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クルメチア奪還!ガルカネラ砦攻略戦

エルゲンベルトとベルンハルトからの書状を受け取ったレアンドルは、ダレツとの和平に手応えを感じる。

一方、ヴァレリーは、クルメチア解放の途につき、ガルカネラ砦の攻略に取り掛かる。

ロジリア軍との本格的な戦闘の火蓋が切って落とされた。

「レアンドル陛下、ダレツから親書が届きました・・・それから・・・」

「それから?」

言い澱むクリストフに不審を覚えた。

「親書を届けた使者とは別に、エルゲンベルト王子からも親書が届けられたのですが、持参したものが酷く汚れていて、どうやら正式に砦を通ったのではなく、山越えでやって来た模様なのです。」

「ほう?」

砦の警備を掻い潜ってやって来たということは、親書と言うより密書の類いであろうと思えた。

「分かった。先ずは両方の親書を読もうか。」

レアンドルは、クリストフから2通の書状を受け取り、ベルンハルト国王からの親書から読み始めた。

「ふむ、ベルンハルト国王は見舞いを受け入れてくれるそうだ。もちろん休戦協定を結んでからではあるがな。

協定書作成のための文官をサボワールに送ると書いてある。さて、もう一通は・・・」

レアンドルは続けてエルゲンベルトからの密書を読み始めた。

「これは面白い。」

「どうなされましたか?」

「どうやらエルゲンベルト王子は武力ではなく、経済協力という手段でブランシュを利用する腹積もりらしい。」

「ふざけた話ですな。」

クリストフの言葉に、レアンドルは首を降りながら答えた。

「そうとも言い切れまい。利用するということは、自らも利用されるということだ。書状を持参したものに会おう。詳しくはその者に託してあると書いている。」


程無くして、旅塵を落としたムートガルトが案内されてきた。

「レアンドル国王陛下にはご機嫌麗しく・・・」

「挨拶は省きましょう。ムートガルト殿。こちらへお掛けください。」

レアンドルは自ら椅子を引いて席を勧めた。

「これは勿体ない・・・」

そう言いながらも、ムートガルトはレアンドルの気安さに戸惑った。

「済まぬな。王座とか窮屈でならんのですよ。まあ、気安く気安く。」

そう言ってレアンドルも同じテーブルに着いた。

「ムートガルト殿、書状は読みました。私もダレツとの平和を得られるならば協力は惜しみません。」

「ありがとうございます!」

「しかしです・・・」

レアンドルは、間を置き、腕を組み目を閉じた。

ムートガルトは、レアンドルの次の言葉を待った。

「港の租借については和平の条件とは出来ません。」

「無理ですか?」

「如何なる理由が有ろうとも、他国に自国の領土を貸せば、後々その既得権を巡りまた紛争の種になりかねません。」

「決して領土を飛び地的に得ようということは・・・」

「まあ、焦らずに。」

レアンドルは意気込むムートガルトを制した。

「要はダレツが海洋貿易の拠点を得られれば良いのでしょう?」

「仰有る通りですが・・・」

レアンドルは紅茶を一口啜り話を続けた。

「単純に港を使用することには同意できるでしょう。」

「真ですか!」

「しかしそう単純な事では有りますまい。

貴国の船団の規模や宿所、管理のための建屋、貿易商品の移送方法、通行や収益に対する税政、何一つ具体的な案が無い。これでは検討のしようがありません。」

「それはこの後・・・」

言いかけたムートガルトを制してレアンドルはベルンハルトからの書状を出した。

「これはベルンハルト陛下からの親書です。」

「へ、陛下からに御座いますか?」

「近々私はベルンハルト陛下の病気見舞いにダレツへ赴きます。」

「そのような話が進んでいるのですか⁉」

「思うに、ムートガルト殿がダレツを発った後で認められた物でしょう。何故なら、エルゲンベルト殿下も連名で署名しているからです。」

「なんと!」

ムートガルトは、自分が勇み足だったと思った。

これではノコノコとダレツへは帰れないと思った。

肩を落とすムートガルトにレアンドルは言った。

「心配には及びますまい。この親書にはマルティナ殿下がベルンハルト陛下の筆頭代理となっています。そもそも私がダレツへ行くのは、私から御見舞い申し上げたいと親書を送ったことに始まります。

