紅染月のマジックアワー
廃油のようなどす黒い汁に、どっぷり麺がつかっていた。
それがほかほかと湯気を上げて、堂々と食膳に上ったのである。僕はもう、どこから突っ込んでいいのか、それすらも分からなかった。ともかく、
「これってさ」
「焼きそばじゃないですよね」
何か続きを言う前に、押し被せてくる九王沢さん。一応分かってはいるようだ。今日も混じりけ無しのストレート、超弩級のお嬢様ぶりを遺憾なく発揮してくれている。
だいたい、嫌な予感がしたのだ。九王沢さんが部屋に来ると言うので、お昼はどこかに食べに行こうかな、と思って候補になるお店を物色していたのだが、
「これ、なんでしょうか?」
いつの間にかしっかりと、買い置きのインスタントの袋焼きそばのパッケージをゲットしていた。それをあのHカップの豊かすぎる胸に押し付けるように握り締めて立っていたのだ。自分の子供を慈しむみたいに。恐らくどうあっても、僕が説明しない限りはずっとあのポーズでいる気だろう。そして僕がそれが何かを話したら絶対に言うのだ。
「お昼はこれがいいと思います」
九王沢さんの魅惑の瞳があんなにらんらんと輝いて、それを真っ向から否定できるような人間は恐らく、この世にいない。少なくともこの時点で、説得するよりも懸命に焼きそばを食べる腹になろうとする方向に自分の持てる力を傾けている僕は、とても哀しい生きものでしかなかった。
「分かりました。つまり九王沢さんは、このインスタントの焼きそばを食べたことがないんですね?」
はいっ、と九王沢さんは力いっぱい頷いた。
「じゃあキャベツでも刻まなきゃな。それ、具入ってないから」
と、僕が貧困の象徴たる我が家の冷蔵庫に立とうとしたときだ。
「調製方法は、どうやらパッケージの裏面に記載されているようです」
まるでラテン語の古文書を読むような目で、九王沢さんが言い出した。嫌な予感その二が砂埃を立てて追っかけてきた。
「これならわたしも自分の力で、作れるのではないでしょうか?」
からの、廃油ラーメンである。全く理解できない。いや、そんなこと言っちゃいけない。僕が悪いのだ。僕が九王沢さんに焼きそばと言うものの定義と外観を、きちんと教えておかなかったから。て言うか、そこから教えてあげないと全然ダメだったのだ。
「あ、あのさ」
僕は絶句したあと、動揺を取りつくろって言った。
「と、ともかく、これはいいから。九王沢さん、これから外のお店にでも何か食べにいきましょう。ね」
「まっ、待って下さいっ!」
トンデモ失敗作を棄てようとする僕の手を、九王沢さんはひっしと握った。
「これはわたしが処理します。ですからもう一度、やらせて下さい。お願いします、次は必ず、那智さんのお昼に完璧な焼きそばを提供しますから!」
「いっ、いいですよ。焼きそばごとき、そんな必死に作ろうとしなくたって」
とは、言えなかった。あの九王沢さんが必死にお願いして、通らないことは地球上に存在しないのだ。
「分かりました。こっちは僕が引き受けますから、九王沢さんは自分で焼きそばを作って食べて下さい」
僕はそこだけは説得した。
だって九王沢さんみたいな子に、こんな産業廃棄物みたいな汁麺を食べさせるわけにはいかない。
「那智さん、そんな…だめですっ、やめて下さいっ」
「いいですよ、元は焼きそばですし」
僕は決意して割りばしを採った。彼氏としてここは、無理はしてあげなくちゃならない。いやむしろ、微笑ましいじゃないか。ルックスばかりでなく、その感性と知性もワールドクラスの九王沢さんの初めての手料理が、無惨にも失敗した焼きそばなんて、かわいすぎる。
ところがだ。
「こっ、これ…?」
美味いのだ。
常軌を逸するほどに。
縮れてふやけた麺をひと口食べて、僕は愕然とした。だってだ。この廃油みたいなスープ、見てくれは最悪だが薄まったソースの味などほとんどせず、しっかりと出汁をとって味を調えた、恐ろしい完成度の『料理』なのだ。化学調味料の味など、微塵もしない。
「ど、どうやって作ったのこれ!?」
元はインスタントだよ?
