Secret4
蒼葉先輩によると(部長である龍先輩は、少しだけ説明した後、意味不明だと部員からブーイングが来たから蒼葉先輩にバトンタッチした)、この組織は10年前からあるらしい。
科学が著しく発展した日本の裏社会は、公にはされていないものの、地球とは異なる世界に行く方法がないかと考えを巡らせていたのだ。そんなある日、一人の少女が行方不明になった。普通ならば、テレビで放送されてそこで終わる。しかしいくら捜索しても、目撃者もいなければ、通信記録もない。そして、とうとう捜索が打ち切られたのだ。
「ある一人の学者がね。異世界に行ったのではないか、と言い出したの。」
当然、皆は冗談だろうと信じなかった。しかし、その二年後、その少女は帰ってきた。二年前と変わらない姿で。
これは誰もが驚愕したらしい。普通ならば、時がとまったまま生きて帰る事のできる時間ではない。
「その時から、日本は極秘で調べ始めたのよ。そして数年後、向こうの世界に行ける方法を見つけて、今に至るっていうわけ。この事は、まだほとんどの人は知らないわ。白百合学園でも社会研究部に入っている生徒しか知らないもの。」
なるほど、分かりやすい!
一瞬、部長は龍先輩ではなくて蒼葉先輩がなれば良かったのに…と思ってしまった。
「まあ、俺達は異世界に行って色々な事を学ぶって事だよ!」
龍先輩、それは省略しすぎでは…。
でも、違う世界かぁ…行ってみたいなあ。
すると、龍先輩が何かを思い出したような顔になった。
「あ、そうだ。三日後に異世界調査隊を派遣するんだけどまだ誰が行くか決めてないんだ。じゃあ沙羅。お前行ってきたらどうだ?」
「ええっ!いいんですか!?」
「それはいいかもね。やっぱり話しを聞くだけじゃなくて実際にどんな感じなのか見てみないと!」
百聞は一見にしかずだしね、と蒼葉先輩がつぶやく。
「わ、私一人ですか?」
と言った途端、皆が笑いだした。
「そんなわけないじゃん!沙羅ちゃん一人で行ったら絶対迷いますよ!」
と、蘭ちゃんが言う。
「やっぱりそうだよね」
絶対、と言われたのが少し悲しかった。でも、私はまだたったの一日しかここにいないのに、楽しいと思える自分がいた。何より皆凄く気さくで、分からない事は教えてくれる。それと共に、あぁここは本当に社会研究部じゃないんだな、と実感した。だけどこの部活、このメンバーならずっといられる気がした。
「…で、行き方なんだけどな。」
龍先輩が話しを変え、部室の奥へ歩きだす。そこには本棚以外何もない。龍先輩がついてくるように促し、私も歩いていくと、本棚の中でもひときわ目を引く分厚い本を抜き出した。すると、ゆっくりと棚が動き始めたのだ!だんだん部屋への入口だということが分かってくる。しばらくして動きが止まった。驚きをなんとか隠し、中に入っていく。
電気がつけられると、私はとうとう驚きを通り越し、驚愕してしまった。
「ここが裏の極秘任務をする、この学園最大の秘密事項、《Top Secset》研究室だ!」
まず最初に目についたのが、右側にある尋常ではない数のファイルが入った、図書館と言うには幾分狭いだろう本棚の数々。真ん中は会社にあるような事務用の机が四台と、その上にパソコンが一台ずつ。左側には、エレベーターが一つあり、数字の書かれたボタンがついている。奥にはスクリーンのようなものが壁に貼られていた。
「……」
言葉が出て来ない。
…ここ、本当に学校の部室だよね?
秘密事項と言われただけあって、とにかくすごい。というより、それ以上言葉が浮かんで来ないと言った方が正しい。あまりの整備の良さに、驚きと共に不安さえ覚える。
「このエレベーターで異世界に移るんだ。まぁ、三日後実際に見ればわかるさ!」
「……。」
何も話さない私に、龍先輩が苦笑いし、頭をぽんぽんとたたいた。
「まぁ最初は馴れないだろうけど、時間が解決するさ。俺も結構驚いたしな。」
と言い、表の部室に戻った。
「あ、戻って来た!」
蒼葉先輩が皆に声をかける。…あれ?私と龍先輩がいない間に人数が増えている。
「あの、皆さんも部員ですか…わぁっ!!」
私がいい終わるか終わらない瞬間、誰かが飛びついてきた。つ、強い力で身動きできないよ!
