2話: 悪役令嬢はお父様に感謝を捧げる
投稿して一夜明けて…びっくりです。パニくっております。
ふと思いついたまま書きなぐった拙文にブックマークを付けて下さった皆様、設定もストーリーも、はたまた登場人物の名前さえ考え無いまま投稿してしまった小説に評価をして下さった皆様、本当にありがとうございます。これからも精進します…が、行き当たりばったりは作者の性格なので不治の病かもしれません。
2~3話で終る予定だったのですが、それもまた判らなくなってきた無計画な作者で申し訳ございません。
「それで、あれで全員だったのかしら?」
「いえ、一応見込みがある家のご当主様方にはそれとなく『明日王太子殿下が学院で何かやらかしそうなので、巻き添えにならぬ様に明日は学院をお休みさせる方がよろしいかと存じます』と伝えたのですが、宰相様ご子息と教皇様の御長男様、後は伯爵位の方が数人、言われた通り本日欠席して下さったのですが…」
「親の言う事を聞かずに出席してしまったと?まったく、こちらの好意を無にするなんて!そんな家は早晩没落するわね。でも、困ったわ。思いの外、殿下に追従…いえ違うわね。あのミシェル様に夢中になられている方が多いのねえ」
「恐れながらお嬢様、そうでは無いのです…実は、【闇夜の鴉】の名でご忠告した貴族の方の中には、わざと息子に伝えなかったご当主様もおられるのです」
「ん?知っていて何も伝えなかったというの?」
「はい。中には『何を仕出かすのか知らぬが、これを汚点に廃嫡出来るならばありがたい事だ。我が家には優秀な次男がおるゆえ、このままわしは何も聞かなかった事にする』と仰るお家の方が数人、『長男として遇して来たが、実はあやつは妻の不貞の子でな。我が家は娘に婿を迎えて相続させる夢が叶うやもしれぬ。ありがたい事じゃ』と仰る方が御一方…ちなみにご令嬢の母上様は今の奥様では無く、元侍女だそうです。ご令嬢はとある子爵の御養女となられております」
「はあ……感謝されても困るわ。だって爵位召し上げ、領地返還くらいですめば良いけど下手をしたら連座で物理的に首が飛ぶかもしれないのよ。ご当主方も現実が良く見えてらっしゃらないみたいねえ」
「…我々も殿下が何を仕出かすか詳しい事は言わずにいたので仕方の無い事かと」
「そうね。私達一族の事はごく一部の方しかご存知無いし、まあ宰相様ご子息と教皇様の御長男がいらっしゃらなかっただけでも良いとしましょう。どうせあのお二方は息子に内々に私達の事を教えてあったのでしょうから」
「それと、大変申し上げ難いのですが我が一族からも二人、先程の場面におりました。この二人の家の始末は我等にお任せを…」
「何て事…一族の者まで…恐ろしきはヒロイン補正ゲフン、いえミシェル様の魅力が一族の理より強かったのですね。あの方の【魅了】は強力でしたもの。仕方ありませんわ。判りましたジル、その2家は本日中に何とかしてね。殿下やミシェル様にいつ喋ってしまうか判りませんもの。早々に手を打ちましょう」
「かしこまりました。ですが、その心配は無用かと。その二人はどちらも妾腹の御子様でして、一族の事は何も知らないかと」
「それでもよジル。一族の者が当主の血筋筆頭である私に敵対するなど妾腹だとて許される事ではありません。そもそも私達は側室、愛妾を持つ事を許した覚えは無くてよ」
「申し訳ありません!正妻様を亡くされた方々だったのでいずれ正妻に上げるのだと思い…我等の失態です。直ぐに手を打ちます」
「任せたわよ。貴方に任せておけば何も不安は無いわ。私の愛しい鴉さん?」
「お戯れを…私はお嬢様のお側でお嬢様の為にだけ生きて行ければ幸せな真っ黒に汚れた鴉でございます」
「おやめなさい!自分の事を『汚れた』などと言うのは許しません!私が側に置いている鳥が汚ない筈が無いでしょう?貴方は黒く艶やかな闇の光を纏った私のオニキスよ。ねえジル、早くこの国を出たいわね」
「お嬢様の仰せの通りに…」
「殿下…」「王太子殿下…」「ダリウス様…」
「皆が心配する様な事は無い。あの悪辣な貴族の風上にもおけぬローズマリーがこの国から去るのだ。これは喜ばしい事ではないか!」
「ダリウス様、私本当にローズマリー様に…」
「ああミシェルは何も心配するな。そなたのことを疑うなどという事は微塵も無い。どうせアーレスバッハ家の息のかかった者に命令して嫌がらせをしていたのであろう。私は何があってもミシェルを守るから安心してくれ」
