七話 ガチレズの家に居候することになりまして
説明しよう! 魔法少女クリムゾン・レッドこと桜庭可憐(十五歳、中学三年生)は頼れる人がいない! 知り合いは秋空夕日先輩、お水博士、ガチレズの白井澪だけである!
ここでクエスチョン! そんなあたしが住む場所を失った時(住所不定中学生という不思議な肩書)頼りになるのは?
お水博士は腐っても男、可愛いあたし(可愛いは作れる!)を襲うかもしれないのでNG。
澪はあたしを襲うかもしれないのでNG。
そうなると答えは一番! 夕日先輩! となるわけですけど! 夕日先輩は現在高校二年生で全寮制の女子高に通っています。ちなみにお嬢様学校です。はい。
ここでクエスチョン! 男と女襲われるならどっち?
「究☆極☆の☆選☆択」
はっきり言ってまだ十五歳の少女(魔法少女だし少女でいいよね?)に突き付けられた選択肢ではない。
まぁ、はっきり言えばそろそろ五十も見えてきたお水博士が妥当だ。しかし! お水博士には離婚して離れ離れになった娘がいる! その娘の代わりにあたしが何をされるかわからない! そういった意味では貞操は守れるかもだけど(そもそもこんなガリガリに欲情するのか?)お水博士とはビジネスライクな関係を築き上げたい。
要するにお水博士は現実的ではないということだ。そもそもあのおっさんがどこ住んでいるかも知らないし。
となると、こうなる。
「可憐ちゃんが家にいるなんて……幸せ……」
これは……あれだ……
\(^o^)/オワタ(顔文字うまく反映されるかな……)
「ウン、アタシモミオノイエニコレテウレシイ」
心を込めてお礼を言う。
「ううん、いいんだよ。友達でしょ?」
ウン。トモダチダヨー。ミオマジシンユー。英語にすると頭文字に「S」が入るフレンドになるかもだけどー。断じてスペシャル・フレンド(親友!)ではないけどね。誰か助けて!
「とりあえず、家行こっか?」
「うん。そうだね」
あたしには「家行こっか?」が「〇〇〇行こっか?」に聞こえて仕方ない(○○○は想像にお任せ!)。
とりあえず状況説明。あたしはおんぼろアパートを追い出された後、魔法で中学まで飛んでトイレで制服に着替えて授業を受けた。そして、老朽化でアパートをしばらく追い出されてしまったので(ここは面倒なのでそういうことにしといた)家にしばらく泊めて欲しいと頼んだ。結果、澪の家にしばらく泊まることになりました。ちゃんちゃん。
はい、ということで澪の家に到着。一般的な一戸建て。
「どうぞ」
「おじゃまします……」
わずかな荷物を手に中へ。普通の家庭という感じの澪の家は最高に癒された。あたしだって親が死ぬ前はこういう家に住んでたんだよ? 懐かしすぎて涙が出そう!
「とりあえず、荷物置こっか?」
「そうだね」
「こっち」
澪に連れられていったのは澪の部屋――ではなく、
「ここ、好きに使っていいからね」
「えっ? あぁ、うん」
空き部屋と思しき殺風景な部屋だった。
「どうしたの?」
「いや、てっきり澪の部屋に泊まるのかと思ってたから……」
「あはは、私はそれでもいいんだけどね。お母さんが狭いからって」
「なるほど……」
とりあえず夜這いの危険性は低くなった(この部屋、鍵とかついてないから普通に入れるし襲われたら終わるけど)ので一安心。
「お母さんが帰ってくるの八時くらいで、毎日それからご飯なんだけど大丈夫?」
「うん、いいよー」
むしろ普通にご飯が食べられるだけでありがたい。パンの耳をしばらく食べなくていいというだけで涙が出る。
「それじゃ、私はしばらく部屋にいるから荷物片づけたら教えてね。一緒にご飯の買い物行こう」
「了解」
本来なら今日は出勤日でグリムバグの出現に基地で備えなければいけないのだけど、状況が状況だけにお水博士に事情を話して休みにしてもらっている。武蔵村山市のグリムバグは週一の頻度でしか出ないし、そもそも夕方から朝にかけてはグリムバグは出ないので(研究によると太陽光をエネルギーに活動しているので夜は動けないとかなんとか)学校終わってから出勤ではあまり意味もないのだけど。
そんなわけで荷物の整理開始。といっても、持ってきているものが少ないのですぐに終わる。というか、華の女子中学生のお泊りセットが教科書類より軽いってどうなのよ?
「おーわりっと」
荷物を片付けたあたしは部屋を出て澪の部屋に向かった。澪がガチレズだと判明する前は何度も来た家なので場所は知っている。
「澪、荷物片づけ終わったよー」
返事がない。
「澪? 入るよ?」
がちゃりと扉を開けて中に入る。するとそこで澪が――
「あっ、終わったんだ。早いね」
制服姿でベッドに腰掛けていた。うん、たぶん読者のみんなはここで澪の下着姿を想像したと思うけどね。ごめんね。あたしが散々サービスしてきたから許して。いや、許されないよね? これは……あれだ。うん、そういうこと。
「それじゃスーパーまで行こう」
澪に連れられて部屋から出るとき目に入った盛り上がったベッドの上の掛布団の下は……たぶん、触れてはいけないものなので知らんぷりしとこう。
澪の家の近くのスーパーに買い出しへ。あたしのリクエストで夜ご飯はカレーになりました。
「えっと、玉ねぎは家にあるから……ニンジンとジャガイモと……あとはサラダ用にレタスとトマトと……」
普段は給食以外では目にすることなってほとんどない食材が(といっても一般的には普通の野菜)かごに増えていくだけであたしの胸は高鳴った。やだ、なにこれ……もしかして恋?
