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ケメルバ砦攻略

上司の送別会で飲みすぎました(笑)



ロジリア南東のケメルバは、もともとクルメチアの領土であった。

しかし、ちょうどロジリアとブランシュとダレツの三国間にそびえ立つネトア山脈の麓で、ロジリア領に三角に突き刺さるような形の土地であったため、早い時期にロジリアの侵攻を受けて陥落した経緯がある。

ブランシュ側から見ると、北側の正面をロジリア側、背面の山脈側がブランシュ側となる。

正面からは山の斜面へ攻め上がる形となり攻めにくく、背後は急峻な山肌が攻め手の侵攻を困難なものにしていた。

当に難攻不落の砦であった。

「兄上、損害が出ないと申されましたが、私には想像がつきません。どうなさるのですか?」

オーレリアンの言い分はもっともだった。

こうして目の前に砦を望むと、攻めようが無いように思われた。

「攻めないだけだよ。」

「は?」

オーレリアンだけではなく、皆がヴァレリーの言葉を理解出来なかった。

「砦は落とさないのですか?」

「落としますよ。」

スバニールの言葉に返したヴァレリーの返事は、ますます皆を混乱させた。

「兄上!なぞなぞなどやっている場合では・・・」

オーレリアンが捲し立てるのをヴァレリーは右手を上げて遮った。

「ここだ。」

ヴァレリーが地図の一点を指し示した。

「ケメルバ砦の南西約2キロ。ケメルバ砦程ではないが小高い丘がある。ここに砦を築く。」

「なるほど、ここならばブランシュとの連絡路を確保しつつ、西からのロジリアの侵攻にも対処しやすい。しかしヴァレリー閣下、最悪挟み撃ちの危険性も増しますが?」

「いや、挟み撃ちの可能性は低いでしょう。もちろん手を打ちます。この丘とケメルバ砦の間に流れる川がありますね?この川岸に柵を構築します。要はケメルバ砦を身動きできなくするのです。」

ヴァレリーの説明に頷きながらも、スバニールは疑問を口にした。

「砦は築くとして、川沿いに柵が必要ですか?」

「この柵は防御のためではありません。ケメルバ砦に籠るものたちに孤立した恐怖感を植え付けるためのものです。」

ヴァレリーは地図を指し示しながら続けた。

「砦や城というものは、守るために堅牢なほうが良い。しかし、堅牢であればあるほど頼ってしまいます。そして敵が攻めてこなければ堅牢である意味が無いとともに、閉じ込められたと言う閉塞感が生まれます。そこで、この部分・・・」

ヴァレリーは東よりの川幅が比較的狭い部分を指差した。

「このエリアの柵設置を敢えて最後まで残し、なおかつ他に比べて簡易なものにします。」

「つまり敵に孤立感を植え付けて、完全に孤立する前に討って出させようと言うことですか?」

「しかし出て来なければどうしますか?」

オーレリアンが心配を口にした。

「煙は高いところへ昇る。何も武器をもって攻め入ることはない、火を焚き風に乗せて煙を送れば良い。耐えかねて出てくるだろう。それでも出て来なければ煙に苦しみながら水と食料が尽きるだけだ。どの道封鎖していれば遅かれ早かれ出てこざるを得ない。援軍が来る前にケリを着けたいが、最悪の事を考えて一時しのぎであっても川沿いの柵は有効だと思う。」

ヴァレリーの言葉に完全に得心いかぬまでも、全面攻撃となれば損害は計り知れないわけで、少なくともヴァレリーの策は大きな損害は出ないと思われた。

「やってみましょう。幸い近くには山林が多い。建築材料には事欠きませんでしょう。」

「では砦建設は我がリノ軍が受け持ちましょう。デュドネ!」

「はっ!」

「話は理解したな?」

「はい!」

「では早速取り掛かれ!」

オーレリアンの指示でデュドネが天幕から退出した。

「デュドネはああ見えて器用な男でして、特に攻城や砦構築には信頼がおけます。リノの復興に際して町割りをしたのもデュドネです。」

「ほう、それは頼もしい。」

オーレリアンの説明にスバニールが感心したように言葉を継いだ。

「クルメチアの復興が成ったら都市建設にお力をお貸しいただきたいものです。」

「もちろん、喜んで参画させていただきます。」

スバニールの言葉にオーレリアンは即答した。

「よし、デュドネの仕事が終わるまで焚き火の支度といこうか!」

まるで芋でも焼くかのように言うヴァレリーであった。


ケメルバ砦を守るのは、ロジリア貴族のウラジミール・アランピエフである。

祖父の代までは中央で権勢の一翼を担っていたが、もともとロジリアとダレツの間にあったリグラート王国、現在のロジリア領リグラートの出身であり、純粋ロジリア人至上主義を掲げた前国王に疎まれ、更には父の代に西方のナルウェラント侵攻にて失態を犯し、辺境の地に飛ばされた。

