crowder 可笑しな青春のすゝめ 其の三
部室
「この日本文化研究部は…ズバリ!考察をしているのです!」
「はぁ、絞殺ですか?」
「違う違う、考えて察する方よ。普通、殺す部活動なんてなんにしたって学校に許可されないわよ。」
とユカリ先輩が補足をしてきた。
眼鏡を専用の布で拭いていて我関せずみたいな顔をしているが誤解のされ方がお気に召さなかったのだろう。
「それで一体何の考察をしているんですか?」
「日本の文化と言えばジャポニズム、ジャポニズムと言えば…なんだと思う?」
「んー、日本食とか着物とかですかね?」
「違う、断じて違うよ黒栗ちゃん!答えはこれだ!」
そう言って机の上に取り出したのはDVDだった。
「これがなんですか?」
「アニメだよア・二・メ!」
そのDVDに目を落とす。
パッケージには主人公らしい鎧を纏った金髪の女性と悪奴みたいな男が印刷されていた。
「これ、学校にバレたらまずいんじゃないですか?」
「その辺はちゃんと了承得てるわよ、これでも部長なもんですから。」
そうでしたね。
それにしても、
「以外ですね、部長こういうの観るなんて。」
「アレ?黒栗ちゃんはこういうのに抵抗感ある人?」
「あー、たまにいますよね。自分のこと棚に上げて見下す人、嫌いですよ私、そういう人達。」
「辛辣だねぇ。まぁここにいる人達はそんなことしないから安心しなね。ハハ。」
「はぁ、ありがとうございます。」
「まぁとりあえず観てみたらどうだ?家に帰ってもつまらんだけだろう。」
「私も賛成だ。後輩、一緒に観ようではないか。」
「うるさくしないでよ、私本読んでるから。」
「ズリィなぁ、俺はこれから練習あるのに。はぁ、サッカー部辞めたい。」
「そういえば、テレビあるんですか?」
「あるんだなぁこれが。ちょっち待ってて。」
そう部長が言うと矢葱先輩が立ち上がり、ドアの横にある本棚の後ろに手を伸ばした。
ドアは部室から出るときには引くタイプで本棚はとても重そうな木製だ。
そこから長方形のダンボールが顔を覗かせる。おおよそ目的の物が入っているらしい。
「なんでそんなところにあるんですか?」
位置的に察してはいるが聞いてみることにした。
「ん?ああ、前にもテレビはあったんだけど誰かがぶち壊してくれてね、一応、用心のためにね。」
まさかの想像の斜め上の事実。
てっきりテレビは許可が降りなかったのだと思ったが「現実は小説より奇なり」という言葉を実際に実感したのは初めてだった。
「それ、ヤバくないですか?」
「一応、解決してるから大丈夫だと思うぞ。」
そう答える矢葱先輩の警戒心は職務放棄している気がしてならない。
「それより、ブルーレイ何処だっけ?」
「本棚じゃなかった?」
「あったあった、サンキュー桜花。」
矢葱先輩が着々と準備を進めていく中、私は適当な位置に座ることにした。
「そういえば、なんのアニメ観るんですか?」
「Fate /Zeroってのだけどパンピーは知らないよね?」
「知りませんね、面白いんですか?」
「面白い!けど、理解しづらいかもね。なんせ設定が細かく作りこまれてるからね。」
「準備できたぞ、再生していいか?」
どうやら始まるらしい。
なんだか、そわそわしてしまう。
映画が始まる前の様な私の好きな緊張感が部室を満たしていくのがわかる。
「じゃあ、俺は部活行くけど、電気消した方がいいか?」
私は別に大丈夫だけどこの部屋には約1名本を読んでいる人物がそれを許さないだろうな。
「消して平気よ、気を使わなくて大丈夫だから。」
あら意外。
手元を見ると本に栞が挟んであった。
観る気満々だった。
「よいしょっと。」
桜花先輩が背後のパイプ椅子に移動してきた。
先輩は私より背が小さい。
そうなると、先輩がさっき座ってところよりテレビが見辛くなってしまうのではなかろうか?
そう思って私は椅子を少し右にズラす。
テレビはテーブルの端にあり、雰囲気も相まってさながら小さな映画館だ。