「お肉は牛肉と豚肉と鶏肉、どれがいい?」
「牛肉で!」
給食というものは予算の問題で牛肉はあんまりでない(武蔵村山市!)なので、牛肉が食べたいのだ。うずうず。つか、スーパー来てからあたしのキャラ変わりすぎだろ?
「了解。それじゃこのくらいかな……あっ、お菓子買っていこうか?」
「お菓子?」
「夜になったらお話するでしょ?」
なるほど……これは中学生の伝統行事である「恋バナ」を夜通し行うわけですね。わかります。そして、そのままあたしが澪に口説かれて朝ちゅんエンドですね。わかります(わかったらアカン)。
「いいね。あたしお菓子なんて久しく食べてないよ……」
極貧魔法少女はお菓子が食べたい。あっ、こっちのほうがタイトルに向いてるんじゃね? どうでもいいけど、とにかくお菓子は両親が死んでから全然食べてません。はい。
「それじゃ……いっぱい買っちゃおっか?」
澪が微笑む。あぁ……マジ天使……ヒロインレベル高い……尊いよ……これでガチレズじゃなかったらね!
そんなわけでお菓子コーナーを物色。チョコやポテチや女子力が無駄に高めのお菓子(某SNSのスタンプがもらえるQRコードが付いてるやつね)をかごへ。そしてレジへ。お会計はあたしの食費何日分かな――うん、やめよ。幸せにならない。
「お菓子、お菓子」
「ふふっ、可憐ちゃん可愛い」
あたしが鼻歌混じりに歩いていると、澪がくすりと笑い声をもらした。
「本当にお菓子久しぶりで……」
「お菓子は女の子の基礎だもんね」
お菓子は女の子の基礎。では、そのお菓子を欠いていたあたしは女の子ではないということですね。わかります。
「でもよかったよ。可憐ちゃん最近苦しそうだったし」
「そう……かな?」
まぁ、むしろ両親が死んだ日から苦しくなかった日はなかった。今日だって苦しい。
「うん、やっぱり可憐ちゃんには笑顔が似合うよ」
無邪気な笑顔がやけにまぶしかった。
澪の家に戻ったあたしたちはそのまま二人で仲良くお料理。澪のお母さんが帰ってくるまでじっくり煮込んだカレーを食べて(おいしかったことは言うまでもない)、少し勉強して、夜の十時になってようやく帰ってきた澪のお父さんに居候のことを話して許可をもっらって――
「それじゃお話の時間だね」
澪の部屋でお菓子を囲んでレッツ恋バナ!
「うぅ……チョコ……甘い……」
恋バナの前にあたしは久しぶりに食べたチョコの甘さに涙していた。チョコってこんなにおいしかったのか……ありがとうカカオ、フォーエバーカカオ。まぁ甘いのはミルクと砂糖のおかげなんだけど。
「あ、あんまり食べ過ぎないようにね。一応夜だし。お菓子は女の子の基礎だけど、食べ過ぎると基礎から女の子じゃなくなるよ」
大丈夫大丈夫。あたし、お菓子成分足りな過ぎて女の子じゃなかったから。食べ過ぎるくらいがちょうどいいんだよ。ウケるw
「そ、そういえばさ、そろそろ魔法少女演武だよね?」
「うん、そだよ。よく覚えてたね」
「そりゃ一大イベントだからね」
魔法少女=オタク=キモイというイメージはどこか根底にあるものの、一応国防を担う存在のお披露目的な意味合いもあるのでそれなりに人気がある。自衛隊が演習を一般公開したりするときなんかに結構人が集まるのと同じイメージだ。まぁ、規模に関してはプロ野球、プロサッカー、魔法少女演武っていうくらいには注目されているんだけどね。
「今回はどう? 勝てそう」
「うーん……勝てそうというか、勝たなくちゃいけないんだよね……」
「勝たなくちゃいけない?」
「あっ、うん。えっと、詳しくは言えないんだけど、ちょっと事情が……」
「そうなんだ……」
「まぁ、今回は最強の作戦があるから大丈夫」
「最強の作戦?」
「うん、これを使うのは二次予選以降なんだけど……」
「どんな作戦なの?」
「相手の恥ずかしい画像とかばらされたらまずい情報を入手しておいてそれで脅迫」
はい、これが魔法少女演武を勝ち抜くための唯一の作戦です。
名付けてゲス作戦(そのまんま!)
「えぇ……なにそれ……」
澪がドン引きした。うん、ガチレズとか差し置いてもドン引きするよね。なんたって夕日先輩だってあの反応だもん。
まぁ、わかると思うけどこのアイデアの元になったのはあのクソ議員どもだ。結局現代に生きる人間は自分が不利な情報を流されるのが怖いのだ。ネット、特にSNSの発展で面白いことはなんでも共有したがる。そしてネタにされた人間は社会的に終わる。そういう構図なのだ。
「それ、反則じゃないの?」
「魔法少女演武のルールには魔法を使わない攻撃は禁止ってあるけど”口撃”は禁止なんてないよ?」
「えぇ……」
澪がまたドン引き。うん、知ってた。
そんなわけで夜のお話は終り。だって友達がこんなにゲスだと知ってそのままお話はできないし、恋バナとかできないっしょ。そんなわけでお休み。そして無事でいてくれあたしの貞操。初めてが女の子は嫌ですので。