寺子屋
妖夢は僕に突きつけた刀を離すと、倒れこんだ僕に手を差し伸べた。
「つ、強い……」
「大丈夫ですか? まさか、ここまで抜かれるとは思いませんでしたが」
「え? 何を?」
「力ですよ」
妖夢はそれだけ言って、霊夢との会話に移っていった。
それにしても……力を抜いてる、か。……いや、そもそも、俺は何の為に剣を振るうんだ? 記憶を見つけるため? いや、それより、もっと深い……何なんだ?
「霊斗、そろそろ行くわよ」
「あ、うん。じゃあ、妖夢さん、ありがとうございました」
「いいんですよ。それでは」
妖夢さんは僕の言葉にそう返し、大きな買い物用の竹籠を背負って、道を行く僕らを見送ってくれた。
◇◆◇◆◇
霊夢についていくと、一軒のまあまあ大きな屋敷にたどり着き、そこでは、水色の髪をした青い服装の女性が出迎えてくれた。
「おお、君が博麗神社に来た……」
「博麗 霊斗です。所で霊夢、なんで僕をここに……?」
「あんたに色んな道を示すため、よ」
「色んな道?」
「ええ。何も、博麗神社に留まるだけが全てじゃないってこと」
霊夢はそう言って、後手に親指で一人の男性を指した。
「彼は、元外来人の山田 航平。幻想郷に来て、外に帰らずに教える道を選んだ人間よ」
航平さんは、小さい子供達に正座であれやこれや、とアドバイスをしていた。
「ああ、話してる所すまないが……霊斗、そういうことなら中に入って見学してみるか?」
「いいんですか?」
「霊夢の紹介なら、構わないよ」
女性はそう言うと、扉をガラリと開け、航平さんに話しかけた。
「航平、授業を行ってくれ」
「慧音先生、いいんですか?」
「ああ。一度見たいと思ってたんだ」
「はあ……わかりました」
航平さんはそう言うと、黒板の前に立つ。
「じゃあ、今日は算数の勉強をしようか。ミスチーと大ちゃんはワークを進めててもいいよ」
航平さんはそれだけ言うと、黒板に皿に乗ったリンゴの絵を描く。
「今、リンゴはいくつあるでしょう」
「9個!」
「そうだね、大正解。9個だよ。じゃあ、これを式で求めてみようか」
「はーい!」
航平さんの言葉に何人かの少女が元気よく返事をし、ノートに書いていく。
「正解は……3×3だ」
「えー!? 習ってないから、わかんないよー!」
「何度かしか教えてないからね。ミスチーと大ちゃんは多分、解ってると思うよ? まあ、解説をしていこうか」
航平さんはそう言って、黒板に掛け算に関すること、掛け算の仕方を書いていく。
「これは、お皿が3つあるだろ? そこに、リンゴが3個乗っている。さっき言ってくれたように、答えは9個だ。これを式に表すと、3+3+3=9になる。でも、3+3+3は面倒くさいから、3個の塊が3つあると考えて、3×3=9という式を出せるんだ。掛け算の解き方っていうのは、塊×塊の数って考えるといい。……と、もう時間か。今日の宿題は、12Pの式を全部声に出して読むこと。チルノは教科書がないから、ここでやって帰るように」
あははは、という笑いが上がり、授業は終わった。