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ウクリーナ砦攻略①

三日後、ウクリーナ砦攻略作戦が開始された。

比較的勾配が緩やかな東側からスバニール率いるクルメチア軍が攻め入った。

全員が盾を装備していたが、この盾にはある仕掛けがあった。

縦の裏側に折り畳み式のつっかい棒を取り付けており、弓矢の届く距離に到達すると盾を自立させて火矢を連続して撃ち込んだ。

砦の壁は石壁であるため燃えないが、この石壁を越えた矢が砦内の櫓や木造構造物に火をつけた。

ロジリア側も消火に当たりながら、岩や丸太を投げ落として抗戦した。

またクルメチア軍と同様に弓矢での迎撃に当たったが、クルメチア軍が用意した盾は強固で、密集陣形をとられると弓矢の効果は薄かった。

「次だっ!投擲隊!進め!」

スバニールの号令一下、盾をかざしながら複数の兵が飛び出した。

「撃て撃てぇ!」

ロジリア側から弓矢の雨が降る。

クルメチア兵は一人二人と矢に倒れたが、複数の兵が石壁近くまで近付いた。

「投げろ!」

投擲隊は、仕官の号令一下、油の入った瓶を石壁に叩き付けた。

そこへ火矢が降り注ぎ石壁は燃え上がった。

「よし!火を絶やすな!投擲隊!続けっ!」

スバニールは、更に投擲隊に対して指示を下した。

火が付いたとて石壁自体が燃え落ちる訳ではない。

しかし、壁が燃えたという心理的効果と、少なくとも燃えている壁の上部は熱と煙で兵を配置できない。

更にスバニールは、投石機による投石を開始した。

人の頭ほどの大きさがある岩を石壁に叩き付けた。

東側の壁が燃え始めると、ウクリーナ砦西側を守る兵が援軍に向かった。

中央の大門が狙いだとしていたアキーモフは、大門の守りが薄くなることを嫌い、西側から回したのだった。

砦の西側は急峻な山肌で、軍隊が行動できるような場所ではなかった。

そのため、見張りはつけているものの、基本的に攻撃の可能性は極めて低いと思われていた。

しかしその急峻な山肌の中腹に、ヴァレリー他五十名ほどの精鋭が突入の機会を伺っていた。


前日の事。

「兄上!そのような危険な突入は私にお任せください!国王自ら奇襲隊を率いるなど無謀すぎます!」

「オーレリアン殿の言われる通りですヴァレリー陛下、奇襲は我らナルウェラントが受け持ちます、陛下は中央にあって指揮采配をお願いしたい。」

ルードヴィクもオーレリアンに同調した。

「この奇襲は、単に戦術レベルの事ではないのです。

マクシームは、私が生きている限り「ヴァレリー憎し」で侵略を止めないでしょう。

ならば、ここで私自身の手で完膚なきまでに叩きのめすことが重要なのです。

私がマクシームの眼前に姿を現し、陣頭に立って砦を落としてこそマクシームの野望を打ち砕けるでしょう。

ヴァレリーには敵わぬと思わせなければ駄目なのです。」

「だとしても奇襲隊を率いるのはやりすぎです!」

オーレリアンは食い下がったが、ヴァレリーを説得することは出来なかった。そしてヴァレリーが奇襲隊を率いることとなった。

「よし、そろそろだな。リオネク、シルベーヌ、準備は良いか?」

「はい、何時でも。」

「お任せください!」

ヴァレリーは、リオネク、シルベーヌと目を見合わせた。

何年も共に戦場を切り抜けてきた主従は、互いの目を見るだけで呼吸が揃った。

「では、参る!」

ヴァレリーの掛け声で、精鋭五十名は岩肌を下り始めた。

それは滑り落ちたと言っても良いほどの早さであった

しかしその一歩一歩は的確に山肌を蹴り、一人も落下落命することなくウクリーナ砦要壁 上部に取り付いた。

「リオネク!要壁を降りて手はず通りに!」

「はっ!」

リオネクは、二十人ほどの部下と共に砦内に降りた。

その時、ロジリア側もようやくヴァレリー達の侵入に気付いた。

「敵だぁ!西から侵入された!」

「守備隊を戻せ!」

「要壁の上にもいるぞ!」

ロジリア兵は混乱に陥った。

「敵兵は五百はいるぞ!」

「いや!千人はいるぞ!」

「援軍を!援軍を回してくれ!」

リオネクらは、誇大に数を増やして叫び回り、混乱に拍車をかけた。

「シルベーヌ!行くぞ!」

「はい!陛下!」

ヴァレリーは左右の腰に携えた双刀から、左の刀を抜き放った。

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