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3話 「命日」

夕日に5人の影が映し出される。



仲が良さそうだなあ────






犬の散歩帰りだった小山翔稀(こやま

しょうき)はそう思った。



弟の(じゅん)がまだ帰ってきていないそうだ。



弟とは昨日の朝から会っていない。実の兄が言うのもなんだが、弟には友達がいて、平日だというのに友達の家に泊まりに行くことなど何度もあった。


親に黙って泊まりに行くことも少なくなかったから、誰も心配はしていなかった。




「どーせまた友達んとこで遊んでるんだろうな…」




弟の潤と仲が良いのは、たしか中野アラタという男だった。





どうせそいつの家で遊んでいるのだろう────────





俺にも泊まりにいけるような友達がいたらなぁ…








翔稀(しょうき)は切ない気持ちにひたりながら、犬のフンをスコップで拾い、袋に入れ、深呼吸をした。










臭っ








先程見えていた5人はもういなくなっていた。




「先を急ごう!クロコマル!」



「ワン!」



翔稀(しょうき)はまた、愛犬と共にもときた道を走り始めた。







────────────────────


同時刻、橘病院(たちばなびょういん)



ガラガラッ




扉の開く音に、小山は目を覚ました。



家族だろうか?



小山は少し期待してみたが、その期待は呆気なく裏切られてしまった。





「社長…!」




小山の見舞いにきたと思われる人物は、バイトの雇い主、研究所の社長だった。




「何故ここに?」


とは言いつつも、小山の頭の中では答えはでていた。








『金』だ…



小山は直感的にそう思った。



人造人間(ホムンクルス)の処分こそ出来てはいなかったが、小山が任された任務(バイト)は『偵察』であった。



更に、小山の頭の中でその意見を有力にする理由は他にもあった。



それは社長の持ち物だ。自分の見舞いの為だけに、巨大なスーツケースを持ってきているのだ。金以外ありえない。





遂に自分への報酬が…!!




手足を失った後、後輩達には悟られないよう強がっていたが、内心では四肢満足な後輩を妬んでいた部分もあった。


更に、親や兄貴にもどうやって誤魔化そうか、これから手足無くしてどう生きていこうかと不安にもなっていた。






しかし、小山の頭にはもう心配の『し』の字も存在しなかった。





「今日は君に贈り物があってね。」


社長の一言で小山は我にかえる。






がしかしまた、実感とともに次第に手先が震えてくる。




武者震いだろうか…?







金金金金金金金金金金金ェ~






小山の思考回路からニヤケがこぼれ落ちる。





社長はにこやかな笑顔を添えて言った。






「話を最期(さいご)まで聞いてください」








「贈り物というのは金でしょう?」










小山はつい言ってしまった。








うわ~恥ずかし~



そう思いつつも、自分がどのようなことを言ってしまったのか、興奮しすぎてよくわからなかった。








隣の機械の血圧の数値は180を指している。













バン!












「え?」


小山の左肩から血が流れ落ちる。


一瞬の事を過ぎて痛いと感じる暇も無かった。


小山はただただ、自分の左肩を眺めている。




白に淡い水色の患者服の丸い焦げ目のついたようなところを中心にじわじわと赤く染まっていく。



「え?」




小山は社長を凝視した。


社長の手には拳銃が握られていた。



「だから話を最期まで聞きなさい。」


「え?」

小山はまだ痛みを感じていないようだ。


「私の君へのプレゼントは『死』です。」



「そんな…イヤだ…」

小山の肩がズキズキ痛み始める。









「調査お疲れ様でした。」





「そんな…ウソ…だろ…」




「さよなら」


「イヤだイヤだイヤだイヤだイ…」







バン!






銃弾は小山の左胸に的中した。















「静かになりましたね。」

念のため、社長は小山の首に指を当て、死亡を確認した…





ピ───────────────





設置されていた機械から、心肺停止を告げるアラームが鳴った。





医者が駆けつけてくる。



「クロダくん、これはいったい…」



クロダと呼ばれる社長はすまして答えた。



「報酬はやるから黙っておけ。シーツの交換と小山(コイツ)の入院履歴の消去も任せたぞ。」



医者が息を切らして言った。



「毎回毎回…この病院での殺しは辞めてくれとあれ程…」




「ここに1000万ある。」



クロダ(社長)はスーツケースから1000万と大きめのバックを取り出し、医師に放り投げた。




「わーかったよ。全く…」


医者は渋々金を受け取り袋に詰めた。



するとクロダは小山を持ってきたバックと1000万を入れるには大きすぎると思われたスーツケースに小山の遺体を詰め始めた。





「いったいそりゃ何に使うんだ?」



袋に金を詰め終わった医者がクロダに質問した。




「知るとこうなるぜ。」


クロダは小山の遺体が入ったスーツケースを少し小突いた。



背筋が冷たくなるのを感じ、医者は黙り込んだ。




「知り過ぎたらマズイことだってあるんだぜ。」



そう言ってクロダ…否、


社長の顔にもどったクロダはすました顔でスーツケースを引きずりながら帰った。


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