3年後
三年の月日が流れた。
ヴァレリーは、クルメチア北西部のロジリア国境、ウクリーナに居た。
半年前、マクシームはウクリーナからクルメチアへ討って出た。
一時はクルメチアの西半分をマクシームの勢力下に置かれたが、ブランシュ・ナルウェラント・ダレツ連合の奮戦によりロジリア軍をウクリーナ砦まで押し戻した。
そして、このウクリーナ砦を奪還、もしくは無力化することが、今後のクルメチアの平和維持には不可欠であると結論付けられた。
これは、クルメチアのみならず、連合国全ての平和のためにウクリーナ攻略が至上命題となった。
「何れにしてもウクリーナ砦を落とすには、こちらも相応の損害を覚悟せねばなりません。さすがにあの砦を落とすには生半可な奇策では太刀打ちできないでしょう。」
スバニールの言葉に、オーレリアン、ユリチャーノフ、ルードヴィクは大きく頷いた。
ヴァレリーは地図を睨んでいた。
この次期、ダレツは東からロジリア領内に攻め込んでいた。
もちろん侵略の意図は無く、あくまでもウクリーナ方面に結集しているロジリア軍への牽制であった。
「ここは我々クルメチア軍が先鋒を務めましょう。何分クルメチアとロジリアの国境であり、ウクリーナを落とせばクルメチア領となるのですから、どれだけ損害が出ようともこれはクルメチアの責任領域です。」
スバニールが先鋒を申し出るが、それは領土上の理由だけではなかった。
ロジリアからの独立からここまでの間、クルメチアはブランシュの支援なくしてやってこれなかった。
ロジリアに対する防衛手段、国内の治安維持、経済の振興。
全てにおいてブランシュに頼りきりであった。
しかしそれも、このウクリーナ攻略が成れば、一応の決着を見ることができる。
スバニールは、自身の命に代えてもここを攻略することこそがクルメチアの本当の独立復興に繋がると考えていた。
「スバニール将軍、そう死に急ぐことも有りますまい。
確かにウクリーナはクルメチアにとって重要な砦であろうが、ナルウェラントにとってもここを潰せれば、デンメル要塞方面への戦力を削ることになる。
我が国にとってもウクリーナは是非とも潰さねばならぬ砦なのですよ。」
ルードヴィクが地図上のウクリーナ砦からナルウェラントデンメル要塞までの道筋をなぞりながら言った。
「それにここを一時的に奪取し得たとして、要塞の形を考えれば、ロジリア方面に対して護ることは難しい。クルメチア側からは攻めにくく、ロジリア側からは護りにくい。落とせれば全て破壊してしまう方が効果的でしょう。」
こんどはヴァレリーがウクリーナ砦の周囲を指し示しながら言った。
「うむ、スバニールよ、確かに我々クルメチアが先鋒を務めるのは道理であろうが、ここはブランシュ・ナルウェラント両国にお力添えを頂くのが良策ではないか?」
ユリチャーノフがスバニールを説いた。
「分かりました陛下。
しかしどのみち先鋒となるものは必要です。全体の戦術に影響がなければ、単独ではなくとも先鋒の一部に据えて頂きたい。」
「分かりましたスバニール将軍。
しかし砦を奪還するとなれば無理も生じますが、壊すだけなら策はあります。
では今回のウクリーナ攻略についてまとめましょう。」
戦術会議はヴァレリーの主導で細部を詰めた。
ウクリーナ砦は、ロジリア側からは山あいにただ一本ある街道のクルメチア側出口にあたる。
クルメチア側に出るとなだらかに下りながら扇状に平地となって行く。
その扇の要の部分にウクリーナ砦がある。
攻め手側としては、障害物の無いなだらかな坂を上りながら攻めねばならず、砦側から弓矢で狙い撃ちされた。
また、後背の山間部から木を切り出して、坂に転がり落とせば、それだけで敵をなぎ倒す武器となった。
正に難攻不落の砦であった。
唯一弱点があるとすればロジリア側からの入り口なのだが、たどり着くまでにはロジリア側を大きく迂回して突入するしかなくその迂回自体が困難を極めた。
しかしそれも、この難攻不落の砦ありきの議論である。
砦を「奪って」利用しようとするから無理も出るのだ。
片っ端から壊して良いならやりようはある。
ヴァレリーは、マクシームに砦の再奪取の口実を与えないためにも、完全に破壊してしまおうと思っていた。
◇◇◇◇◇
「アキーモフ・・・」
「はい、陛下。」
マクシームは砦の櫓に昇り、眼前に布陣するクルメチア・ブランシュ・ナルウェラント連合軍を見下ろした。
「何を間違った?」
「間違ってはおりますまい。」
「間違わずともここまで押し戻されるのか?」
怒りなのか、失望なのか、マクシームにはわからなかった。
万全の策であったはずだ。
事実、一時はクルメチア首都リクナブールまで迫った。
軍も整備し、鍛練も怠らなかった。
しかし、思った以上にブランシュはクルメチア、ナルウェラント、ダレツとの親密度を増していた。
国王となったヴァレリーは、ナルウェラントから妃を娶り、既に王子二人が産まれている。
先王のレアンドルもまた、ダレツから迎えたマルティナが王子一人を産んでいる。
更には、セルデニアの王女ブリュンヒルデと結婚したジローは、ダレツとセルデニアの友好をさらに深め、意外にも卓越した政治力を見せ始めていた。
ロジリアにとってみれば、国境の西と南を完全に遮られた形だった。
それでも電撃的にウクリーナから進軍し、一時的にではあってもクルメチアの西半分を奪取したのは、マクシームの戦略眼の凄さであろう。
「それでも敵わぬと言うのか・・・」
マクシームは奥歯が砕けるかというほどに歯噛みした。
「しかし陛下、済んでしまったことを悔いても仕方有りますまい。
ここはこの砦を守り抜き、次に備えることこそ肝要でございましょう。」
「・・・」
「良いか!敵を充分引き付けてから岩と丸太を投げ落とせ!同時に弓矢を持って攻撃!
敵は東か中央の大門が狙いだ!
心してかかれ!」
アキーモフの指示に、おうっ!と兵が雄叫びを上げる。
しかしマクシームは、何か嫌な予感を感じていた。




