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一話 累進課税制度はもっと進化するべきだと思う

 魔法少女。

 小さな女の子には憧れで、いい歳したオタクには魅力的で、時には性的なそれ。

 まぁ、大体のイメージはなんかフリフリのコスチュームに身を包んで、変な敵と魔法で戦って、最後は仲間の魔法少女とお風呂に入ったりして、全滅したりするのをイメージすると思う。

 でも、現実は全然違う。ほんまちゃうねん。関西弁出るくらい違う。

 これから話すのはあたしが二年間、魔法少女をやって、主に大人の汚らしい部分を見てきた記憶だ。

とりあえずこれだけは言いたい。これを読んだ少女がいたのなら魔法少女にはなるなと。



 陸の孤島。

 この一見不可解な文字の並びを見た日本人は大抵ド田舎の過疎地域をイメージすると思う。

 でも、違う。これは日本の中心東京都に実際にある市の二つ名なのだ。

 

 東京都武蔵村山市。


 おそらく東京都民ですら住民でなければ訪れることのない秘境。というより魔境。

 離島以外で唯一交通が遮断(電車と国道が通っていない)された、まさしく陸の孤島。

 そんな場所であたしは魔法少女なんてやっている。


「だりー……」


 思わずもれた溜息が馬鹿みたいに青い空に吸い込まれる。

 中学三年の夏休み最終日。

 普通のJCなら夏期講習に行ったり、友達と中学最後の思い出を作りに海やらプールやらBBQ(おしゃれな言い方)に行ったり、イケメンロリコン家庭教師と勉強(意味深)の夏を過ごしていると思う。

さて、あたし桜庭可憐はというと、化け物と向かい合っている。

しかも、おおよそ十五歳の女の子が着るとは思えないフリフリ(笑)なミニスカートの魔法少女コスチュームを着てだ。


――ガァアアアアアアアアア!


 あー……うっせ。

 ただでさえ蝉でうっせーのに、目の前の化け物が吠えやがった。黙れよマジで。こんな暑いのに吠えるなよ。

 まぁ、それだけならまだ許せる。いや、許せないけど我慢はする。でも今日は違う。


「さてさて、魔法少女クリムゾン・レッドちゃんの出陣ですよ!」


「デュフフフフ……」


「本日のグリムバグは……これは触手型ですね……」


「デュフフフフ……」


「これは触手攻めに期待できるでゴワスなwww」


「デュフフフフ……」


 はい、魔法少女オタク三人組みが観客です。

 いや、これはきつい。

 しかも三人揃ってデブ、汗ネチョ、ブサイクとか……あたしなんか悪いことした? あと「デュフフフフ……」はマジキモい。やめろ。化け物の前にテメェら消し炭にするぞ? あ?

 まぁ、とりあえずなんとなくわかったと思うけど、このグリムバグとかいう化け物を倒すのが魔法少女の仕事です。説明面倒なんでもう殺ちゃっていいっすか?


「出でよ」


 右手にあたしの身長をはるかに超える燃えさかる両手剣が出現する。


「キター! クリムゾン・レッドキター!」


「デュフフフフ……」


「触手プレイは? 触手プレイはないでゴワスか?」


 死ね。オタク。

 あぁ、魔法少女なのになんで剣かって? そんなの私が知りたい。とにかく大抵の化け物はこれでサヨナラ。

 はい、なんかよくわからないコスチュームの力で飛び上がる。はい、なんか十メートルくらい? ある化け物と対峙する。はい、剣を振る。


――ガァアアアアアアアアア!


 はい、終わり。


「キター! 見えたか同士よ?」


 うん? 見えた?


「見えたでゴワスよ! 魔法少女クリムゾン・レッドのお、おおおおお、おぱんちゅが!」


「デュフフフフ……」


「写真にもしっかり収めたでゴワスぞ!」


「デュフフフフ……」


「拡散! 拡散!」


「デュフフフフ……」


「ツイポヨでしぇあーでゴザルね! 一万りついーとはかたいでゴワス!」


「デュフフフフ……」


 自分、こいら殺ちゃっていいっすか?

とりあえず突っ込ませて。まず、スカートの中はアンダースコートだし、一人横文字の発音ヤバイ奴いるし、さっきから「デュフフフフ……」しか言っていない奴いるし……

 自分、こいら殺ちゃっていいっすか?

