幻想巡り
「霊斗、貴方を寺子屋に連れてきて、彼を見せたのはね……」
霊夢が教室を出た俺に対して、唐突に語り出した。
「さっき言ったように、戦い以外の道を示したっていうのもあるけど、貴方にも『やりたいこと』を見つけて欲しいと思ったの」
俺の……やりたいこと?
「人里に行く前に伝えればよかったわね。もちろん、自分の身を守れる力は持ってもらうけど、それよりもやりたいことを見つけて欲しかったの。……あの人のようになって欲しくなかったから」
「あの人?」
「あ、ううん。何でもないわ」
僕が聞くと、霊夢はハッとして言い直した。
「それより、何処か行きたいところはある?」
「行きたい所……か」
行きたい所って言われても……ないな。そもそも、何もわかんないし。
「いや、特にはないけど」
「そう、じゃあ、色んな所を回りましょうか」
霊夢の振り向きざまのニッとした笑顔に、胸の鼓動が高まる。
このまま押し倒したいくらいの衝動に駆られるが、グッと我慢だ。
「そうね……とりあえず、紅魔館にでも行きましょ」
「紅魔館?」
「ええ、吸血鬼の住まう屋敷よ」
吸血鬼か。
イメージとしては、色白で、人の血を吸うが……どうなんだろうな。
俺は霊夢の歩行速度に合わせて、隣を歩きながら行き先について思考を巡らせるのだった。
◇◆◇◆◇
「だいぶ霧が濃くなってきたわね……紅魔館が近づいている証拠よ」
「へえ……こんな所に住んでるんだな」
僕は、ピチャピチャと水たまりを歩きながら、湖に沿って霊夢と歩いていく。
「湖の上を飛んで行ければ早いんだけどね」
「う……ごめん」
「いいのよ。幻想郷に来てまだ日も浅いし、まだまだこれからよ」
霊夢とそんな雑談をしながら、霧の奥に薄っすらと見え始めた、大きな影を目指す。
◇◆◇◆◇
「ほら! 門番! 起きなさい!」
「ふぇ……あ、霊夢さん!? お、お早うございます!」
「挨拶なんてどうだっていいのよ。開けて頂戴」
「あ、どうぞ……と、言いたいですけど、私門番ですからね!?」
紅い髪の、中国風のグラマーな女性が、戦闘の構えを取る。
「霊斗、やっちゃいなさい」
「え、僕?」
「霊斗なんて、あんた以外にいないじゃない」
僕は霊夢に言われ、仕方なく前に出る。
「私は、紅 美鈴です。以後よろしくお願いします」
「僕は、博麗 霊斗。記憶喪失ですが、何卒ぞよろしく」
初めてまともに自己紹介した気がするな。
っていうか、美鈴は霊夢が倒してきた奴らと同じ力を持ってるが……上位版ってことか?
お互いに名乗り終えると、美鈴が僕の方に走りこんでくる。
美鈴が蹴りで妖力弾を飛ばすが、僕はそれをサイドステップでかわし、前傾姿勢で走り込む。
美鈴が掌拳で妖力弾を放つが、それをスピードを調整してかわし、美鈴に飛び蹴りを決める……が、それは美鈴に掴まれる。
「やっば!」
俺はもう片方の足で美鈴の掴む手を弾き、逆立ちの姿勢からバク転で体勢を元に戻す。
回し蹴りが腕で防がれるが、その勢いを軸にして上に移動し、もう片方の足で蹴りつける。
「くっ……!」
そのまま霊弾を作り出し、それを美鈴に発射する。
「う……く……」
「コレで決める!」
美鈴が怯んだ隙に俺は裾から札を一枚取り出し、宣言する。
「霊符『天舞波吼撃』」
俺の背後から、5つの光線が美鈴に襲いかかった。