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ダレツの憂鬱

同時期、ブランシュ北東のダレツ王国でも王位継承争いが繰り広げられていた。

国王ベルンハルトが病に倒れ、ブランシュ融和政策派の第1王子エルゲンベルトと、侵略路線の継承を唱える第2王子クラウスとの間で国論を二分する論争が繰り広げられていた。

病に倒れたとはいえ、ベルンハルトの意向は絶大で、エルゲンベルトも侵略路線を完全に否定しきれずにいた。

ベルンハルトは、何とか第1王子のエルゲンベルトに王位を譲りたかったが、ブランシュ政策の違いから、ベルンハルトの周囲ではクラウスを推す声が日増しに強くなりつつあった。

「ムートガルト、私は王位継承権を放棄しようと思っている。」

突然のエルゲンベルトの言葉に、側近のムートガルトは冷静に諌めた。

「殿下、それは何時でも出きる事です。国民は戦争に飽いております。ブランシュはやはり強大で、特に現状の体制は磐石でしょう。強硬侵略路線を続ければ、疲弊するのはダレツです。」

「しかし今となっては融和政策を引っ込めるわけにはいくまい。」

「はい。先ずはエルゲンベルト殿下が王位を継承することが最優先です。王位に就いてしまえば政策の転換は難しく有りません。

国王陛下が病床にあればブランシュ遠征も難しいと存じます。

この機に策を講じたいと思います。」

「いかがするのだ?」

「ブランシュに侵攻するのではなく、ブランシュの港を租借致します。」

「そんなことが可能なのか?」

「難しいでしょう。」

ムートガルトは当たり前のように言ってのけた。

「難しいと思いますが不可能では有りません。ブランシュは、我がダレツとの紛争に増してロジリアとの紛争に手こずっております。ダレツとの紛争に平和的な解決策が望めるならば、少なくともテーブルには着くでしょう。サボワールに城塞が出来たことは、強硬侵略路線派には不都合でも、エルゲンベルト殿下には決して不都合では有りません。」

「なるほど・・・」

「兎に角今はこれ以上強硬侵略路線派を増やさぬことが肝要です。」

「どうやって歯止めをかける?」

「侵略戦争をした場合と港湾租借した場合の損得を説きます。短期間でブランシュを従えられれば、その利益は計り知れませぬが、現実的にはサボワールを落とすことさえ困難だと思われます。

この先時間を掛ければ掛けるほど状況は不利になるはずです。

こちらが軍事行動を起こせば、逆にブランシュの侵攻を呼び込むことにもなりかねません。」

「具体的にはどうする?」

「宰相閣下を落とします。」

「エルリッヒをか⁉」

ダレツ宰相エルリッヒは、国王ベルンハルトの信頼厚く、人格者として評判だった。

ベルンハルトの軍事行動に対しても数々の諫言を厭わずに行ってきた。

立場上、エルゲンベルトにもクラウスにも明確な支持はしていない。

しかし、ダレツの財政を一番良く知っているエルリッヒは、多大な軍費を必要とするブランシュ遠征には明確な賛意を示していなかった。

ムートガルトは、そこを糸口としようとしていた。

「しかし慎重にな。強硬派に知れたら裏切者扱いされかねない・・・」

「はい、お任せください。」

ムートガルトは、同時にブランシュのレアンドル国王に密書を送り、港湾租借の可能性を探ることもエルゲンベルトから了承を取り付けた。

「それから・・・」

「まだ何かあるのか?」

ムートガルトは何時もの冷静な表情の下から、悪戯でもするような子供のような顔を見せた。

「レアンドル国王は独身です。」

「それがどうした?」

「マルティナ様を妃にしていただきましょう。」

ムートガルトの言葉にエルゲンベルトは口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。

「な、何を言い出す!あの姉上をか⁉」

「はい。ブランシュ国王ほどのお人ならマルティナ様に相応しいでしょう。」

「相応しいとかの問題ではない!ムートガルト!正気か⁉」

「いささか正気を失っているかも知れませぬが、しかしこれが成れば強硬侵略路線派は壊滅致します。」

「しかし、しかしあの姉上だぞ・・・」

「はい、ダレツの至宝と呼ばれるほどの美しさをお持ちのマルティナ様でございます。」

「見た目はなぁ・・・」

エルゲンベルトは深く深くため息をついた。

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