四話 市議会がクソすぎるため、予算は自分で確保するしかない
秋空夕日こと元魔法少女レイヴァテインは半年前に引退した魔法少女だ。
武蔵村山市という財政的に困窮した都市にいながら、魔法少女序列(全50人の魔法少女の強さを表すもの)で7位に入った。まぁ、よくわからないと思うけど(あたしもいまだにわからない)魔法少女というのは一種マネーゲームのようなところがあって、予算が豊富な都市が優秀な魔法少女を育成できる傾向にある。いや、傾向というか事実だ。とにかくお金さえあれば強い魔法少女が育つ。甲子園にお金がある私立高校が毎年出場するようなものだ。
閑話休題。
さて、というわけで夕日先輩の登場である。セーラー服のスカートから覗くすらっとした白く細い脚でジジイに近づくと、言い放った。
「魔法少女の運営をやめる? 御冗談ですよね? 中下議員」
「いや……」
「現魔法少女クリムゾン・レッドは、まだ半年しか稼働しておらず実力も未知数です。今後、私のように多額の経済効果をもたらす存在になるかもしれないのですよ?」
魔法少女というのは一方的にお金をもらって運営されるだけのものではない。
グッズが作られたり、魔法少女を見に来たファンが商店でお金を落とす、その他にもアイドル活動をやったりして利潤を生みだす。
要はすごい経済効果が生まれるのだ。
「私が現役だったころは最大で1か月約五千万円の経済効果を武蔵村山市にもたらしましたよね? ロクな観光事業も産業もない武蔵村山市にこれ以上の利益をもたらすものがありますか?」
「しかし……彼女がそうなると決まったわけでは……」
ジジイがあたしを見る。見んな。
「いいですか? あなた方の腐った脳みそでも理解できるように話します。たった七千万円の予算でその何倍もの経済効果を生み出す事業がこの武蔵村山市にありますか? 唯一利潤を生みだす魔法少女という事業を、あなた方の議員報酬増額という目先の利益のためにつぶす必要があるんですか?」
答えてください。
夕日先輩がじっとジジイを見つめる。
「そんなものは……ない……」
「では、魔法少女の運営は続けるのが妥当ですね」
夕日先輩が身をひるがえし、あたしたちのもとへやってきた。
「ありがとう夕日君……! 私の慰謝料と養育費が守られた……!」
「「死ね」」
夕日先輩とあたしの罵倒が見事に重なった。こいつもこいつで金のことしか考えてねーな。
「夕日先輩お久しぶりです。どうして……」
気を取り直して夕日先輩に挨拶をする。
「久しぶり。お母様にタレコミがあったのよ。武蔵村山市にあやしい動きがあるって」
夕日先輩の母親は都議会で重要な立場にある議員なのだ。東京都の一大観光資源である(グリムバグと戦うためとはいえ)魔法少女の運営をたやすくやめることは東京都としては許せないのだろう。まぁ、それ以前にこの腐った議会が許せないのかもしれないが。
「タレコミって……」
つぶやきながら議員の方を見ると、困惑した表情を浮かべる議員たちの中に微笑みを浮かべるおばさんがいた。
(どれだけクズなんだ……)
それしか感想が出てこなかった。これが高度な政治取引か(違う)。
「とにかくこれで魔法少女は続けられるね」
「はい! ありがとうございます!」
夕日先輩には素直に感謝しかない。あんなおんぼろアパート住みで、食べるものがあんなものでも生活を失うのは痛すぎる。しかもあたしは華のJCなのだ。
「さて、予算のことだけど……」
夕日先輩は議員たちに向き直る。
「今月魔法少女演武があります。まずそこに彼女――魔法少女クリムゾン・レッドを出場させます」
魔法少女演武とは「グリムバグ倒すだけじゃ国土防衛的にしか魔法少女が役立たないやないか。そや、魔法少女同士戦わせて見世物にしたろ」という政府のお偉い方が考えたイベントだ。
三か月に一度開催され、魔法少女同士で戦い誰が都内の魔法少女で一番強いのかを決める。ただ、それだけ。
しかし、ここで勝ち抜くことで知名度があがり、ファンが付き、グッズなども作られるようになる。先ほどの経済効果にもつながってくる。
