1話「日常」
今年の4月、晴れて高校生になり、1ヶ月が経過した。
高校生活にも慣れ、ようやくゆっくり過ごせる雰囲気になってきた。
友達もいるし、勉強もついていけてると思うし、充実した日々を送っている────
「おーい!カルマー!」
教室の窓から見える校庭から少年が2人、手を振っている。
片方は『安西圭介』。同じクラスの同級生だ。
中学の時からのゲーム仲間で、休日に遊んだりする。明るくやんちゃで子供っぽい性格な彼だが、洞察力に優れ、勘が鋭い、と言う面もあり、ピンチの時とかに頼りになる存在だ。その感の鋭さ持ってしてか、彼はテスト等での選択問題を絶対間違えない。
英語は読めないが、英検準1級を持っている。
その隣にいるのが『山崎シユン』。
コイツも同じく中学の頃からの馴染みで、仲がいい。中1の頃はよく、変わった名前が原因で2人してよく馬鹿にされていた。そのせいか、彼はいつでも平静で、気さくな性格だ。同級生にも敬語を使っている。
そんな彼のいいところは、思考力や発想力に長けている、ということだ。
数学テストの裏にある応用問題で点をおとしたところをみたことがないくらいだ。
「おーい!カルマー!!無視すんなよぉー!サッカーしよーぜー!」
「あんざい!すまないが答えはNoだ。」
「なんでだよー!ケチ!」
「授業中だからだよ!」
あんざいとシユンは男子のアホな連中らとからんで授業中にサッカーをしている。
アイツら単位欲しくないのか?
単純にバカなのか?
…しかし、テストの点ではアイツらには勝てねーんだよなぁ。
ハァ……
そんな事を考えながら、今日も平凡な日常が過ぎていく。
土地的に、地震がくる恐れはほぼ無いし、北の国のミサイルの射程範囲外の為、不安なことなどなにもない。
放課後、5時を告げるチャイムが
街全体に響きわたった。今日もとくに何も無く、一日が過ぎていく…
そんな中で俺は少し日常生活に刺激を求めていた。
「あー。疲れた。」
帰ろうと自転車小屋に行くと、そこにはあんざいとシユン、それからアホ男子タロウが汗びっしょりで立っていた。
「お前らずっとサッカーやってたの?」
「いや。バスケもした。」
あんざいが即答した。
「ていうかシユン部活は?」
あんざいと俺は運動部で、職員会の日には顧問がいなくなる、という理由で今日は運動部のみ休みなのだが…
「確かに。シユンは科学部のはず…何かあるのか?」
あんざいは、こんな時だけ目の色が変わる。
「ああ。今日は部活を休んで小山先輩の見舞いに行くんですよ。」
「へー。俺もいっていいか?」
ここでアホ男子のタロウが初めて口を開く。
「構いませんが、先輩の前での私語はつつしんでくださいよ。」
シユンはいつでも敬語だから、なんだか堅苦しい。
「私も同行しよう。」
「?!」
「だ、誰だ?!」
カルマの背後には、いつの間にか少女が立っていた。
「おお、カッピーじゃねーか!ヨッ!」
タロウが馴れ馴れしく少女に寄っていく。知り合いなのだろうか?
バキッ
タロウと少女から目をはなしたとたん、辺りに鈍い音が響き渡った。
…え?
カルマには一瞬何が起こったか分からなかった。体重130kgのタロウを小柄な少女が殴り飛ばしたのだ。
「馴れ馴れしくするな。」
少女は尖った口調でいうと、くるりとむきを変え、シユンの方に向かってきた。
「私も同行しよう。小山潤とは幼馴染みなんだ。」
結局あんざいや俺も同行することにし、5人で小山先輩の見舞いに行くことになった。
「シユン、あのさー。小山さんなんで入院してんの?」
あんざいがシユンに聞いている。
たしかにちょっと気になるな、とカルマも思った。
「分かりません。午前中は風邪で休むと聞いていたのですが、情報屋のナオキくんによると、この先の橘病院に入院中とのことだったので。」
「なにかあったのか…?」
カルマはシユンに聞いた。
「風邪こじらせて入院しただけなんじゃね?」
無神経なタロウは顔の紫色になったアザをかばいながら言った。
「黙って歩けねぇのか?ガキ野郎共。」
先程タロウを殴り飛ばした少女…
カッピーと呼ばれる少女だ。やはり口調が尖っていて迫力がある。
カッピーを除く4人は口を閉じ、先を急ぐことにした。