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ロジリア戦役4

「マルク!リオネク!シルベーヌ!中央突破を図る!行けっ!」

ヴァレリーは、自らも抜剣して突撃を指示した。


中段に位置していたオーレリアンは、マクシーム軍の後尾に舵をきった。

「後衛に斬り込んだらそのまま東へ転進!縦に切り裂く!」

オーレリアンも自ら抜剣して突撃を開始した。


「先頭を突き破る!深追いはするな!そのままクルメチアへ向かえ!ジロー!離れるなよ!」

レアンドルも北から突入した。

マクシーム軍は、ブランシュに南北と西から攻め込まれ、混乱した。

この時、ニコラス軍も南からアルバート・スバニールの指揮する軍勢に攻め込まれていた。


「ルキーチ!如何するのだ!そこまでブランシュが来ておる!」

ニコラスはルキーチを頼りすぎたと後悔した。

ルキーチは最終的に自分を死なすことで自身を満たそうとしているのではないかと思った。

「幸い東には敵がおりません。東へお逃げください。」

ルキーチは、さも面倒くさそうに答えた。

ニコラスはルキーチに見切りを付けるときだと思った。

ニコラスは、ルキーチには構わず、親衛隊に脱出を命じた。

ニコラス軍本陣は、ルキーチを残し東へ撤退を始めた。

そして、前線が破られ、アルバート・スバニールの連合軍がなだれ込んできた。

「ニコラスはどこかっ!」

アルバートはニコラスを探し駆け回った。

そこへ一人の男が道を塞いだ。

「ニコラスなら東へ逃げた。」

その男はルキーチだった。

「何奴っ!」

アルバートの誰何に、ルキーチは淡々と答えた。

「ニコラスを見棄てた軍師、名をルキーチという。」

「あの火攻めを企てたのは貴様かっ?」

アルバートか問いただすと、ルキーチはさも嬉しそうに喋りだした。

「なかなかの出来でした・・・マクシームの小僧ごときの浅知恵など、私にかかれば何ほどのものではない!あの燃え盛る炎の美しさ!人が焼け焦げる芳しい香り!天上の歌かと聞き惚れる断末魔の声!私を使いなさい!ブランシュのお人!私が・・・ガフッ!」

「よくわかった。お前は生かしておけない事がよくわかった。」

アルバートの剣は、ルキーチの口から突き刺さり後頭部から突き出た。

ルキーチは自分の死の瞬間、これまでにない悦びを感じていた。

しかし誰もそれを知ることは出来なかった。


ニコラス軍の後衛を突破し、マクシーム軍の北方から攻めこんだレアンドルは、マクシーム軍左翼に展開していたビショップ隊に食らいついた。

「足を止めるな!進め!進めっ!」

レアンドルは、マクシーム軍を素早く突き破るため、騎馬隊のみの編成で突撃していた。

「ジロー!付いてきているか?」

「はぁい!ここに居ますよ!」

ジローはそう言うと馬に一鞭当ててレアンドルの前に出た。

「ジロー!危ない!下がれ!」

「大丈夫大丈夫ぅ!」

ジローは軽々と馬を操った。

手綱を手放し、足だけで馬を操った。

そして弓を持ち矢をつがえた。

その様を見てレアンドルは驚いた。

足だけで馬を操るだけでも高度な技であるが、右手には矢が三本携えられており、器用に指の間に挟み、一本目を射たと同時に次の矢がつがえられ、続けざまに三本を速射して見せた。

