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六話 やっぱり武蔵村山市はクソ。はっきりわかんだよね

あたしは思いついたアイデアを早速夕日先輩に伝えてみた。


『あー……そっちいったか……』


 夕日先輩が溜息とともに呟いたのは、はっきり言って――


『可憐、だいぶゲスだよ?』


 罵倒だった。


「仕方ないじゃないですか。それしか思いつかなかったんですよ」


 実力でも、パンチラ(ありえない)でも、パンモロ(もっとありえない!)でも、エロ(おいっ)でも、十八禁(おいっ!)でもない。

 いうならば、あたしが勝つための唯一の勝利の方程式。

 それが――


『でも、それをやるにはそれなりに”準備”が必要ね』


 夕日先輩があきらめたような口調に変わる。


「そうですよね……可能ですか?」


『不可能か可能かで言えば可能ね』


「可能なんだ……」


 この作戦(まだ明かさないけど。七話まで待って)は相当な準備が必要だ。


「そもそもかなり夕日先輩に負担を強いることになりますけど……」


『そこは安心して。親の権力を使うわ』


 親の権力。なんて甘美な響き……! まぁ、あたしには一生関係ないね親の権力。だって親死んでるし。

 まぁ、暗くなったけど(なったかな?)知っての通り(忘れた人は四話! 復習!)夕日先輩の母親は都議会で重要な立場にいる議員の一人だ。要するに東京都の行く末を決める一人である。

 

「いいんすか? たった一人の魔法少女のために東京都の最高権力使っても……?」


『使うのは私じゃなくて可憐だし、お母様だって武蔵村山市の現状を憂いているわ。協力は惜しまないはずよ』


「でも、立場上まずくないですか……? この作戦、夕日先輩も言いましたけどだいぶゲスですよ?」


『大丈夫。私もお母様も自分の手を汚したりはしないわ』


 ゲスですね。


『汚れるのは可憐の手だけ……フフッ……』


 ゲスです……ね? あれ、ちょっと待って夕日先輩。最後の笑いなに?


「……あたしの手が汚れるのは今更です」


『そう。覚悟はできているのね?』


「はい。人生かかっているんで」


 魔法少女人生と、己の人生。二つの人生を天秤に乗せているのだ。

 勝たなきゃ金銭的に死ぬ。やるしかない。


『とにかく、そういうことなら”そういうことを得意な”人員を用意するわ』


「ありがとうございます」


『でも、さすがにそれを使うのは二次リーグからね』


「そうですね……一次リーグから使ってもアレですし……」


『魔法少女演武は一次リーグは五人一組のリーグ制で上位二名が勝ち抜けるわ。単純計算で三勝すればほぼ確実に勝ち抜ける』


 作戦を使うにしても、それくらいの実力がなければ二次リーグで勝てない。


『可憐の作戦を実行するなら準備は二つ。私が”そういうことが得意な人員”を用意するのと』


「単純な私のレベルアップですね」


『そうよ。とにかくリーグ戦に勝つしかない。明日から練習開始よ』


「はい!」


 この時、あたしは知らなかった。

 武蔵村山市が、いやあのジジイがここまでクソだったということを。



 翌日。あたしが目を覚ますと、アパートの薄い扉を叩く音がした。


「なんだ……こんな朝早くから……」


 大家さんがまたアパートの不調を謝りにきたのかと思い、寝起きの姿そのままで玄関へ。

 扉を開けるとそこには市の作業服をきた中年の男性が四人いた。


「……なに?」


 寝起きに見たい顔ではなかった。なんせおっさんだ。可愛い女子中学生が(可愛いは作れる!)朝一番に見ていいものではない。

 そんなことを考えていたら、おっさんの背後から奴が現れた。


「ジジイ……」」


「ジジイとはこれまたご歓迎だね。痴女魔法少女」


 昨日報告会でやりあったジジイこと中下議員だ。というか、さっさと議員辞職してほしい……


「んで、なんすかジジイ。こんな朝早くご老体、というか持病の汚職にさわりますよ?」


 ジジイのこめかみに青筋が浮かぶ。ザマァ!


「……歳よりは朝が早いんだよ。痴女少女」


 魔法がなくなった。もはやただの痴女じゃん。ジジイ、あとで覚えておけよ。


「まぁ、いい。今日はこれを伝えにきた」


 ジジイが一枚の紙をあたしに差し出す。


「ぺっ」


 紙に向かって唾を吐いてやった。


「このガキ!」


 ジジイがキレた。はんっ、小物が。あたしみたいにネットにパンツ拡散されてもっと精神的に成長しろ!(自分で言ってて悲しい……)


「そんなに取り乱して……大丈夫ですか? 本当に持病のお☆しょ☆く☆に影響が――」


「出るわけないだろ!」


 一歩踏み出したジジイを周りにいた職員が止める。どうやら職員はまだ白らしい。着ている作業着は灰色だけど。


「で、本当に何の用?」


「ふん! 自分で唾吐いた紙を見ろ!」


「あ? てめぇ何様のつもりだ。週刊誌にばらすぞゴラァ」


「…………」


 黙んなよジジイが。

 仕方なくあたしは紙を拾い上げる。そこに書かれていたのは――


「退去命令……?」


「そうだ。このアパートは老朽化がひどい。今すぐ倒壊してもおかしくない。当然の措置だ」


「テメェ……!」


 どこかのジジイじゃないけどあたしも頭に血が上った。


 これは昨日の仕返しだ。子供じみた、クソみたいな。


「ということでさっさと荷物をまとめて出ていきたまえ」


「魔法少女条約違反だ! 武蔵村山市の条約では魔法少女に最低限の生活は保障される!」


 武蔵村山市では(というか都内すべての魔法少女は)魔法少女条約によって最低限の生活が保障されている。こんなことは許されない。


「はて……? なんのことかな? 報告会で君はそんなことを言ったかね?」


「このジジイ……!」


「君たちは言ったじゃないか。今年度分の予算を払うだけでいいと」


 完全な条約違反だ。しかし、昨日の報告会であれだけの啖呵を切っておきながら今更条約を持ち出せば――


 こいつらは夕日先輩の力で守れた今年度分の予算すら持っていきやがる。


「……もちろん、代わりに住む場所なんて用意してないよな?」


「なんのことかね?」


 本気でぶん殴ろうと思った。短い人生でここまでの殺意が沸いたのは両親を殺した事故の原因を作った奴を見た時以来だ。


「勝手にしろ」


 あたしは部屋に踵返し、最低限の荷物だけバックに詰めてアパートを出た。


「変身」


 炎剣を模したネックレスを握りしめ、体の魔力を集約させ解き放つ。

 あたしは魔法少女に変身した。


「見てろよ。お前たちを絶対見返してやる」


 ジジイのあざ笑うような顔にあたしは燃えんばかりの視線をぶつけた。

 軽く地面を蹴って空へ。

 本当に武蔵村山市はクソだ。こんな陸の孤島沈んでしまえ。

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