たぶん、ムートガルト殿がダレツを発った後で私からの親書が届いたのでしょう。それを知ったエルゲンベルト殿下がマルティナ殿下に打ち明けたと見るのが正しいかと思います。

であれば、エルゲンベルト殿下が上手く道をつけていると思いますよ。」

ムートガルトは、マルティナが筆頭代理となっていることに驚いた。

全てが裏目に出たわけではなかった。

マルティナをレアンドルの妃とする企ては、ムートガルトとエルゲンベルトしか知らないはずだった。

思いもよらず、レアンドルとマルティナの対面が叶うのだ。

この縁組みが成れば、他の事は後回しで十分だった。

「わかりました。レアンドル陛下の仰せ、エルゲンベルト殿下にお伝えし、後日改めて精査の上、お願いに上がることに致します。」

「それが良いでしょう。」

「となれば早速とって返しましょう。」

「お疲れであろう?今夜一晩でもゆるりとしていかれたら如何か?」

「ご配慮有り難うございます。しかし、今日は砦にて休息を取ろうと存じます。」

「そうか。ならばそうなされよ。」

ムートガルトは、一縷の希望を見つけ、ダレツへと向かった。

そして数日後、ダレツより休戦協定のための文官達が到着した。



「スバニール将軍!右翼の北門をお願いいたします!」

「心得た!」

「オーレリアン!南門だ!」

「お任せあれ!」

「本隊は正面東門を攻める!突撃!」

ウオォーッ!と歓声を上げてブランシュ・クルメチア連合軍はロジリア軍ガルカレナ駐屯地に殺到した。

駐屯地の柵はさほど強固なものではなかったが、柵の隙間から放たれる矢は厄介だった。

しかし、この作戦はクルメチア兵の家族や虐げられているクルメチア国民の救出をするための陽動であったから、無理に攻め落とす必要は無かった。

そのため、弓矢の射程内に強引に斬り込むことは無かったが、落とせるものならばさっさと落とした方が自軍の損害も少なくてすむと判断していた。

「キミヤス!」

「ここに!」

「無理しなくても良いが、可能ならば突入して掻き回せ!」

「お任せください!マルクとシルベーヌをお借り致します!」

「良かろう!」

「マルク!シルベーヌ!続け!矢に当たるなよ!」

「はっ!」

キミヤスは、マルクとシルベーヌを引き従え、それぞれの配下と共に一本の鏃のように突撃した。

「シルベーヌ!門の右手!小さな隆起がある、見えるか⁉」

東口の直ぐ右手に、小さく瘤のように盛り上がった地面の隆起があった。

「はい!」

「あそこから一気に柵を飛び越えるぞ!出来るか⁉」

「お任せください!」

「良し!マルク!私とシルベーヌが突入する!貴様は門に取り付け!」

「了解した!」

「行くぞ!」

キミヤスは愛馬に一鞭くれると地面のわずかな瘤を踏み台に柵を飛び越えた。

そしてシルベーヌもそれに続いた。

鮮やかな跳躍だった。

たった2騎の突入だった。

しかしこの二人、常人の剣技ではなかった。

柵内に入られたことで、ロジリア駐屯軍は弓矢が使えなくなった。

また、騎馬での浸入であったため、歩兵には攻め難く、キミヤスとシルベーヌの神技とも言える剣筋にロジリア兵は次々と打ち倒されていった。

そして、キミヤスとシルベーヌに気を取られている間に、マルク率いる部隊が扉を打ち壊すことに成功した。

マルク率いる部隊が突入すると、あっという間に乱戦の状況となった。

そしてついにヴァレリー率いる本隊が突入してきた。

「リオネク!部隊を率いて北門に向かえ!ラッセル!南門へ行け!」

ヴァレリーの指示でリオネクとラッセルはそれぞれ柵の内側の弓箭兵を蹴散らしつつ突進した。

「貴様がブランシュの頭か!」

そう怒鳴りながら馬を突進させてくる者がいた。

「ロジリアの第3駐屯軍を預かるモートレスだ!」

おおっ!とロジリア兵から歓声があがる。

「モートレス将軍だ!」

「皆殺しのモートレス!」

「ロジリアの鉄鎚!」

ロジリア兵達が口々にモートレスの異名を唱えた。

「小僧!直々に相手して遣わす!素っ首叩き落としてやる!泣いて詫びるなら目玉をくり抜くだけにしてやるぞ!」

