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時は春。平坂高校にも、新入生が登校を初めて一ヶ月! きっと我が弱小クラブにも入部希望者ゾロゾロ!
「のはずなんだぁあ!!」
今年の春で、晴れて高校二年になる芦屋満夜は叫んだ。手には白紙の入部届が握られている。
一年生の教室の前で叫んでいる姿は不審を通り越していっそ清々しい。
中肉中背、低すぎない背丈に悪目立ちしない目鼻立ち。いわゆる地味。成績も中の中。可もなく不可もない。クラスでも目立たないはずだが、ある意味有名だ。それには理由がある……。
「もう諦めへんの。満夜」
従姉妹で同級生の薙野凜理がため息を吐きながら、満夜の肩に手をかけた。神秘的な青みがかった長い黒髪、まつ毛にけぶる、少し釣り気味の大きな目。瞳は闇を映したように黒い。すっと通った鼻に赤いさくらんぼのような唇は、天然ものだ。頭も良くて運動神経にも優れている。凛理は正真正銘、クラスの男子の憧れの的であり、いい意味で目立っている。
すらりとした容姿にセーラー服がよく似合っている。
新入生の目はそんな凜理に注がれているが、手に持つ入部届はやはり白紙だ。それもこれも、横に立つ満夜が割って入って来るからだ。
「オカルト研究部にようこそ! さぁ、君も呪符を書いて式神を操る立派な術師になろうじゃないか!」
などと叫んできたら、それは逃げる。いくら、凜理が可愛くても。
「あんたが、そうやって割り込んできたら、入部するもんも入部せぇへんよ」
「いや、オレがどうあれ、凜理目当てであれ、真に興味があれば、入部してくる!」
「はぁ〜」
道夜の言う【オカルト研究部】は、非公認のクラブだ。なにしろ、部員は満夜と凜理しかいない。凜理すら嫌々入っているくらいだ。
「あたしは、あのことさえなかったらあんたに付き合うのも嫌や」
「退部したらわかってるだろうな」
二人のやり取りは不穏だ。
「秘密をバラすからなぁああ」
満夜が唯一凜理に強気で出られる秘密。それを握られている限り、凜理は満夜のオカ研から退部できない。
「それに、凜理は大事な研究対象だから、退部されると困る」
満夜は真顔でそう言うと、部室とも言える用具室へ向かった。
用具室に入った満夜はいつになく慎重に引き戸を締めた。
用務員のおじさんがたまにいきなり入ってくる以外、誰も来ない狭い部屋だ。
二、三人の収容スペースはありそうだが、それ以上はぎゅうぎゅうになってしまう。
「今日は用心だ」
そう言って、満夜はポケットからくしゃくしゃになった、長方形の黄色い紙を取り出した。まるで折り紙の紙のようだ。いやまさしく折り紙の紙だったらしく、裏は黄色がすけた白い色をしている。その表の黄色い地に赤いサインペンで、ミミズがのたくったような模様を書いてある。
それを、掲げるように持ち、満夜は一声叫んだ。
「密室の札だ!」
バン! と、用具室の引き戸に貼り付ける。あらかじめ貼っておいた両面テープで、札が用具室の引き戸に張り付いた。
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