直ぐ様右手には三本の矢が現れ、同様に射られた。

矢が尽きると、いつの間に段取りしたのか、大量の矢筒を持った従者から矢筒を受けとり速射を再開した。

しかも狙いは正確だった。

ビショップ隊も、ポーン隊程ではないが全身を鎧で覆っていた。

ジローは、その鎧の隙間から目や喉、脇に次々と矢を突き立てていった。

角度が悪く、目や喉を狙えない的には、膝裏に射かけた。

ジロー一人にビショップ隊は次々と射倒されていった。

「いつの間にこのような技を・・・」

レアンドルはまだ幼さが残る末の弟の実力をはじめて知った。

「いやぁ良い汗をかきました!」

10個の矢筒を空にして、ジローはようやくレアンドルの隣へ戻った。

「兄上が子供扱いするから、ちょっと弓を披露させて頂きました。あとはお任せしまぁす!」

そう言うとジローは後方へ下がった。

「何てやつだ・・・」

レアンドルの顔に苦笑が上った。

「良しっ!道が出来た!突っ切るぞ!」

オオッ!と雄叫びを上げてレアンドル軍は速度を上げた。


そのレアンドル軍の反対側からヴァレリー軍が突入した。

ヴァレリー軍の前にはポーン隊が立ち塞がった。

「蹴散らせっ!」

ヴァレリーは臆せず馬を突進させた。

さすがのポーン隊も、ヴァレリー軍の圧力に隙間が出来た。

ヴァレリーの左右にマルク、リオネクが並び、戦斧を振り回した。

斬れないならば叩き潰すとばかりに両者の戦斧は、ポーン隊を凪ぎ払った。

しかしポーン隊の装甲は厚く、中段で勢いを止められ、更にヴァレリーはマルク、リオネクと離されポーン隊の中で孤立してしまった。

ヴァレリーは、咄嗟に馬から降り、マルク達同様戦斧を握った。

「ブランシュ王弟ヴァレリーだ!命惜しくないものはかかってこい!」

一瞬気を呑まれたポーン隊だったが、直ぐに体勢を整え襲いかかってきた。

「ムンッ!」

気合い一閃ヴァレリーの戦斧は正確に二人の重装備兵の首を打ち払った。

しかし圧倒的に数の上で不利だった。

それでもヴァレリーは戦斧を振るい続けた。

幾人を討ち果たしたか分からないが、戦斧が砕けた。

ヴァレリーは腰の剣を抜き放った。

「やはりこちらの方が性に合っているな。」

独りごちて剣を振るい、正確に重装備兵の急所を切り裂いた。

しかし次第に押され、剣は刃こぼれし出した。

ついにはヴァレリーの剣は根本から折れ砕けた。

それでもヴァレリーは、敵の剣を奪い取り奮戦した。

「ヴァレリーッ!」

聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

「兄上っ!」

レアンドルが、ポーン隊の後方から馬を突進させてきた。

「掴まれっ!」

差し出されたレアンドルの右手を掴むと、ヴァレリーはヒラリとレアンドルの後ろに飛び乗った。

「無茶をするな!」

「すいません!」

詫びを口にしたが、その顔は笑っていた。

「ヴァレリー殿下っ!」

マルクとリオネクが乱戦を掻き分けてヴァレリーに並んだ。

「リオネク!弓を貸せっ!」

ヴァレリーはリオネクの弓矢を受けとると、レアンドルの後ろから横に体を倒し、前方の敵へ矢を射た。

神業と言っても言い過ぎでは無いほどの技量だった。

そこへ後方から一騎の騎馬が駆け寄ってきた。

「兄上ぇ!ヴァレリー兄上ぇ!」

オーレリアンにしては間の抜けた声だ。

しかし自分を兄と呼ぶのは、この戦場においてオーレリアンしかいない。

ヴァレリーは構わず矢を射続けた。

「ヴァレリー兄上!」

ついに横に並んだ騎馬を見た。

「ジロー?ジローなのか?」

「はぁい!ジローでぇす!」

間延びした返事をしながらも、ジローは弓を構え、ヴァレリーに勝るとも劣らない早さで矢を射始めた。

と、ヴァレリーは右前方に一際華美な一群を見つけた。

「兄上っ!右前方!恐らくマクシームです!」

「討ち取ってはニコラスを利するが?」

「討たぬまでも挨拶くらいはしておきましょう!キミヤスの足一本の代償は払ってもらう!」

レアンドルは直ぐにはヴァレリーの言葉を飲み込めなかったが、ヴァレリーに任せたロジリア対策である。

ヴァレリーの言に従った。

「右前方!敵の本陣と思われる!突撃!そのままクルメチアへ向かう!」

レアンドルは二時の方向へ軍を向けた。

レアンドルの横に空馬が引かれてきた。

「ヴァレリー殿下!」

シルベーヌがヴァレリーのサンダールミエールを引いてきたのであった。

「シルベーヌ!助かる!」

そしてシルベーヌは一振りの剣を手渡した。

「キミヤス殿の剣です!」

ヴァレリーは無言で頷き剣を受け取った。

サンダールミエールに跨がり、その首を頼もしげに叩いた。

「ルミエール、よく生きていた。もう少し力を貸してくれ。」

ヴァレリーの言葉が判るかのようにサンダールミエールは嬉しそうに嘶き、加速した。

次回でロジリア戦役終了です。

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