3
1話、3000〜4000文字に編集しました。
「なぁ、八本目の鳥居って、こっちから八本目なん? あっちから八本目なん?」
「むぅ。ねこむすめセンサーはなんといっている」
「クロちゃんか? 今日はまだ出てきぃへんな」
「オレの銅鏡もまだ熱くない」
「今日はハズレの日なんやないの?」
「ハズレとはなんだ」
「そのー、なんも起こらん日」
「ふぬぅ、そんなはずはない。もし今日何も起こらねば合宿や実験の意味がないではないか!」
「そしたら帰ったらええんとちゃうん」
突然、くいっと腰のロープを引かれて、満夜は振り返った。
菊瑠がちゃっかり、ロープの端を鳥居に結わえている。ちょうちょ結びだ。
満夜がぐいっと引くと、簡単にするりとロープは解けた。
「これはもっと固く結ぶべきだ、白山くん」
「はい、固結びですね」
菊瑠がニコニコしながら、柱とロープを固結びした。
「見ろ、凜理。白山くんは非常にやる気があるぞ。おまえも見習うのだ!」
「白山さん、満夜のいうこと、間に受けんでもええからね」
「でも、八束の剣を見てみたいです。それに芦屋先輩と薙野先輩がいれば大丈夫だと思いますし」
それを聞いて、満夜が誇らしげに胸を張る。
「聞いたか、凜理。これぞ後輩の鑑だ」
「うちは後輩やあらへんで。それで通りゃんせはするのん?」
「やらないでか!」
戦闘を凜理、しんがりを守るのは菊瑠。懐中電灯で先を照らしているのは満夜である。三人一緒に鳥居をくぐった。
「お、銅鏡が赤く輝いてきたぞ」
満夜がポケットから銅鏡を出した。
「ふにゃにゃ……」
凜理も耳を押さえて、鼻をピクピクさせている。
「しかし、お互いこの間のような激しい変化はないな」
「そうだにゃん」
凜理のほうは徐々にクロが表に出てき始めているようだ。
一本、二本とくぐるに連れて銅鏡と凜理の変化が目立ち始めた。
「バンダナを付けたほうがいいぞ」
「にゃあ」
耳がピンと立っているのを見て満夜が銅鏡の鏡面を見つめながら忠告した。
凜理はスカートのポケットから赤いバンダナを出して頭を覆った。
銅鏡からも低い地鳴りのような唸り声が聞こえてくる。
——うるるるるる……。
「何か聞こえませんか?」
菊瑠がキョロキョロしながら言った。
「これのことか」
満夜が菊瑠に鏡面を見せた。
「これ……」
菊瑠が目を丸くする。
「音声付きなんですか?」
「音楽プレイヤーか何かと間違ってないか。これはだな、鵺を封じ込めた銅鏡なのだ。しかも封じたのはオレの先祖なのだ!」
「ぬえが封じ込められてるんですか!」
「そうだ、鵺だ!」
鏡面を見せつけられながら、菊瑠が首をかしげる。
「ぬえってなんですか?」
「鵺とは、頭が猿、胴が狸、足が虎、蛇の尾を持つあやかしなのだ」
「わー……気持ち悪いですね……」
凜理が目をぱっちりと開いて闇を見透かしながら前を進むので、その後ろを行く二人も引っ張られてよたよたと前を進んだ。
あっという間に十二本目の鳥居をくぐり抜け、三人は後ろを振り向いた。
町外れにあるとはいえ、えげつないほどの暗闇である。その中で、満夜が照らす懐中電灯の明かりに照らされて、赤い鳥居だけが暗闇の中からぼうっと浮かび上がって見えた。
神隠しにあったり、怪かしに遭遇したりする前に、先に幽霊に遭いそうな予感がする。
「なんだか不気味です……こんなところに本当に八束の剣があるんでしょうか?」
もっともな意見だ。以前ねこむすめのクロが教えてくれた情報を疑う術はない。普通なら、わからないと正直に答えたほうがいいものを。
「ある! オレにはビンビン感じられるぞ。この銅鏡、ねこむすめセンサーが、ここには確かに剣があると指し示している!」
「根拠はにゃあけど、うちには見えるにゃ。七本目の鳥居の根元に剣が埋まっているのが」
——その娘の言うとおりだ……わしにもここのどこかに八束の剣が眠っているのを感じる……。
「わ! 銅鏡がしゃべりましたよ、芦屋先輩!」
「驚くな白山くん。説明がまだだったな、この銅鏡には知性が宿っているのだ」
——わしをうつけのように抜かすな、わっぱ!
