Secret1
運命とは気まぐれなものである。
普通の生活をしていたのが、明日になると180度変わっているかもしれないのだ。
当然、平凡な一般人の私が、超お金持ち学校に転校することだってありえるのだ・・・。
* * *
今日から私は、この高校で一年間過ごすことになる。
超名門校・私立白百合学園。
日本でも有数の、超エリート学園だ。この学園は小中高一環で、全寮制になっている。家に資料が届いていたから、なんとなくすごい学校なんだなぁとは思っていた。
・・・でも。
「何、このばかでかい校舎は!」
想像していた以上に大きい。大きすぎる。
校門らしき所にはものすごく大きな鉄の柵があって、学園の周りは上等な煉瓦でぐるりと囲まれており、顔を上げると柵の少し向こうにこれまたばかでかい建物がそびえたっている。そのてっぺんには、チャイムを鳴らすのだろう、大きな鐘があった。
「そんなに驚くことですか?沙羅さん。」
私の隣に立っている男性は、不思議そうに私を見ていた。
私は決して身長が低い方ではないけど、この男性に完璧、見下ろされている。190センチ位の身長で、整った顔立ち、短く切られた髪は、ところどころ白髪が混じっていた。典型的な紳士だ、きっと。
この男性は、超エリート学園―――私立白百合学園―――の理事長であり、私のお父さんの古い友人でもある。
「私みたいな平凡で普通の女子高生はみんな驚きますよ!」
「でも、ここに転入するからには平凡な高校生活は送れなくなりますよ。」
理事長が苦笑いをする。
「平凡な高校生活かぁ・・・。」
そう、一ヵ月前までは、普通の高校生活を送っていたんだ。地元の高校に入学し、新しいクラス、新しい友達、新しい環境の中で過ごしていた。普通に恋愛だってしたいと思っていた。けれど入学してたった五日で、無残にも私の憧れは砕け散った。
学校から帰宅後、家にいるはずのお父さんの姿がなかった。お母さんは、私が五歳の時に家を出て行ってしまった。ずっと昔のことだから、記憶は曖昧だけど、お父さんとお母さんの仲が悪かったわけではないと思う。いや、むしろ仲が良すぎたくらいだ。それなのに、何故お母さんがいなくなったのか、あの頃の私は不思議でたまらなかった。
『おかあさん。まって!どこいくの!』
玄関から出て行こうとするお母さんを泣きながら必死で止めようとした私。
お父さんは、私の横で悲しそうにお母さんを見つめていた。
『また、いつか会える日が訪れるのを願っています。』
そう言って、お母さんは静かに出て行った。
『まって!おかあさん』
私は追いかけようとしたけど、お父さんに抱き上げられた。
『おとうさん!おかあさんがどこかいっちゃったよ!』
泣きながら言う私に、お父さんは優しく私の頭をなでた。
『大丈夫。時が来ればまた三人で暮らせるよ。』
お父さんは、目に涙を浮かべてつぶやいた。
その日から、私とお父さんの二人暮らしが始まった。
お父さんは考古学者だった。外国に行くこともある。そのため、家にいないことが多く、私が自分で夕ご飯を作って一人で食べることもしばしばあった。
お母さんが出て行ってから十年がたったけど、今までお母さんから連絡が来たことは一度もなかった。今となっては、お母さんの顔もどんな顔だったのかはっきりしない。何度か、お母さんがなぜ出て行ってしまったのかお父さんに尋ねたことがあった。しかしそのたびにお父さんの表情は暗くなり、今は何も言えないと言い、その場から逃げて行ってしまう。私も、もうお父さんに尋ねるのをやめることにした。お父さんの悲しそうな顔は見たくなかった。
お父さんと私の二人暮らしは決して裕福とは言えなかったけど、普通の暮らしはできていた。お父さんとも仲良くやっていたし、お母さんがいない生活は苦にならなかった。
そんなお父さんが、姿を消した。家中探し回ってもどこにも居ず、外に散歩にでも行っているのだろうとおもったけど、リビングの机の上に手紙が置いてあるのを見つけ、手に取った。
それは、私に別れを告げる内容だった。
「―――沙羅へ
