかと思ったら、八橋がレッサーパンダに飛びついた。その弾みで勾玉が落ちそうになったのを、満夜が慌てて箱を掴む。
「か、かわいい!」
もふもふの背中に頬を当てて、ぐりぐりし始めた八橋の頭を、どこから現れたのか蛇がひと噛みした。
「痛い! でもかわいい!」
八橋以外の三人はレッサーパンダの尾が見事な白蛇だと頭で理解したが、レッサーパンダという認識を覆せなかった。それにしても立派な蛇である。
「離せ、離さぬか!」
可愛いのかたまりが、もきゅもきゅと暴れている。それでも、満夜は頭を振り、レッサーパンダに声を掛けた。
「鵺なのか?」
「そうだ! わしはこの飛翔輪に封印されし鵺なるぞ。わしの飛翔輪がたった一つゆえ、空を駆けて残りの体を探しに行けぬ」
「飛翔輪って、その銅鏡のこと?」
やっと、正気に戻った凜理が鵺に聞いた。
「銅鏡に見えるが、これは車輪だ。わしの足に備わっている物だ。それよりも、この男を離せ! いい加減うっとおしいわ!」
鵺が毛皮に覆われた頭部に怒りのマークを浮かべて怒鳴った。しかも、もふもふの耳を震わせている。
「なんや、このかわいらしい生き物は……ほんまに鵺なん?」
「正真正銘の鵺だ!」
いくら怒って見せても迫力が足りない。
「どう見ても人畜無害なレッサーパンダにしか見えんな」
満夜も人差し指で鵺をつつくと指が毛皮に埋もれていく。
「わぁ、わたしにも触らせてください〜」
椅子に座ってことの成り行きを眺めていた菊瑠も、堪らなくなって手のひらで、もふもふの毛皮を撫でつけた。
「柔らかい〜。もふもふです!」
「おまえ達、無礼なるぞ! わしから離れろ!」
レッサーパンダは迫力のない姿で雄叫びを上げるのだった。
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