「ダリウス様!私もダリウス様のお側でダリウス様のお力になります!こんな私では頼り無いでしょうけど、私だけではありませんから!ここにいらっしゃる皆様も私達の為に協力してくれると思います。ねえ皆様?」
「はい!ミシェル嬢と共に殿下にお仕え致します!」「私も」「僕も」「俺もだ!」
「ミシェル、ありがとう!それに皆の者も、私が王になった時は皆の力が必要だ。ここには軍部、外交部、財務の長の子息達が集まっているのだ。更には教会の人間もいる。これだけの人員を掌握する事が出来たのはミシェルのお陰だ。ミシェルがいなかったら集まらなかった得難い人材だ。本当にミシェルはこの国を導く女神の様だな」
「そんな!私はただダリウス様のお側にいられるだけで幸せなのです!ローズマリー様には本当に申し訳無いと思いますが私はダリウス様が…」
「判っている。今まで辛い思いをさせたミシェルを必ず幸せにすると誓う。私も急ぎ城へと戻りあの女が書類を宰相に提出したか確認してくる。ミシェルは何の心配もせずに今日はもう寮へ戻れ」
「で、でもダリウス様だけでは心配です!相手はあのローズマリー様ですし、宰相様も怖い御方だと噂で聞いています。どうか私もお連れ下さい!私の気持ちを宰相様や国王様にお話したいんです!そうすればきっと判って下さいます!」
「ミシェル…それほどに私の事を!判った。一緒に行こう!」
「恐れながら!」
「何だ?」
「私達もお連れ下さい!ミシェル嬢はか弱い女の身。何かあれば身を守る術がありません。アーレスバッハ公爵家は色々と噂のある家。万が一の時は私達がミシェル嬢をお守りします!」
「皆様…!そんなにまで私の事を心配して下さるなんて!ああミシェルは何て幸せ者でしょう!殿下、私からもお願いいたします。皆様方と一緒にお城に連れて行って下さい!」
「判った。では皆で宰相の所に行こう。そしてアーレスバッハ公爵とローズマリーが婚約破棄の書類を出すのを確めたら、今度は私とミシェルとの仲を認めさせるのだ!皆がいればミシェルが低位の男爵令嬢だとしても必ず認めさせる事が出来る筈だ!」
「お父様お待たせして申し訳ございませんでした。ジルより話をききましたわ。何でも獅子身中の虫がいるとか?」
「ああローズが気にする事は無い。虫は虫らしく地べたを這っていれば良いものを紛い物の光に誘われた様だな。まったく羽根も無いのに光に近付けると思ったのか…紛い物でも明るい物には吸い寄せられるなど、さすが虫だな。大丈夫だジル達に任せておけば、紛い物の光も集まる虫どもも身の程を知るだろう。それより急ぐぞ。思いの外、殿下達の動きが速い。何やら婚約破棄の後の事までねじ込むらしいぞ。クククッあそこまで阿呆だといっそ可愛げも湧いてくるわ」
「お父様ったら…いくら何でも言い過ぎですわよ。でも、他の皆様はともかくミシェル様は低位の男爵位で未婚未成年の女性がお城に、それも宰相様の執務室まで通されるのでしょうか?いくら王太子殿下が命令したとしても城の警備や近衛の騎士様方は聞き入れないのでは?」
「この父に抜かりは無い。警備にも近衛にも我が一族が入っておる。既に何も言わずに通せと通達済みじゃ。さあ、この三文芝居の幕を引きに行こうか」
「まあ怖い。ですが、そうなると宰相様が何だかお可哀相な気がいたしますわ。ただでさえお忙しい方なのに、これでまた仕事が増えてしまってお体を壊さなければよろしいのですが」
「ふんっ ローズがあやつの事など心配せずとも良いのだ。あやつにも利が有るのだ。その利を得る為に少々残業が増えるくらい何程の事か!まったく、あやつの得になる事をしなければならんとは!ローズの為で無ければ絶対にせぬものを!」
「ありがとうございますお父様。お父様のお陰で私は解放されるのですわ。お父様、ローズはお父様に心からの感謝を捧げますわ!」
「う、うむ…ローズがそう言うならば、この父は持てる力の全てを使ってローズの憂いを晴らそう!」
「旦那様、お嬢様、そろそろ王城でございます。どうやら虫よりは早く着いた様で何よりでございます。大丈夫だとは思いますが一応宰相様のお部屋の方に3人潜ませております」
「まあジルったら本当に優秀ね。貴方が手配りしたのなら万が一の事など起こらないわ。安心して宰相様や後から来る方々にお会い出来るわ。
ではお父様、参りましょう。ジル、行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ。御武運を」