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空は雲ひとつない快晴で、風もほとんどない。
石畳の路地を抜けると大きな川沿いにいくつかの露店が並んでいる。
そこでアルトールはアイスクリームをふたつ買って、人気の少ないところまで歩くと、川を臨めるベンチに腰かけた。
「失礼します」
断ってから右隣にアイも座る。
「はい。食べてごらん」
「いいのですか」
「俺がふたつ食べる為に買った訳ではないよ。一緒に食べよう」
アルトールが微笑む。城内では常に緊張の糸を張り巡らせている彼も、今は心からの笑みを浮かべていた。
元々は盾であるアイに食事から栄養を摂取する機能はない。しかし、物を食べることはできる。
それにアルトールに言われて拒む理由などなかった。
「では、頂戴いたします」
アイは両手でアイスクリームを受け取った。円錐状のウエハースコーンの上に、真っ白なバニラアイスが乗っている。
「どうぞ。いただきます」
美味しそうにアルトールがアイスクリームを頬張る。
「やっぱり美味い。城でもたまに食べたいって言ってみるけれど、皿に盛られてたりしてちょっと上品すぎるんだよな。アイスクリームは皿に載せてフルーツの中央に置くんじゃなくてコーンと一緒に大口開けて食べるのがいいんだよ」
アイも、アルトールに倣って頬張った。
「いただきます」
「どうだ? 冷たくて、めちゃくちゃ甘くて、美味しいだろう」
味覚が備わっていないアイでも、アルトールの笑顔を見たらこれが美味なのだと理解できた。
「はい。とても、美味しいです。あるじの『美味しい』を、覚えておきます」
それからふたりは無言でアイスクリームを食べた。
時々、空の青を分けるようにして鳥が飛んでいく。
食べ終わってからしばらくして、ぽつりと言葉を零したのはアルトールだった。
「俺に政は向いていないんだ」
「あるじは何をしていてもどこにいてもかっこいいですよ」
アイは屈託のない笑顔で言う。裏表のない彼女の本心。
それを理解していても、アルトールから漏れるのは大きな溜息だった。
「そう言ってくれるのはアイとルーハくらいだ。俺はあそこにいても、息が詰まっていくばかりだ」
「大丈夫です。ぼくとルーハが、いつか立派な一人前の政務官になって、あるじをお助けしますから。今はまだ、ルーハにもへっぽこだと怒られていますが」
「ははは」
数羽の鳥が空で踊るように弧を描いている。
「俺もへっぽこだよ。羊飼いだった頃が懐かしい。あの頃はどんなくだらないことにもげらげら笑っていられたのに」
すっ、とアルトールは空に手を伸ばした。
「あの鳥みたいに自由に飛べた日が、ひどく、遠いものに思えるんだ」
「あるじ?」
きょとんとした表情で、アイはアルトールの横顔を見つめた。
アルトールがアイに顔を向ける。ルーハと同じすみれ色の瞳には僅かな憂いが浮かんでいた。しかしアイを見ると、穏やかな笑みを零す。
「頬についてる」
それから左手でそっと、アイの頬についたアイスクリームを取って舐める。
「一緒に来てくれてありがとう、アイ」