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2-2


 アイにほんの少しだけではあるが余裕が戻ってくる。ちゃんと座りなおして、朗報を待つことに決めた。


「おふたりなら、きっとアルトールさまを連れ戻してくださいます」


 言い聞かせるように頷く。

 しばらくして、今度は兵士が誰かを連れてきた。門番と挨拶を交わして、その誰かを招き入れる。

 エクトーケかもしれないとアイは体を強張らせた。

 しかし。


「アイハ!」

「ウゥルさま?」


 アイのことを略さずに呼ぶのは、魔法鍛冶師のウゥル・イーリアだけだ。


 アイを盾として創りあげ、平和が訪れた後には人間のかたちに変化させた、まさに創造主。

 えんじ色に染め上げた長髪をひとつに束ねた、大きな薄墨色の瞳は二重で、赤褐色の肌が特徴的な女性。

 豊満な体つきを惜しげもなく魅せる服を好むのに、アイの面会に来たウゥルは、魔法鍛冶師の白い正装を身に纏っていた。裾をぐるりと魔法で撚られた金糸で縁取ったローブは、イザードの何にも染まることを許さない黒衣とは違って、高い純潔と道徳心を象徴する。


 格子越しにふたりの掌が重なる。


「アイハ」


 門番が無言で扉を開けるとウゥルは躊躇わずに牢へと入ってきた。そして足枷と手枷を外す。

 痕の痛々しさに眉をひそめながらウゥルはそっと足首に触れた。


「大変だったよね。ごめんね」

「ウゥルさま、お顔を上げてください」


 立ちあがったウゥルの背丈はアイとほぼ同じだ。首を横に振ると、懐から太い幅のブレスレットをふたつ取り出した。

 しばらく躊躇った後に、アイの手をとってかちりとはめた。アイの手首にぴったりと密着する。

 鈍い光を放つブレスレットは身に着けていることを忘れてしまいそうになるくらい軽い金属でできていて、びっしりとこの国のものではない文字やパノラマの風景が刻まれていた。


「アイハ。エクトーケさまの命で、あんたを解放する」


「えっ」


 ウゥルはアイから手を離すと、今度は両肩に手を置いて、アイの瞳をしっかりと見据えた。

 普段は誰もが彼女のことを姉御と呼んで慕う快活さがあるのに、今、その表情は硬い。目の下には深く隈が刻まれていて、充分な睡眠を取れていないことが窺えた。


「あんたの腕に嵌めた魔具はエクトーケさまに命じられてオレがつくった。アイハが自由に行動できる代わりに、万が一、アルトール側について人間の敵になるようなことがあれば、意志を奪ったり盾に戻したりすることができる。ほんとうは、こんなものなんてつくりたくなんてなかった」


 言葉を途切れさせながらも続ける。


「言い訳になってしまうが、オレひとりが宝飾品紛失の罰を受けるならなんでも受け入れたんだ。だけどエクトーケさまは、命に背けば魔法鍛冶師という職を廃業にすると言ってきた。もしそうなってしまえばギルドの皆に申し訳がたたない」


 それからウゥルは勢いよく地面に膝をつき、床に額をつけて、アイに対して土下座する。


「アイハ。あんたに課せられた命はふたつある。まずは、離島に住む蛇髪の姉妹に会いに行ってくれ。エクトーケさまは、蛇髪姉妹にとある品を注文した。それは、あんたにしか受け取ることができない。そしてもうひとつの命は、……姉妹から聞いてくれ」

「ウゥルさま、おやめください。どうしてそんなこわい顔をしていらっしゃるのですか」

「本当にすまない。オレはこんなつもりで、あんたたちを人間のかたちにしたかったんじゃないのに!」

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