 とりあえず、ウザイので消し炭になった化け物の触手をオタク共に放り投げておいた。

 はい、みなさん。これが現実の魔法少女だよ。



 魔法少女の任務を終えたあたしはそのまま空を飛んで基地に帰還した。

 基地といっても、そんなにかっこいいものでも、魔法少女でイメージするような可愛いものでもない。

 住宅街が少し離れた商店街、そこにある貸しビルの最上階が東京都魔法少女連盟武蔵村山支部の基地だ。


「はぁー……疲れた……」


 屋上に降り、階段を使って基地の中に入ると工場と普通の会社のオフィスが合体したよう二十畳ほどの基地に辿り着く。


「お疲れ」


 気だるげなあたしを出迎えたのは冴えない中年男性だ。


「おっつー、水博士」


「水博士ではない。お水博士だ」


 このおっさんはお水博士。名前からだいたい察せると思うけど、かつては溢れる才能から「お〇の水博士」と呼ばれていた人。でも、度重なる不祥事に巻き込まれ、さらに悪女にはめられ不倫したことになって、こんな陸の孤島に飛ばされた上、重要な部分がとれてお水博士なんてかわいそうな二つ名をゲットした奴だ。ちなみにバツ二で子どもが三人居て、慰謝料と養育費で首が回らなくなっているかわいそうなおっさんだ。


「お茶が駄目ならせいぜいコーヒーとかそういう感じになればよかったのにね、水博士」


「飲み物系の名前を冠する魔法少女研究者は案外多いのだ。なので、被るを避けたらしい。それと水博士ではない。お水博士だ」


「へいへい。つか、お水でも水でも変わらなくない?」


「水博士だと水の専門家見たいではないか? だからお水博士なのだ」


 さいですか。あと、その人生に疲れたような顔やめよ? あたしもキモいオタクに囲まれて疲れてるんだから。気が滅入る。


「さてと、今日の報酬だ」


 お水博士からのり付けされた封筒が手渡される。


「サンキュー」


 受け取って封を切る。

 中から出てきたのは五百円と特別報酬と書かれた明細書だ。

 はい、これが魔法少女出撃一回の報酬です。


「毎回だけどさ、いくらなんでも少なくね? 新宿とか渋谷はもっともらってるんだろ?」


 魔法少女はその性質上少女がやることになる。少女といっても小学生から大学生までいるわけだけど、高校生以下だといって報酬を払わないわけにはいかないのだ。

 なぜかというと、魔法少女の基地は各区市町村税金によって運営されているから。

 まぁ、簡単に言うと公務員扱いなのだ。詳しいことはわからないけど、子役にギャラが発生するのをイメージするとわかりやすいらしい。


「無理を言うな。二十三区は資金も潤沢で経済効果が高いが、こちらはギリギリで回しているんだ」


「ギリギリね……というか、今更だけど収支ってどうなってるの?」


 あたしが尋ねると、お水博士は気だるそうに自分の椅子に座って語り始めた。


「まず、武蔵村山市の魔法少女およびグリムバグの対策費用が年間約七千万円だ」


「うん」


「そのうち三千万円を私がもらう」


「ちょっと待て」


 七千万円あるうちの三千万円をこのおっさんがかっぱらっている? 冗談じゃねーぞ。おい。


「待て待て、胸倉をつかむな。いいから聞け。むしろ聞いてください。ちょ、く、首は……お……ね……がい……」


 さすがにお水博士が死にそうだったので、首を締めあげていた手を離す。


「ゲホッ! ゲホッ! これだから女の子は気が強くていけない……うちの娘はまだ二日に一回金的するくらいだった……」


「いや、大して変わんないだろ?」


 娘さん強いな。反抗期だったのか?


「そうだな……話をもどすと、魔法少女研究者の平均年収は五千万円でしかも研究に必要な物は全て経費で買える。だが、私は買えない。全部この中から賄う。すると、三千万円もらっても、研究材料費や離婚時の慰謝料に子どもの養育費を引くと残るのは雀の涙ほどの金だ」


「あー……なるほど……」


 最後二つは余計なの混じってたけどな。このおっさんも苦労してるな……


「残りの四千万円の内三千万円はグリムバグに対する防衛費と損害保険に、そして残った一千万円から諸経費を引くと残るのはわずかだ」


「それを基本給プラス出撃に応じてあたしがもらっていると……」


「そうだな」


 つらいな。マジつらい。ちなみに基本給は年俸制で五十万ほど。高校生のバイトなら上等だけど、両親がおらず一人で生活している私にとってはわりとギリギリな数字だ。


「ちなみに一説によると新宿の魔法少女が一回出撃すると、それだけで五百万円の報酬が支払われるらしい」


「ご、五百万!?」


「向こうは資金が潤沢だからな。研究者も何億と稼いでいるらしい……」


「嘘だろ……これが格差か……」


「税収が桁違いだからな。割合でみれば大して変わらないはずだ」


「世の中金だな……」


「まったくだ」


 とりあえず……あれだ。市の経済状況は簡単に変えられないから、もっと累進課税制度をどうにかしよう。なんかこう……徴収率を変えよう。うん。

 まぁ……なんだ……これが魔法少女です。

 


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