「冷蔵庫に余っていた材料を使わせて頂いたんです。せっかく那智さんに、焼きそばを作ってあげられるのに、わたしなりの工夫がなくては、がっかりされると思いまして…」
僕は九王沢さんを見くびっていた。この子、何をやらせてもどこかが必ず予想の左斜め上にぶっ飛んでしまうのだと言うことを。
見た目は生ゴミ、しかし実態は一袋数百円の原価を遥かに超えたご馳走。
僕の目の前にある不気味な汁麺はもはや、地球上にかつて存在しえなかった奇跡の一皿に変貌していたのだ。間違っている。のは果たして僕たち常識人か、九王沢さんか。それすらもあいまいになるほどに、これは逸品だった。
「とにかくこんなものを食べちゃだめです」
そんな僕の感動を勘違いして、九王沢さんは切なそうな顔でお皿を引っ張ってくる。
「これは焼きそばじゃありません。その時点ですでに失格なんです。もう一度チャンスを下さい!今度こそわたしが、那智さんに正真正銘のインスタント焼きそばを必ず提供しますから!」
「いいですって!いいから!引っ張らないで、まだ食べてるから!お願い、これ食べさせて!」
結局お昼は、僕がつーまんない焼きそばを作った。
九王沢さんと付き合うことになった年末から、もう夏だ。僕たちはこんな調子で、あのもう半年ほど、カップルとしての生活を営んでいる。
まさに異星人レベルのお嬢様である九王沢さんを大向こうに、上手くいっているかに見えるが、この半年はちょっとした騒動だった。と言っても、九王沢さんと僕との間には、特に何の問題もない。ひとえに対外的な問題だ。そもそも九王沢さんが僕の彼女、と言う認識が社会的に受け入れられる段階に至るまでは、かなり苦難の道のりがあったのだ。
「え、付き合っちゃったですか?て言うか何付き合っちゃってるんですか?」
と、学食のBランチの肉団子をつまみながら、眉をひそめる依田ちゃん。
あのクリスマスが終わり、ある昼下がりのことだ。
依田ちゃんが仲人さんなので、一応デートの首尾についてご報告をしたら、予想外も予想外、驚くほどのしっぺ返しである。
なんとは言え、まさか、僕と九王沢さんを結び付けたクリスマスデートをセッティングした依田ちゃん本人から、遠慮会釈なしのバッシングを受けるとは思わなかった。
「いや、それ話おかしくないか?お前が付き合えって言ったんだろ…?」
「それは、クリスマスの一夜だけの話ですよ。九王沢さんにどうしても、って言われたから。え、て言うか正気ですか!?先輩、九王沢さんと本気で付き合えると思ってます?」
「思ってなかったよ。でも向こうがその気なら、しょうがないだろ」
「しょうがないってあーた」
依田ちゃんが何か言いかけた瞬間だ。
「おいっ、九王沢さんだっ!」
学食でどやどやしている中でもひと際注目を集める声。誰かがゴジラが上陸したみたいな声で、九王沢さん注意報を発令したのだ。その中を悠然と、雲の上を歩くみたいな足取りで歩いてくる九王沢さん。伝説級のHカップの巨乳を揺らして、今日も輝くばかりの美貌だ。
「那智さん、今日もいいお天気ですね!あ、依田さんこんにちは」
「こ、こんにちは…」
おずおずと頭を下げる僕たち。九王沢さんが天使の笑顔で僕たちに挨拶をくれると言うその事実自体が、未だに何か現実離れした光景に見えてならない。そんな僕たちをよそに九王沢さんはバッグからいそいそとスケジュール帳を取り出して話しかけてくる。
「ちなみに午後のご予定ですが、那智さんは授業には出られるんですか?」
「いや、午後は臨時休講だからこのまま帰るけど」
「明日からバイトは確か、お休みでしたよね?」
「うん、だから連休一緒にどこかに行こうかって話してたんだよね?」
「では今からイングランドに行きませんか?」
イッ、イングランド!?