ただ、勝っても何もないのでは意味がない。
そこで魔法少女序列を作り、魔法少女を格付けし、さらに上位入賞者(上位八人)には賞金を出す。一位になればなんと五億円の賞金が出る。
「しかし、彼女の序列は32位だ。とても勝てるとは思えない」
あたしも前回の魔法少女演武に出場した(というかこれは都内の魔法少女たちが強制的に出場させられる)が、一次リーグを一勝三敗で負け終了。序列は32位というありがたい数字になった。まあ、あの時は魔法少女を始めて三か月だったし一勝しただけでも褒められてなんぼなんだけど。
「私が育てます。そして必ず上位に入賞させます」
「……本気か?」
「はい。賞金がギリギリ出る八位でも一億五千万円も出ます」
要するにそれだけで魔法少女を運営する資金を確保できます。
「私たちは自分たちで予算を確保する。それでいいかしら?」
「魔法少女運営に関する予算は……」
「それはあなた方の好きにすればいいわ。ただし、今年度分はきっちり払ってもらう。来年度分はいらないわ」
「あぁ……」
「それとグッズの版権。これが私たちが抑えるわ。いいわね?」
「あぁ……」
えっ、待って、夕日先輩。グッズの版権ってなに? あたし自分の顔面がプリントされたTシャツとか売られたくないっす。
「今回はこれまでにしましょう議長。それと皆さん――もしまた、私の目に見えないところでこんなことがあったら」
皆さんの汚職ばらしますよ?
夕日先輩が妖艶に微笑んだ。つか、女子高生で妖艶な笑みできるとかパネェ。ついでに議員どもの顔がパナェ。顔面蒼白。
「そ、それでは魔法少女報告会はこれにて終了いたします!」
議長の宣言で魔法少女報告会は閉幕した。いいのか、これ?
議会からの帰り道、慰謝料と養育費が守られたことで喜色満面のお水博士を差し置いて、あたしと夕日先輩はチェーンのハンバーガーショップに入った。
「うめぇー!」
JCあるまじき汚い言葉だが仕方ない。なんたってハンバーガーを食べるのは久しぶりだ。かれこれ二か月ぶり。それに給食以外で牛肉を食べるのも久しぶりだ。本当に涙が出てくるおいしさだ。
「そう、よかったわ」
夕日先輩はポテトを上品につまみながらアイスティーをストローで可愛らしく飲んだ。これが女子力か……
ハンバーガーとポテトを食べ終え、コーラを飲んで一息ついたあたしは夕日先輩に疑問を投げかける。
「それより夕日先輩。魔法少女演武のことですけど……」
「とにかく明日から特訓ね」
「いや、まぁ、特訓は大事だとは思うんですけど……ぶっちゃけ上位入賞とか難しくないっすか?」
「えぇ。難しいわ。それに現状可憐の力では不可能ね」
「ばっさりですね……それなのにあんな啖呵きったんですか?」
「もちろん上位入賞は無理でもその副産物があるでしょ?」
「今年度の予算を確保できたことですか?」
「それもあるけど……グッズの話よ」
魔法少女は特別アイドル活動をしていなくても、人気によってはグッズ化されることがある。グッズはコンビニから魔法少女専門ショップで幅広く展開され、その売り上げはかなりのものらしい。
まぁ、グッズで稼げるのは人気のある上位魔法少女に限られるけど。
「グッズを売って予算を確保ですか? 確かに夕日先輩は経済効果がどうとか言ってましたけど」
「ぶっちゃけ、今回の魔法少女演武は上位入賞は目指さなくていいわ」
いいのね。
「大事なのは人気を集めること。それで可憐を応援に来るオタクに経済効果を期待するか、グッズで稼ぐしかない」
「とにかく人気獲得が今回の魔法少女演武の目的なんですね」
はっきり言ってあたしの魔法少女としての才能は平凡なものだ。序列上位の魔法少女たちの戦い方を見たことあるけど……あれには敵わない。なんたって炎剣振り回すしか攻撃方法がないのだ。まぁ、夕日先輩もあたしと同じ戦闘スタイルで勝ち上がったんだけど。これは単純に技量と才能の問題だ。
「それで、どうすれば人気が取れるんですか?」
「簡単よ」
ズバリそれは……
「パンチラよ」
「パンチラ……?」
自分、魔法少女やめていいっすか?