「やあ〜蒼葉サンから聞いたで、沙羅ちゃんゆうらしいな!うちは二年の茜。よろしくな♪」
「よ…よろしく、お願いします…」
苦しい〜。と思いながら言ったら、蒼葉先輩が気付いたらしく、茜先輩に離すように言った。
「そろそろ離してあげないと、沙羅ちゃん気を失っちゃうわよ。」
茜先輩ははっとした顔で、腕の力を緩めた。
「ごめんな、沙羅ちゃん、うち力の加減すんの下手やねん〜。それに沙羅ちゃんめっちゃかわいいんやもん!な、今からでもいいからうちの妹にならへん?」
と言った所で、また力が強まる。
「はい、ストップ。そのへんでやめとけ、茜。沙羅が倒れそうだぞ」
茜先輩の暴走(?)を止めた人も、初めて見る人だった。
「茜と同じで二年の山久。よろしくな。」
「よ…よろし、く…」
ぱたっと茜先輩に寄り掛かるようにして倒れた。
「沙羅ちゃん!」
「沙羅!?」
私の意識はここまでだった。
* * *
辺り一面闇の中に、私はいた。光も何もない中でひたすらに走っていた。
別に、化け物や怪物が襲ってきて逃げているのではない。
ここには、自分しかいないという孤独感に襲われて、早くこの場所から出たいという願いが私の足を動かしていた。
『…さ…ら』
「!!!」
誰かに名前を呼ばれた気がして立ち止まった。
暗闇の中遠くの方に淡い光が光っている。
『沙羅。』
今度は、はっきりと呼ばれた。この声には聞き覚えがある…。
「…お母さん。」
お母さんの顔は、あやふやでよく覚えていないけど、声はしっかり覚えている。
透き通っていて、私をいつも安心させてくれたこの声はまさしくお母さんだ。
『こっちに来てはだめよ。沙羅。』
遠くで光っていた光が、強くなった。
私は、光に向かって走りだした。
さっきまでは、早くこの場所から出たい感情が強かったけれど、今はお母さんに会いたい気持ちの方が勝っていた。
『あなたは、こちらには来てはだめ。こっちには、来てはいけないわ。』
また、光が強くなった。
目が開けられない。
「!!!?」
強い光は私を包みこんだ。
* * *
「…沙羅。」
花憐ちゃんの声がして私は目を覚ました。
「かなり、うなされてたけど大丈夫?」
「…うん。」
よく覚えてないど変な夢だったなぁ…。
「えっと…ここは?」
ふかふかのベッドで寝ていたことに気がついた。
確か、さっきまでは部室にいて意識が飛んで…。えーと、それから…どうなったんだろう。
「ここは、女子寮です。」
蘭ちゃんがソファーに座って本を読んでいた。
「この部屋は、沙羅の部屋よ。急に沙羅が倒れるんだもの。びっくりしたわよ。蒼葉先輩と茜先輩と一緒に沙羅を運んできたの。女子寮には、龍先輩たちは入れないからね。」
花憐ちゃんは、優雅に紅茶を飲んでいた。
ここ、私の部屋なのに二人してかなりくつろいでる。まぁーいっか。
花憐ちゃんは、私のことを呼び捨てで呼んでいた。
それって、親しくなったってことかなぁ…。
部屋全体を見渡すと、キッチンや机、本棚、液晶テレビなどがあり、かなり充実して広い部屋だった。
「沙羅、蘭。私お腹空いたわ。」
声からして、花憐ちゃんは少し不機嫌だった。
「そうですね。ダイニングホールに行きましょうか。」
確かに、お腹空いたなぁ。私が意識を失ってかなり時間がたっていたようだ。
ダイニングホールって、食堂ってことかなぁ?
「じゃあー早く行きましょう。」
花憐ちゃんは、早々と部屋から出ていった。
「花憐さんは、お腹がすくと機嫌が悪くなるんですよ。見た目からだとかなりギャップがありますよね。」
蘭ちゃんは、にこやかに笑って言った。
蘭ちゃんって、おっとりした人だなぁ…。男の子がほっとかなさそう…。
花憐ちゃんは、美人系で蘭ちゃんは可愛い系かな。
そういえば、蒼葉先輩は大和撫子系だったし、茜先輩は元気な人だったけど顔はかなり綺麗だったし…龍先輩は、爽やか体育会系…京くんと山久先輩もかなりかっこよかったような気がした…。みんなかなりモテてそうじゃん!!!
凡人の、私がいていいのかっ!!!?私、影薄くなりそう…。
そんなことを考えているうちにダイニングホールに着いていた。
テーブルがあちこちにあり、生徒たちが座って食事を楽しんでいた。一言で言うと、うーん、高級レストランみたい!!
「ダイニングホールは、男子生徒と一緒なんだね。」
適当に空いているテーブルの椅子に座り向かい側に座った蘭ちゃんに尋ねた。
「はい。ダイニングホールを中心に東は男子寮、西は女子寮に別れてるんです。」
「へぇー。そうなんだぁ。」
「ご注文は?」
ウェイトレスがどこからともなく現れた。
…自分で、注文して取りにいかないんだぁ…ここが、お金持ち学校ってことを忘れてたっ!!!
「じゃぁーAセットを3つお願い。」
花憐ちゃんが、テキパキと注文を済ませると、
数分後、美味しそうな料理のフルコースで出てきた。慣れないフォークとナイフを使い、全部綺麗に食べた。
「美味しかったっ!!2人とも食べ方が凄く上品だね!!!」
「そうですか?」
蘭ちゃんは、不思議そうに首を傾げた。お嬢様にとって、上品な食べ方が当たり前なんだろうなぁ。
「そういえば、社会科研究部の部員って今日会った人全員なの?」
私は、花憐ちゃんに尋ねてみた。
「ううん、違うわ。まだ男子が1人いるの。」
「まだ、いたんだぁ。会ってみたいな。」
せっかくだから、今日中に全員ね部員の人の顔と名前を知りたかった。
「あっちにいるわよ。沙羅。」
花憐ちゃんの指差した先には、女子生徒の大群が集まっていた。
「…あの中!!?」
凄い女子の大群なんですけど!!
「ええ。そうよ。」
私たちの、声が聞こえたのか女子生徒の大群の中にいた1人の男の子が手を振って近づいてきた。
「蘭さん。花憐さん。」
蘭ちゃんと花憐ちゃんの名前を呼んで来た男の子の顔を私はまじまじと見てしまった。
わぁーーー王子様みたい!!