「とにかく、通りゃんせを歌わないと七本目の鳥居にはたどり着けないにゃあ」
「そうだな。そろそろ本腰を入れるぞ!」
三人はゆっくりと呪歌を唱えながら、鳥居をくぐり抜けた。
通りゃんせ 通りゃんせ
と歌ったところで、三人の足下がぐにゃりと柔らかくなった。
「ぬ!? ここの地面は固かったはず」
満夜が立ち止まって調べようとするが、先を進む凜理に引っ張られて調べることができない。
ここはどこの細道じゃ
今度は空間に生ぬるい空気が漂い始めた。まだ梅雨でもないのにムシムシしてくる。
天神様の細道じゃ
そろそろ八本目にさしかかる頃、この子の七つのお祝いにの歌詞に差しかかった。
「ここじゃないのか」
「おかしいにゃ」
「先輩、前前!」
菊瑠が前方を指さした。
三人が前を向くと、赤い鳥居が並んでいるのが見えたのだが、その鳥居が終わりなく続いているではないか!
気付けば、自分たちが七本目の鳥居だと思っていたものは、何かわからない赤い物体のトンネルで、ぬらぬらと赤く濡れていた。
「これが神隠しか!」
全てを理解したとでも言うように、満夜が拳で手のひらをぽんと叩いた。
「しかし、八本目の鳥居と言うことなのだから、このへんなものは鳥居には入らない。本物の鳥居を探さねば!」
満夜が前に進み出したとき、後ろを見ていた凜理が満夜に話しかける。
「後ろにも鳥居が続いてるにゃ。どれが本物の七本目の鳥居かわからないにゃ」
満夜も後ろを見ると、今まで通り過ぎた七本の鳥居以外にも、朱色に塗った鳥居が延々と続いているではないか。
「迷宮か、ここは!」
——この空間はわしも知っているぞ。ここは異界。わしが封じられている世界でもある。
「そんな説明は今は役に立たん! ロープをたどって元の世界に戻るべきだ」
「満夜がまともなこと言ってるにゃん」
「異界に迷い込んだとき、元いた世界と時間の流れがおかしかった。早くここから出るべきだ」
三人が腰に結んだロープの片側を持ち、ロープに沿って歩き出したとき、背後からバタバタと音が聞こえてきた。
「なんにゃ!?」
振り向くと、灰色の巨大な人型が鳥居をくぐって追いかけてきていた!
長い黒髪を振り乱す目も鼻もなく、ぽっかりと顔に穴が開いた灰色の何かは遙か背後の鳥居をくぐり、徐々に近づいてきている。
「あれはなんなのだ!?」
「満夜にもわからないものがあるにゃあ」
クロが変に感心している。
——あれはヨモツシコメだ。あれに捕まれば、黄泉に連れていかれてしまうぞ!
三人は鵺の言葉を聞いて、一斉に慌てて走り出した。
「……芦屋先輩、薙野先輩、はぁはぁ」
「なんだ、白山くん……ぜえぜえ」
足の遅い満夜と菊瑠を、先頭を素早く走る凜理が引っ張ってくれているが、なにせ二人とも体力がついていかない。
二人とも汗だくで息を切らし必死で走っているところに、菊瑠が話しかけてくる。
後ろにはヨモツシコメが猛烈な勢いで追いかけてきており、あと数メートルのところまで来ている。
「あの……はぁはぁ……」
と言って、菊瑠は腰に結わえてあるロープを見せた。
「今はロープを見ている場合じゃないぞ、白山くん! ぜえぜえ」
「でも、これ、まずくないですか? はぁはぁ」
菊瑠が見せたロープの端はすっぱりと切れてなくなっていたのだ!
満夜が目をヒン剥いて先を行く凜理に呼びかけた。
「まずいぞ、凜理! ロープが切れている!」
ナイロン製のロープは刀で切ったように切断面がなめらかだった。
「ふにゃあ!?」
事態を把握した三人は足を止めることもできず、永遠に続く鳥居をくぐり続けた。
「ふぬうう」
満夜はうなりながら、担いでいたボストンバッグをあさり始めた。途端に三人の足取りが遅くなる。
「何してるにゃん、満夜! 逃げるにゃん」
「おお、あった!」
バッグから何かを取り出した満夜が後ろめがけてそれを投げつけた!
面白かったら、是非、一番下にある☆で評価を教えてください!
よろしくお願いします。