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1-6

「草木で罠を作ったり、落とし穴を掘ったり。いくら女神さまの隠し子だったとはいえ、元々は田舎の羊飼いだからね。そこから伝説の剣を引き抜いて、必死に修業して、最強の盾を手に入れたんだ」

「伝説の剣と、最強の盾……」

「君たちのことだよ」


 黒縁の丸眼鏡の奥から、ディヒターが笑みを浮かべる。


「ルーハ。アイ。君たちがいたから、アルトールは英雄となれたんだ」


「っしゃあああああ! いつでもかかってきなさい!」


 同時に準備運動を終えたリッターが雄叫びをあげた。


「相変わらずだな」


 アルトールは苦笑いを浮かべながらも楽しそうである。


「両者向かい合って」


 リッターとアルトールの間にはイザードが立っていて、審判を務める。


「始め」


 ふっ、とリッターの姿が消える。残像すら置いていかない。まるで瞬間異動のようにアルトールの背後へ回り一撃を仕掛けようとする。

 しかし触れるか触れないかの内にアルトールはリッターを避ける。身を翻して距離を取り、腹の底から声をあげて笑った。


「ほんとうに、相変わらずだ」


 一方でその瞳は最早笑ってはいない。

 とん、とん。爪先で床を叩くと、一気に速度を上げてリッターの懐へと入りこむ。数多の打撃と防御。

 足払いに引っかかってアルトールがよろめく。だがそれはふりであって、油断したリッターの隙をついて体ごと回転させながら蹴りを喰らわせた。

 最初の一撃。

 驚いたリッターにそのまま背中へ向けて両の拳を突きつける。

 鈍い音がして、次の瞬間、リッターは地面にうつぶせになっていた。膝に力を入れながらなんとか起き上がり、不利な形勢にもかかわらずアルトールを挑発する。


「まだまだぁ!」


 額からは血が流れていた。


「主、すごいです」

「かっこいいです」


 思わずアイとルーハは素直な感想を述べた。

 しかしディヒターは自分の眉間に右手を当てる。


「完全にテンションがあがっちゃってる。よほど嬉しいんだろうな。リッターも、アルトールも」

「と、止めないんですか?」

「うーん。ぶっ倒れるまで、無理だね」


 外野が溜息をついている間に決着はつこうとしていた。


 猪突猛進、拳を振りかざしたリッター。

 アルトールはひらりと避けると、そのままリッターの流れに沿うようになめらかにかつ素早く動き宙を舞う。鮮やかな動作で放った蹴りの一撃は、見事にリッターのみぞおちに入った。

 挑戦者は、今度こそ倒れて動かなくなる。


「勝者、アルトール」


 イザードがリッターの意識の有無を確認してアルトールの右手を挙げた。


「1000試合目は俺の勝ちだったな」

「主!」


 真っ先にアルトールのもとへ駆け寄っていったのはルーハだった。左手の甲にそっと両手で触れる。


「お怪我をされています。早く手当てを」

「あぁ、ほんとだ」

「主の強さは理解していますが、無益な戦闘はお控えください」

「あるじ、かっこよかったです!」


 続いてアイも走ってくる。


「ぼくにもいつか教えてください」


 アルトールはルーハとアイの顔を交互に見遣った。ぷっ、と小さく噴き出す。

 ふたりは何故笑い出したのか理解できず、怪訝そうにお互いを見る。


「いやいや、ごめん。真逆だな、と思って」

「真逆?」

「俺はうれしいよ。ルーハとアイが、ちゃんと自分の意志を持って成長していることに」


 そして、ふたりの頭を、両の手で撫でた。

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