いくつかの辺境地を転々とし、現在はケメルバにたどり着いていた。

それだけに中央への憧れが強く、失地回復の機会を伺っていたのであった。

「なに!ブランシュが砦を築いたと言うのか!」

「はいっ!昨日までは何もなかったのですが、今朝になり西の丘陵に砦が出来ていました。」

物見の報告にウラジミールは慌てて櫓に昇った。

物見の報告通り西の丘陵に柵が巡らされ、ブランシュともう一つ、クルメチア国旗がはためいていた。

「どう言うことだ!ブランシュはともかくクルメチアの旗が有るではないか!いったい中央では何が起こっているのだ!」

ニコラスの粛清はこの様なところまで影響を及ぼしていた。

人材不足から通信伝達網が途切れがちとなり、辺境地への情報供給が滞る事態となっていたのだ。

「兎に角籠城だ!守りを固めろ!いや、今ならまだ討って出たほうが良いか?」

ウラジミールは、突然の出来事に混乱した。

「閣下!砦に見えますが一夜にして作られたものなど仮設以外の何物でも有りませぬ!このバズクール、討って出てあのような擬物粉砕して参ります!」

「そ、そうか!出来るのだな?」

ウラジミールの騎下で、第2部隊を率いるバズクールが勇んで名乗り出た。

「いや、バズクール殿、そうやって出てくるのを待ち伏せする罠でありましょう。ここは様子を見るのが宜しかろう。」

バズクールと並び第1部隊を預かるイワンコフが反対した。

「小細工など恐れるに足りぬ!イワンコフ殿は臆病風に吹かれましたか⁉」

そう言ってバズクールは高笑いした。

「そこまで言うなら止めませぬが、忠告いたしましたぞ!」

「おう!第2部隊の戦いぶり、とくとご覧あれ!者ども!行くぞ!」

おう!とバズクールの部下が呼応した。

バズクールの率いる第2部隊は、ウラジミールの騎下の中でも好戦的な部隊だった。

しかしその戦いぶりは猪突猛進のみで、当たればずば抜けた破壊力を示すが、単調な攻撃は交わされやすく、臨機応変な変化を不得手としていた。

バズクールは砦を出ると真っ直ぐにブランシュの一夜城を目指して駆けた。

言うだけあってその突進は重厚で強力なものに見えた。

その様子をブランシュ陣からヴァレリーとオーレリアン、スバニール等が見ていた。

「意外に早かったな。」

「どこにでも猪武者はいると言うことでしょう。」

ヴァレリーの言葉にオーレリアンが応えた。

「では兄上、少し相手をして参ります。」

「油断はするなよ。いの一番に出てくるところを見ると多少腕に覚えが有るのだろう。」

「はい。適当にあしらって戻ります。」

そう言うとオーレリアンは騎下を引き従え砦から駆け下った。

「者ども!出てきたぞ!中央に斬り込め!」

バズクールはオーレリアンの部隊のど真ん中に突進を指示した。

「デュドネ!半数を連れて右へ展開!残りは私に続け!手はず通りにな!」

「はっ!」

指示を受けたデュドネが半数を連れてロジリア軍の左翼に回り込んだ。

数はほぼ同数であったから、半数を割いたブランシュオーレリアン隊とバズクールの部隊がまともに当たればオーレリアン隊が力負けしそうであった。

「左翼の敵は構うな!中央を揉み潰す!」

バズクールの指示にロジリア兵はますます勢いを増して突進してきた。

そして両隊が激突する寸前、オーレリアンが部隊を左に飛ばす指示を出した。

これは、左へ舵を切るのではなく一斉に左へ移動し、一本の槍が曲がるのではなく横にスライドするような動きだった。

バズクールは激突する寸前に肩透かしを喰らった格好となった。

「小癪な!」

バズクールはオーレリアン隊に向けて転進を命じたが、バズクール同様部下も小細工が苦手だった。

たちまち隊列を乱し混乱した。

そこへ左翼からデュドネの隊が、右翼からオーレリアンの隊が側面攻撃を仕掛けた。

バズクールの部隊は柔らかい腹部を両脇から刺し貫かれる格好となった。

「深追いはするな!同士討ちに気を付けろ!」

オーレリアンは指示を下しながら左右の敵兵を切り伏せた。

ヴァレリー程では無かったが、オーレリアンも南方で散々に武勇を轟かせた強者である。

年齢以上に戦場経験が豊富であった。

敵部隊のど真ん中でオーレリアンとデュドネはすれ違った。

「デュドネ!さっさと戻るぞ!」

「心得た!者ども!走れ走れ!」

オーレリアンとデュドネは、ロジリア軍の中段を食い千切るかのように突破した。

そしてその一撃で砦へ戻った。

オーレリアン達によるたった一度の攻撃は、バズクールの部隊の1/3を削り取った。

「何が起こったのだ?・・・」

悠々と砦へ引き上げるブランシュ軍をただ見送るだけのバズクールだった。

「見事です!オーレリアン閣下!」

砦へ戻ったオーレリアン達をスバニールは称賛した。

「いえ、ただのデモンストレーションですから、大したことはありませんよ。」

「しかしこれで砦のロジリア軍は迂闊に出られなくなったでしょう。」

「よし、オーレリアン、砦を牽制しながら川沿いの柵に取り掛かれ。キミヤス!」

「はっ!」

「ウクリーナの様子を探ってきてくれ。ロマリオを連れて行け!」

「かしこまりました。」

「スバニール将軍。」

「はい。」

「プーリーへ戻りユリチャーノフ殿をお連れしてください。堂々とクルメチア軍としての軍容を整えてからで結構です。ケメルバを落としてクルメチア軍の拠点とします。」

「承った。」

「マルク!リオネク!」

「はっ!」

「西の柵を完成させたら外に堀を巡らせろ!」

ヴァレリーは、矢継ぎ早に指示を下した。

その後、ケメルバ砦から何度か偵察部隊が出ることはあったが戦闘までには至らず、1週間後、ブランシュ・クルメチア連合軍の砦と川沿いの柵が完成した。

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