「一応聞くけど、そう言う名前のお店じゃないよね?」
恐る恐る聞くと、九王沢さんはにこやかに首を振った。
「UK、グレートブリテン及び北アイルランド諸国連合のことです。ロンドンまでの飛行時間はほぼ十二時間程度ですから、今から行けば週明け、授業が始まる前には戻って来れると思います。ランズエンド岬に行きたいって、那智さん話してたじゃないですか。宿泊も、ご心配なく。伯母が近くで、農場を経営しているんです」
「うっ、嬉しいけど、今から海外って」
ともかく、周りの視線が痛い。こいつ、一体何様なのだと言う。特に刺すような視線で僕を睨みつけているのは、誰あろう依田ちゃんだ。
「ほっほお。九王沢さんのつてで、ファーストクラスで、ロンドンまで!はっ、ただ乗りですか。宿泊費まで!あー、すでにセレブ気取りと言うわけですか?」
「待てってそれ、僕からお願いしたことじゃないだろ?」
その辺の大学生だって、普通にバイトしてヨーロッパくらい行くじゃないか?
「上手くいって良かったね、九王沢さん。貧乏な先輩にたかられたり、悪いことされたりしたらすぐに相談するんだよ?」
「大丈夫ですよ。那智さんはわたしが想ってたよりもっと、ずっと素晴らしい方でした。依田さんのお蔭です。本当にありがとうございます!」
と言う九王沢さんとは、仲睦まじい依田ちゃん。何が不満だってんだ。僕はちゃんと、彼女に与えられた任務をこなしたし、現時点で、九王沢さんをがっかりさせたりはしてないじゃないか。
「まあ、別にいいですよ、わたしは九王沢さんが幸せならね。て言うか、先輩が自分は世に隠れ無き九王沢さんの彼氏だと、あえて公言したいと言うわけですよね。でもそれ、世の男子が、そう簡単に認めると思いますか?わたしはむしろ、先輩のためを思って言ってるんですからね?」
うう、それくらいは分かっている。あの九王沢さんの彼氏が、将来性の乏しい、飲んだくれ貧乏大学生。自分で言うのも何だが、ただのスキャンダルだ。一国の王女様が日雇い労働者と付き合うに等しい。
そんな僕と依田ちゃんの心配をよそに九王沢さんはほぼ当たり前に僕の隣の席に座り、いそいそと僕の腕に寄り添ってくるが。ああ、今日もなんていい匂いなんだ。いや、そう言う問題じゃない。九王沢さんの魅惑のHカップが僕の腕に押し付けられるたびに、周りからは銃撃に等しい敵意の視線が浴びせかけられているのだ。
「いい小説を書けば、九王沢さんと付き合える!」
文芸部の部室に行くと、もっと大変だった。どう見ても狂信的としか思えない偏った思想が、ほぼ一般常識として蔓延していたのである。
「那智程度の小説で、九王沢さんが彼女に出来ると言うのは絶対おかしい。この文芸部にはもっと、優れた小説書きがいる。それを踏まえた上で、九王沢さんには公正な評価を頂きたい」
と、言うわけでいつもはすっかすかの前期の会報誌の原稿に応募が殺到し、現時点での掲載予定のページ数は規定をはるかに超えた。大手出版社の新人賞並みだ。
「ちなみにこれ、みんな載せて製本すると、一冊とんでもない製作費になりますよ?」
依田ちゃんの危惧はこれだったのだ。
お蔭で編集会議は大荒れである。いつもはファミレスで好き勝手な提案しながら、だらだらやっていたのが、掲載を要求するプリントアウトの山の消化作業で、いい加減、うんざりした。とりあえず一人一作にすることを条件にしたので、それでも掲載原稿は減ったのだが、最低でも春と夏に分割して掲載しないと消化しきれなくなってしまったのだ。
「これ何とかしないと、いつまでも続きますよ?」