ヴァレリーは、小さく首をすくめた。

「殿下!ここは私にお任せください。」

キミヤスがその細身の剣を抜き放ちヴァレリーの前へ出ようとした。

「キミヤス、あの程度のものなら心配に及ばぬ。いつもお前達がでしゃばるから私の剣が錆び付きそうだ。」

そう言ってふらりとヴァレリーは馬を進めた。

「ヴァレリーだ。」

そうひと言モートレスに告げて剣を抜いた。

「ひよっこが!」

そう叫びモートレスがヴァレリーに向かい突進してきた。

モートレスの剣は、幅広の両刃の剣だった。

分厚く重く、その重さだけで相手の剣を打ち折る程の物だった。

モートレスは、その剛剣を無造作に振り上げてヴァレリーに叩きつけてきた。

ゴウッ!と唸るような音と共に剛剣が降り下ろされた。

その剛剣をヴァレリーは細身の美しい剣で左へいなした。

「小僧!やるではないか!」

「でかいの、これでは錆び落としにもならん。もう少し頑張れ。」

ヴァレリーの言葉にモートレスはこめかみに血管を浮き出させ怒号した。

「おのれ!もう許さぬ!」

「誰も許してくれなどと言っておらぬ。」

さもつまらなさそうにヴァレリーは言った。

モートレスは怒りに顔を赤く染め、湯気だっていた。

「殿下にも困ったものだ。」

シルベーヌが敵の剣戟を蹴散らしながら言った。

「しかし相変わらず見事な太刀筋です。心配は要らないでしょうが、ちと遊びが過ぎますな。」

キミヤスも敵を次々と切り伏せながら言った。

モートレスが大剣を棄て、巨大な鉄鎚を従者から受け取った。

従者二人掛かりの代物だった。

モートレスはそれを右手一本で受け取り、自在に振り回した。

どの様な技巧をもってしても交わさせず、横殴りに打ち払うつもりだった。

「小僧!その頭を打ち潰してやるぞ!」

「剣なら未だしも、そのような鈍重な武器では話にならん。ますますつまらん。」

そう言ってヴァレリーはモートレスに向かいゆっくりと馬を進めた。

「死に急ぐか!」

モートレスが鉄鎚を回転させながら馬を突進させた。

距離がみるみる近づき、モートレスの鉄鎚がヴァレリーの頭を打ち潰そうと左顔面へ迫った。

大剣とは比較にならない轟音を発していた。

ヴァレリーは瞬間、馬を加速させ鉄鎚の回転円の内側へ入った。

同時に剣を立て、鉄鎚の柄を切断した。

切断された鉄鎚は、そのままの勢いで飛んで行き、ロジリア兵数人を薙ぎ倒した後、柵を打ち壊して飛び出していった。

「だから言ったであろう?話にならんとな。」

鉄鎚の柄を切断した直後、ヴァレリーはモートレスとすれ違い様に囁いた。

しかしその声はモートレスには届かなかった。

モートレスの首は既に胴体から切り離され宙を舞っていた。

モートレスを失ったロジリア駐屯軍は総崩れとなった。

北門と南門では、モートレスの副将達がオーレリアンとスバニールに打ち取られていた。

指揮官不在となったロジリア駐屯軍は、唯一ブランシュ・クルメチア連合軍の居ない西門に殺到し、逃げ落ちて行った。

ヴァレリーは敢えてそれを追わず、無駄な戦闘を避けた。

「キミヤス、シルベーヌ、ご苦労だったな。」

ヴァレリーは先陣を切った二人を労った。

「兄上!些か拍子抜けするほど手応えが有りませんでしたな!」

オーレリアンが剣を拭いながらやって来た。

「ヴァレリー閣下、お見事でした。あのモートレスを事も無げに討ち取るとは!」

スバニールが感嘆の声をあげた。

「なに、スバニール将軍ならば最初の一撃で済まされたでしょう。」

「いやいや、モートレスの鉄鎚はなかなかに厄介で御座います。二度ほど切り結びましたが、決着はつきませんでした。閣下は既に私など及ばぬ技量をお持ちですな!」

「まだまだですよ!さあ、陣の再構築にかかりましょうか。」

こうしてブランシュ・クルメチア連合軍はクルメチア奪還の最初の戦いに勝利した。

ガルカネラ砦を落としたヴァレリー。

ダレツへ向かったレアンドル。

ブランシュ国王と王弟は、それぞれの役目を果たしに異国の地を踏む。

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