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文学

老害駆逐戦線

作者: 千路文也

 武装ヘリに搭乗した兵士達は束の間のジョークに花を咲かせていた。これから立ち向かう獰猛にして邪悪な敵については重々承知しているが、人の目などお構いなしにとハシャギまくるアメリカ軍兵士達は、下の景色を眺めて大声でわめき散らす。丁度、日本の東京タワーの真上を飛んでいたのだ。アメリカにとっての日本は観光地そのものであり、敵を忘れて支離滅裂な言葉で冗談を言い合うぐらいの興奮っぷりを見せている。恐らくだが、彼等の脳内は性的興奮に似た感情が芽生えているのだろう。一歩間違えれば戦争に発展するかもしれない目的地に繰り出す事実は、頭の中に大量のアドレナリンが放出されている。人間はやろうと思えば麻薬以上の脳内快楽物質を出せる。しかも麻薬とは違って後遺症も残らない。健康的にガンギマリ状態になれるのは、兵士のメリットでもある。無論、仕事であるのを忘れてはいない。だからこそ彼等は張り切っているのだ。日本にまで武装ヘリを飛ばすのだから相当な手続きが必要だ。入国許可書などのパスポート類は勿論、入念なメディカルチェックもここに来るまで行われた。もはや兵士達の体力は皆無に等しい。その中で鼓膜が揺さぶられる程の大声を出しながら笑顔で談笑を行う。過度な緊張で青ざめながら顔面蒼白なうの兵士よりよっぽどマシだ。少なくとも、緊張で身体を震わせて唇が紫色になり、訳も分からず乱射しないようにとセミオート式のアサルトライフルを渡された兵士よりかは戦果を期待出来ると思わないだろうか。チームに場を和ませるムードメーカーが必要なのは兵士達にも同じだ。何も一般企業やプロスポーツ球団の話しだけじゃない。死の瀬戸際に立たされる兵士だからこそ、恐怖に打ち勝つだけの笑いが必要だ。


「この間の試合観たか? 日本が南アフリカを下したとか未だに信じられねーぜ」


「まったくその通りだ。初対面の相手に近づきもせず頭を下げるだけの消極的な日本人が屈強な黒人共に当たり負けしなかった……言葉だけならまず有り得ない出来事だな」


 アメリカのように同性同士のスキンシップが盛んな種族にとって、日本人の見るからに弱そうな同性同士の接し方はネタにされている。本当に日本だけなのだ。友達同士でさえもハグをしなかったり頬を擦り合わせないのは。と言っても、彼等が日本に対して敵意を持っている訳では無い。兵士達が敵意剥き出しにして、先程までの笑顔が一変して真面目な表情に移り変わる程の標的。それこそが老害と呼ばれる永遠に駆逐されるべき人種だ。頑固者になって年下の言う事を聞こうとせず、自分の意見だけが正しいと思っている連中。日本では老害が増えすぎてアメリカ空軍、海兵隊、その他の特殊部隊に頼らざる終えない。少子高齢化が進んで日本や数多の国を脅かしかねない増殖っぷりだ。武装ヘリから降りた兵士達は顔を引き締めて一斉にトリガーを引く。着陸地点で待ち伏せに合ったのだ。老害共は日本の解放を訴えて裏で仕入れたライフルを使って弾丸を浴びせてくる。しかし、相手は頭でっかちの年配層だ。知識では劣るかもしれないが、体力的には此方が優勢に違いない。それに武器類の多さも圧倒的に有利だ。兵士達は正面突破をしかけて老害の屍を乗り越えていく。そして、スナイパーの拠点に接近する事に成功して、窓からグレネードを投げる。建物内が爆発しようとも安心してはならない。なぜならば相手は老害だからだ。どんな仕掛けをしているか検討もつかない。念には念をと、火炎放射を持ち出して建物中に炎を撒き散らす。すると、部屋の中に閉じこもっていた極右の老害共が黒焦げになって窓から飛び出していた。


「油断するなよ。奴等の拠点はこれだけじゃない」


 老害との戦いに終わりはない。少なくとも少子高齢化の時代が続く限りは。



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