crowder 可笑しな青春のすゝめ 其の二
部室
私はチャラ男先輩の自己紹介をぶった切って自分の疑問の解決を優先した。
「ちょっちょっと待ってよ、なんで俺だけスルーな訳?カッコつけた意味ないじゃん。俺の努力をどうしてくれんのさぁ。」
知ったことか。
しかし、
「年長者を敬うのは礼儀だぞ後輩。」
「確かにそうだな。」
「そうだよねぇ。」
「………(本を読んでいる)。」
態度が悪かったのか先輩達に窘められてしまった。
意外と体育会系的なノリなのだろうか?
かなり気は進まないがここは謝っておくのが無難だろう。
「すいま『まぁパンダにならいいし、私達も気にしないけど。』…。」
お前も人の話しぶった切って話すんかぁーい。
ていうか、気にしないんならあのノリは何?
「俺も右に同じ。(笑)」
「私は気にするぞ!(マジ顔、だが可愛い)」
「………(興味なさそう)」
「だからパンダじゃないから!(怒)」
パンダというのはチャラ男先輩のことらしい。
「パンダの名前は新田 新太。サッカー部に所属している生粋のオタクだ。泣かせた女は数知れず、泣いたギャルゲーも数知れない。所持してる嫁の数は10体、以上。」
部長が自己紹介を代弁した。
恐らく本人が紹介したくないことまで。
どうやらパンダに人権はないらしい。
プライバシーの権利が大いに侵害されていた。
まぁパンダは動物園でも見世物だから仕方ないか。
おかげで、一番情報量が多い。
「新田 新太先輩のことは置いといてcvってなんなんですか?」
改めて疑問をぶつけて見た。
「ヤッタァ!やっと僕を人間として見『cvつうのは簡単に言うとアニメのキャラとかの声優のことだよ。』…もういいよ、疲れた。」
人権が踏み潰されるところを。
「…声優ですか、だけど何故その声優の名前を出したんですか?」
「推しだよ推し。」
さも当然と言った風だが自分には全然理解できない。
だがこちらのことを御構い無しに部長は聞いてくる。
「自己紹介のついでにそれも教えてちょうだいな。」
「私あまり声優知らないんですけど。」
「そっかぁだったら知ってる人の名前を出せばいいよ。あんまり意味ないしねこれ自体。」
なら言わすなよ。
「あと、パンダのcvは浅沼 晋太郎だから。」
誰だよ。
ということで最後はどうやら私らしい。
さっさと終わらせることにしよう。
早く家に帰りたいから。
「私は黒渕 黒栗と言います。cvは野沢雅子です。よろしくお願いします。」
その時、部室は笑いに包まれた。
✳︎ここからはお好きな声優で脳内変換しあ楽しみ下さい
「いい加減笑うのやめて下さいよ。何がそんなに面白いんですか?」
「くふっ、ははははははははゴメン無理かもハハッ。」
部長だけ未だにわらっている。
こっちはいたって真面目に答えたつもりなのだが、可笑しなところでもあったのだろう。
「それにしたってよくこんなリアル城ヶ崎みたいなやつについて来たな黒渕さん。あん時は正直ビビったよ、本当に部員連れてきたのかって。」
インテリ眼鏡が言っているあの時とは私が部長に拉致されたことを言っているのだろうか。
「確かにそうですね。なんでついて来てしまったんでしょうか私?」
「俺に聞くなよ、まぁあてがないわけでもないがな。」
「ユカリ先輩みたいに心が読めるとかですか?」
「んー何というかカリスマ性みたいなものかな、あまりにも信じがたいことだけど。」
「信じ難いですねそれ。」
「ひどいなぁ、一応日本文化研究部の部員は私が全部集めたんだけどぉ。」
そう言いながら部長は椅子に座り、弁当を広げた。
腕時計を見ると丁度正午になろうとしていた。
それを見ていた他の部員もテーブルの周りに集まり自然と昼食をとる雰囲気になっていた。
家の鍵さえあればきっと私も今頃は楽しい楽しい一人飯を満喫していたはずである。
「そんなとこにいないでこっちに来たら後輩。」
そんな優しい言葉をかけて来たのは桜花先輩だ。
早速先輩風を吹かせてきたがなんか可愛い。
「いえ、先輩の隣なんて恐れ多いので遠慮します。ユカリ先輩となり失礼しますね。」
ちょっと拗ねるような表情が浮上している。
おいおいそんな顔するなよ私の嗜虐心が暴発しちゃうじゃん。
「大丈夫よみーちゃん、黒渕さんは恥ずかしがってるだけだから。ねぇ黒渕さん?」
え?
「そうなの?まぁユカリがそう言うなら信じる。」
隣のユカリ先輩がニタァと笑ってこちら見てくる。
怖い怖い。
「そんなことないですよユカリ先輩。」
「大丈夫分かってるわよ、なんせ私は心が読めるんだから。」
この人本当に心が読めるんだろうか?
「別に私は心が読めるわけじゃないわよ。人の挙動を観察して確度の高い推察が出来るってだけ。」
そう言っているがガッツリ私の心を読んでいる。
「あと別に私は人嫌いってわけじゃないから、残念でした。」
この分だと私の思惑はバレているのだろう。
少し先輩の困った顔が見たかっただけなんだが。
先輩の顔は可愛いのだ。
色んな表情を見たいと思うのは道理だろう。
「そうなんですか?そんな本を読んでいて?」
「これ表紙だけだからね。」
「策士ですねぇ。」
「何が?」
「とぼけないで下さいよ。どうせ私が部室に入ってきてからずっと誘導していたんでしょ、こうなるように。」
「案外頭の回転早いのね。」
「お褒めに預かり光栄ですよ。」
本当にこの人尋常じゃないな。
桜花先輩は話についてこれなかったのか弁当を食べ始めていた。
小さく可愛らしい弁当箱かとてっきり思っていたのだがそうではない。
大きめのタッパーにご飯をギチギチに詰めてその上に肉が敷かれていた。
「桜花先輩って結構食べるんですね。」
「みんなそういうんだけどそんなにおかしいのか?運動部の男子だってこれぐらい食べてるだろ?」
「運動部の俺でもこんな食えないからね普通、できて半分だから。」
「確かに、成人男性の1日の摂取目安を逸脱する物だぞそれは。」
「いいよねぇ、そんなに食べても太らないんでしょ。私なんか日夜カロリーとタタカッテルッテノニ。」
そういえばである。
私は果たしてこの部が何をしているのか聞いていただろうか?
答えは否である。
なら、この会話の区切りがその話を聞くのにベストなタイミングではなかろうか?
「この部って何をしてるんですか?普段。」
それを聞いた部長もとい白樺 蓮華先輩は箸を止め目を見張った。
失念していたとでも言いたげな挙動だ。
「っんんー、んっんっ、ん!ンクンクンクッ、ハァー。危なかったぜ。」
喉につまっただけかよっ!
「ビックリするようなこと言うなよ黒栗チャァン。危うくミルキーウェイを見てしまうところだったよ。」
「もし、先輩がミルキーウェイにフライアウェイしてしまったら私は直ちにランナウェイするので安心して下さい。」
それを聞いて先輩はもう一口、水筒の中身を喉に流す。
異物感が取れたのであろうその顔は何故か得意げだった。