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怨霊鏡ねこむすめ! 〜オカルト研究部へようこそ〜  作者: あいうえ
3 八束の剣を探せ!
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1話、3000〜4000文字に編集しました。

「平坂町にはたくさんの不思議な場所がありますよね? オカルト研究部に入ったらそういうところをもっと詳しく知ることができるんじゃないかって思って」

「白山さんは平坂町の出身やないのん?」

「いえ、ずっとここに住んでます」

「それなのに、あんまり知らんの?」


 平坂町の不思議スポットは小学生以上ならみんな知っていておかしくない。大抵が遊び場だったりするからだ。


「知ってますよ。ただ、オカルト的にもっと知りたいんです。先輩方がどうするのかなぁって……」

「ふーん……。やっぱり好奇心からか」

「そうですね」


 三人でのんびり歩いていると、こんもりとした(もり)に行き着いた。


「ここだ」


 杜が左右に拓かれた正面に立ち、満夜が言った。

 確かに杜の奥に、真っ赤な鳥居が何本も見える。満夜はポケットの中に収めた、銅鏡を握りしめた。なんだか熱を持っているように感じられる。それを取り出して眺めると、心なしか、鏡面が赤く照り返しているように見える。


「なんだか赤くないか?」

 と言って、菊瑠に見せようとすると、菊瑠が慌てたように、凜理を指差した。


「薙野先輩が……!」


 凜理が薄く待って頭を押さえている。


「凜理、どうした!」

「やばいよ。クロちゃんが表に出たがってる……」

「早くバンダナを」


 しかし、間に合わず、凜理は一声叫んだ。


「にゃああああーーん!」


 ピンとたった黒い耳と、スカートから覗く黒いしっぽ。凜理は鳴きながら、ぴょんぴょんと千本鳥居の中へと入っていってしまった。


「今のは薙野先輩なんですか?」

「今日の演技は神がかっているな」


 満夜は菊瑠にいい加減な言い訳をしながら、凜理に続いて、千本鳥居に入っていったが、菊瑠だけが、杜の外につっ立っている。

 満夜が振り返って声をかけた。


「どうした? 早く来るのだ」

「わたし、ここで人が来ないか見ています」


 満夜は顎をなでた。


「ふむ……。分かった。それではそこで待っているのだ」


 そう言いつつ、手に持った銅鏡を辺りにかざす。


 ますます銅鏡が赤く輝く。不穏な色だ。鳥居の上に乗っかった凜理が、「ふしゃあああ」と銅鏡に向かって威嚇した。


「なぜ、銅鏡が赤く光るのだ。何か秘密が隠されているのか」


 すると、ねこむすめと化した凜理が、クロの言葉を発した。


「銅鏡は、自分を封印した天敵に反応してるんだ。凜理がその場所を探しだす。銅鏡が最も赤く光る場所を照らせ」

「偉そうな猫だ」


 満夜は、空高く銅鏡を掲げた。曇天の空に銅鏡の輝きが反射しそうなほどに赤く光っている。


「こっちだにゃん」


 そう言って、ねこむすめが鳥居をひとつひとつ渡っていく。そして、入り口から八本目の鳥居にたどり着いた時、満夜は、まるで赤い血のような光を放つ銅鏡を見た。


「こ、これは……」

「ここに八束の剣が眠っているにゃん」

「ここの根本を掘れば、八束の剣が出るというのか?」

「満夜はアホだにゃん。掘って出てくるなら、もうとっくの昔に発見されてるにゃん」

「ではどうすれば!?」


 満夜は掴みかからんばかりの勢いで、凜理に迫った。


「それは、術師の子孫である満夜が考えることだにゃん」


 シュルリと魂が抜けるように、凜理からクロが引っ込んだ。

 危うく鳥居から足を踏み外して頭から落ちそうになった凜理を満夜が間一髪で支えた。


「な、何? なんやの?」


 記憶が無い凜理は、鳥居から落ちた事態に肝をつぶしている様子だった。


「黒猫が出てきて、ここに八束の剣が眠っていると教えてくれた。ほら、銅鏡がこれほど不気味に赤く光っている。だから間違いがないのだろう」

「じゃあ、掘れば見つかるの?」

「掘っても見つからないらしい。掘る以外に見つける方法は術師としてのオレの才能にかかっているらしい」

「あんた、術師の才能なんかないやん」

「いや、秘めたる力の具現は、即座には目覚めることができないのだ。なにか、きっかけが……。目覚めのきっかけが必要なのだ!」


 血のように赤くなった銅鏡を握りしめて、満夜は叫んだ。

 空も血のような色に染まりかけている。六時を過ぎようとしている。


「満夜、今日はここらへんで終いにしよ。白山さんも帰してあげないと」

「うむ。そうだな……。続きは明日だ」


