五話 結局オタクは魔法少女のパンチラ、もといパンツが好き
パンチラ…パンツがチラりと見えること、またはチラりと見せることである。がっつり見えるものをパンモロという(魔法少女大辞典より抜粋)
そんな文章が頭の中をよぎった。
「いい? 知っての通り魔法少女演武には一次リーグ、二次リーグ、最終リーグがあるわ。一次リーグは高校野球でいうところの地方大会一回戦。注目度は低いわ。でも、二次リーグ以降はは都内の大型スタジアムを貸切って行われる。要するに注目度が上がるわ。そこでパンチラよ」
夕日先輩のような美人から「パンチラ」なんて言葉が出てきていいのだろうか? いやよくない。
「あの……先輩。それ以外に方法ないんですか?」
「ないわ」
「ないんですね……」
はっきり言って絶望だ。
「夕日先輩。ただでさえ二日前に魔法少女オタクにアンダースコートの写真ネットにばらまかれて結構精神的ダメージあるのに……ぶちゃけ無理っすよ」
「なら、実力で勝ち上がれる?」
「無理っすね……」
そもそも魔法少女ってグリムバグと戦うのが仕事だよね? なんで安い○○○○みたいなことしなくちゃいけないんだ?
「夕日先輩。こんなこといいたくないですけど、魔法少女はグリムバグを倒せればいいんですよね? 魔法少女演武はあくまでオマケですよね? グッズを売るなんてもっとオマケですよね?」
「そうね。でも、私たち――ううん。あなたは、魔法少女は国防を担う存在よ。でもグリムバグなんて魔法少女にとっては足元にも及ばない雑魚。でも、その雑魚を完璧に消し去ることができるのは魔法少女だけ。そんな魔法少女が支持されなくなれば魔法少女というもの自体がなくなってしまうわ。この武蔵村山市みたいな資金力がない場所では」
「…………」
「まだわかっていないと思うけれど武蔵村山市の魔法少女クリムゾン・レッドは窮地に立たされているのよ?」
「…………」
「わがままは言ってられないの。これは魔法少女クリムゾン・レッドが生きるか死ぬかの戦いなの」
夕日先輩はあたしの右手を握って言葉を続ける。
「可憐は魔法少女続けたい? それともやめたい?」
あたしは目を閉じて考えた。
(別に魔法少女になりたかったわけじゃない。お母さんも、お父さんも死んで、誰も頼れる人がいなくて、頼れるのは自分だけで、生きていくために仕方なく始めた。動機なんてその程度で、憧れや義務なんてない。やめたければやめたっていい)
やっぱり――
「魔法少女、続けたいです」
夕日先輩の目をしっかり見つめた。
「あたしが送ってるこの人生は奪われる人生です。オタクから性的に搾取され、当たり前に送れたはずの中学校生活はなくなって、両親は死んだ。そんな人生の中で――」
一度くらい自分で何かを手に入れたい。
「魔法少女だけは理由はどうあれ自分から始めたものです。自分の手でつかんだものです。それを離したくはないです」
「うん。可憐の決意、伝わったよ」
夕日先輩は微笑んであたしの手を離した。
「それじゃ、パンチラ頑張ろ?」
「いや、だからそれは無理っす」
結局パンチラしかないのか……
「夕日先輩、他に活路を見出しましょう? 戦うこともお色気もできないですけど、それでもできることは他にもあるはずです」
「そうね……」
それからあたしと夕日先輩はハンバーガーショップで小一時間話し込んだが、結局予算確保のための具体的な策は何一つとして出なかった。
おんぼろアパート(笑)に帰ってきたあたしはひきっぱなしだった布団にダイブした。
「はぁ~……」
疲れた。あのクソみたいな報告会もそうだけど、予算を確保するための案を考えるのも疲れた。
そもそも! あたしは魔法少女としてグリムバグを倒すという仕事はしっかりしているのに、なぜ市議会員の報酬のために自分で予算を確保しなくちゃいけないのか!
「あれ? よく考えたら夕日先輩があのとき私を守ってくれるだけでよかったんじゃね?」
そうだよ。なんであたしの予算がなくなっているんだ? 報告会で「来年度以降も魔法少女に予算を!」って言えば……
「でもな……」
今考えるとそれが一番無難だったかもしれない。でも、予算が増えるわけじゃない。この極貧生活からもそろそろ脱却しないと……なら、今回の選択肢は正しかったかもしれない。
「魔法少女演武で勝つか……」
三か月前に出た魔法少女演武は散々だった。一応一勝はしたがほとんどマグレ勝ちだ。他の魔法少女には赤子の手を捻るがごとく中遠距離攻撃を浴びせられて負けた。
「とりあえず正攻法で行くなら遠距離攻撃は防がないとな……」
仮にパンチラをやるとしても(やらないけど!)前回の調子では一次リーグも勝ち抜けない。二次リーグに行かなければ魔法少女演武でグッズ化のためのアピールすらロクにできやしない。
「あとは近距離攻撃しかないし……」
どうやって勝つ? どうやって予算を確保する?
堂々巡りを繰り返す。それでも答えは見えてこない。
「夕日先輩みたいに単純な実力はこれから先もつかないし……」
夕日先輩みたい勝つのは無理か。
そう思った瞬間、まるで啓示のようにアイデアが舞い降りた。
「そうだ! 夕日先輩みたいな戦い方でいいんだ!」
あたしは気付いた。弱くたって、お色気が使えなくたっていい。
ただ、勝てばいいんだ。
夜八時十七分。月の光がやけに眩しい夜。
ここからあたしの逆転の物語は始まる。