お父さんの勝手な判断でいなくなってすまない。しかし、お前と離れなければならない程の大変な事が起きたんだ。昔からお前は、お母さんがなぜいなくなってしまったのか、疑問に思っていただろう。実はお母さんは、ある事情があってここにいられなくなってしまったんだ。その事については時がくれば分かるだろう。おまえは今度から別の学校に転校してもらおうと思う。これも勝手に決めて本当にすまないと思っている。理事長は私の昔からの友人だから、何かと世話をしてくれるだろう。次、沙羅の所に帰って来る時は、お母さんと三人で暮らそうな。じゃあ、しばらくお別れだ。
父より」
私はこの手紙を読んだ後、大泣きしてしまった。
「なんでお父さんもお母さんも勝手にいなくなるの!」
しかも、手紙の中にはいなくなった理由も、二人はどこにいったのかも、私が知りたかった事は何一つ書かれていないのだ。いつ会えるかも分からないのに、全然知らない所で、友達が一人もいない学校で帰って来るのを待てっていうの。
ちょっぴり自暴自棄になって、ふともう一度机を見ると、大きな封筒が置いてあった。
「私立、白百合学園・・・?」
と書かれている。きっと学園の案内だろう。字の隣に、真っ白な百合をモチーフにした校章が付いていた。私は中に入っていた紙を取り出した。小中高一環の全寮制と書いてある。めずらしいなあと思っていたら、ある事に気が付いた。そういえば、白百合学園て・・・
「超〜〜〜お金持ち学園じゃなかったっけ!?」
友達から聞いた事がある。確か、共学で、頭は恐ろしく良くて、社長や財閥の子供がそろう日本でも有数のエリート中のエリート学校だと。
そんなまさか、と思わずにはいられなかった。私は一般庶民なのだ。頭が良いわけではないし、特別すごい事ができるわけでもない。
「意味わかんないよ、お父さん!!」
私は天井に向かって叫んだのだった・・・。
「どうしました?」
と、理事長に声をかけられて、我に返った。
「いいえ、何でもないです!」
まぁ過ぎてしまった事はもう仕方がない。昔よりも、今の方が大事なのだから。
気が付くと、正面玄関に立っていた。
理事長は、玄関の扉をゆっくりと開けた。
「!!何じゃこりゃぁ〜!!」
扉の向こうに広がっている光景に思わず大声を出してしまった。本当にここ、学校なの!?
「もちろん学校ですよ。」
「私、声に出してました?」
「はい。バリバリ出てましたよ。(笑)」
理事長はにっこり笑って言った。
それにしてもすごい。目の前に広がる光景に唖然としてしまう。見た目は中世のヨーロッパのお城の中みたい。絶対高そうな絵画や売れば百万は軽く越すだろう大きな銅像が至るところに飾ってある。長い廊下を理事長に案内されながら歩いていく。
心地よい風が大きな窓から入り、私の髪を揺らす。
なんだか、眠くなってきた・・・。まだ朝早いせいか、生徒は見当たらない。いつのまにか理事長室に来ていた私は、理事長に促され、ふかふかの高そうなソファーに座った。理事長は机を挟んで向かいのソファーに座る。
「眠いですか?沙羅さん。」
「あっ・・・大丈夫です。」
あくびをしている所を見られてしまった。は、恥ずかしい・・・!
「無理をしないでくださいね。よく眠れていないのでしょう?」
「・・・。」
確かに、お父さんが出て行ったあの日からあまり寝ていない。というか、寝れない。
「・・・。あのぉー、理事長は父がどこに言ったのか知っていますか?」
ずっと聞きたかったこと・・・お父さんの失踪の謎。お父さんの昔からの友人である理事長なら何か知っているかも・・・。
「・・・すみません。私からは何も言えません。」
「そうですか・・・。」
時が来れば分かるのだろうか・・・。はたしてその時はいつだろうか・・・。
長い沈黙の後、理事長が思い出したように声をあげた。
「そういえば、まだ沙羅さん、制服をわたしていなかったですね。」
「へっ・・・あっ、はい。」
突然のことでビックリした。確かに、前通ってた高校(たったの五日だけど・・・)の黒いセーラー服を着ている。
「ここ白百合学園の制服は、白と黒のブレザーから選ぶことができますが、どうします?」
「貴方には白の方が似合うと思います。」
「!!!」
第三者の声がして後ろを振り向いた。そこには、茶髪の髪をくるくるに巻いた美少女がたっていた。
誰、この子??
「お父様もそう思いますでしょ?」
「学校ではお父様はやめなさい。理事長です。」
理事長が険しい顔で美少女に言った。
・・・てゆうか、今「お父様」って言ったぁ!?全く話が読めないんですが・・・!
□■To be continued...■□