 二人は杜の外で待っていた菊瑠に声をかけた。


「用は済んだ。続きは明日だ」


 満夜が菊瑠にそう言うと、彼女が不思議そうな顔をした。


「八束の剣を見つけたんですか?」

「いや、まだだ。だが、必ず、この手にする時は来る」


 それを聞いて、菊瑠が嬉しそうに言った。


「きゃあ、それは楽しみですね! 八束の剣、わたしも見てみたいです。芦屋先輩は見たことがあるんですか?」

「いや、ない」

「じゃあ、薙野先輩は?」

「残念やけど、八束の剣の文献はうちの神社にもないの」


 その言葉に、菊瑠が目を輝かせた。


「薙野先輩の家は神社なんですか?」

「そうやけど、それがどないしたん?」

「薙野先輩は巫女さんとかするんですか?」

「一応。でも、正月だけや」

「じゃあ、巫女さんの資格はないんですか?」

「卒業したら、取るつもりなんや。それまでは偽巫女やな」

「そうなんだぁ……」


 やけに嬉しそうに菊瑠がつぶやいた。


「巫女さんの薙野先輩は強そうですね」

「へ? あたし、巫女姿で格闘技なんかせんで」

「少なくとも、芦屋先輩より強そう」


 すると、それまで黙って聞いていた満夜が割って入ってきた。


「オレが凜理より弱いとでも言うのか!」

「わわわ、勘違いしないでください。なんとなくってことです」


 慌てて菊瑠が言い直す。


「どこらへんが弱そうに見えるのか、はっきりしてもらおうか」


 満夜が問い詰めると、慌てた菊瑠が公園を指差した。


「わ、わたし、こっちが家なんです。じゃあ、ここで失礼します!」

「むぅ……、逃げるとは卑怯な……。白山くん! 明日、用具室で待っているぞ」

「すみませーん、公園で待ち合わせじゃいけませんか?」


 公園の中に入った菊瑠が大きな声を出して聞いてきた。


「わかった。公園で待ち合わせよう」


 菊瑠が公園の中へと去っていった後、辻道を満夜は自宅のあるほうに、凜理はいざなぎ神社のあるほうへ別れた。




 * * * 




 満夜は仏壇の前に座り、幼いころに死別した父、忠司(ただし)に線香を上げた。忠司は拝み屋をしていた。しかし、不慮の事故で亡くなってしまったのだ。一家の大黒柱を亡くした後、満夜親子は祖父と同居して、今は不動産で生計を立てている。それなりに裕福なのだ。

 その父の影響で、満夜はオカルトに興味を持ち、父の遺品から呪符を取り出して真似をしてみたりするようになった。けれど、忠司のような才能がないのか、満夜にはそれらの呪符を使いこなす力がなかった。

 それは、満夜にも分かっている。ただ、言わないだけだ。祖父も分かっているに違いあるまい。だから、満夜が忠司の遺品を漁っても何も言わないのだ。母の里海はあまり満夜にオカルトに関わってほしくないと思っているようだ。それは、変死した忠司のことを思ってのことだろう。

 しかし、満夜はそんな母の思いなど、これっぽっちも頭の中になかった。ただ頭の中を占めるのは、偉大な比類なき術師になることだった。その願望は父を超え、類まれな才能を持った先祖である術師に向けられていた。父親は形無しである……。


 今日も今日とて、勉学に励むこともせず、仏壇を拝んだ後、満夜は亡き父の部屋に入り込み、積み上げられた文献を漁り、父の書いた呪符を眺めた。


「この中にあるはずなのだ……」


 満夜は探し求めていた。銅鏡が示した八束の剣を見つける方法を。果たして、忠司が八束の剣の在り処を知っていたかどうかなど、関係ない。父の形見に埋もれて、満夜は父親というものを感じたいだけなのかもしれない。


「今まで読んだオヤジの日記に秘密が隠されているかもしれない」


 満夜は、文献の山を崩して、忠司の日記を探した。しかし、忠司の日記に書かれているのは、朝昼晩の食事のメニューと天気のことだけだった。拝み屋ともあろうものが、未知なる謎の存在と戦った記録を残さないとは! と、当時の満夜は思ったものだが、実際冷静になって考えてみると、客の個人情報を書き記すわけがない。

 満夜は舌打ちして、再び、文献に没頭した。その中に、いざなぎ神社について書かれた古文書があった。もしかすると、ここに何かヒントが隠されているかもしれない。満夜はパラパラとページをめくる。


 そこに。


「満夜! 何べん呼んだら返事するの! お風呂さっさと入って寝なさい!」


 母・里海の怒号が頭の上に降ってきた。

 満夜はしぶしぶ、古文書を置き、着替えを持って風呂に入りに行った。

面白かったら、是非、一番下にある☆で評価を教えてください!

よろしくお願いします。

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