まさに、お前のせいだと言うように紙爆弾を投げ寄越してくる依田ちゃん。これなんか百枚の私小説だと言うが、裏に写真入りの履歴書がついていた。こうなると、文芸だか婚活だか分かりゃしない。
「いいよ、じゃあ、僕さ、しばらく書かないから。その分ページ数浮くだろ」
「馬鹿ですか!?つーか責任逃れですか!?」
二つの異なる罵倒を依田ちゃんはほぼ同時のタイミングで投げつけてくる。僕の前ではいつも、抜群にキレッキレだ。
「先輩が責任取らなくてどうするんですか!何とかして下さいよ。根本的な原因解決が出来るはずです」
「なんだよ根本的な原因解決って…?」
「いいですか。そもそも皆は、九王沢さんに振り向いてもらいたいばかりに先輩よりいい小説を書こうと躍起になってるんですよ。だったら話は単純じゃないですか」
それはつまり、九王沢さんを振り向かせようと、躍起になっている連中を納得させるだけの。
もっといい小説を書けばいい。
なるほど道理だ。うん、間違ってないよ。
「で、それ誰が書くんだって?」
と、言うわけでこの夏は館詰である。八月の後半に皆で合宿、と言う名の旅行に行くのでそれまでに、依田ちゃんに草稿くらいは手渡さなきゃいけないのだが、まああんなプレッシャーかけられて、これが上手く進むはずはない。
それにだ。もう一つ恐ろしいことに、いるのだ。僕のすぐ近くに。九王沢さん本人と言う、完全無欠の批評マシンが。
「どうですか、原稿の方は?」
九王沢さんは容赦なくせっついてくる。こういう時、目がきらきらしているから、余計に始末に負えない。
「うん…まあ、いつもよりちょっと頑張ってみたけど」
と、僕はノートパソコンのまま、書きかけの原稿を九王沢さんに渡す。
「拝見します」
即座に九王沢さんは言った。彼女のそれは速読、と言うレベルじゃない。業務用のコピー機みたいにスキャンしているのだ。一瞬であらゆる箇所、ページの一字一句が書いた僕より詳細に頭に入ってしまう。
「どうかな?」
実はまだ一分、経ってない。それでも九王沢さんは即答してくる。
「まず人物描写に一貫性がない気がします。例えばこのページの十二行目…」
まるで早押しクイズだ。しかも書いた人間より的確なんて、同じ人間とは思えない。ちなみに九王沢さんは百ページ以内の中編なら、ほとんど一見して全体の構成から人物造形、文章の展開の組み合わせまで把握してしまうのだ。
「ボツだ」
「そっ、そんなことありません!わたしが今言った矛盾を解消できれば、ちゃんと作品になりますよっ」
と、九王沢さんはフォローにならないフォローをしてくれたが、それをやるのならほぼ、いちから描き直した方がいいレベルだ。やってらんねえ。
「ったく、何で僕がこんなことしなきゃいけないんだ…」
そもそも最初の読者が九王沢さんなんて、一次審査のハードルが高すぎるのだ。公募賞だったら、次回から誰も応募がなくなるほどに。
実は山のような応募原稿の処理は、九王沢さんがやったのだ。皆が書いた原稿は二回に分けても全部掲載できないので、ちょっと厳しい内容のものには寸評をつけて返すことになったのだ。他の編集部員が挫折した原稿の下読みを、九王沢さんは全てこなしてくれた。
そればかりか、それに全部二百字ほどの講評を入れて返却してくれたのだ。なんとその講評が的確過ぎて誰も何も反駁して来なかった。
あー良かったと思ってたら、その最終兵器の矛先がぐるりとこっちに向きやがるとは夢にも思わなかった。
「今日は徹夜ですね!?分かりました、わたし、必ずご一緒しますから!」
で、九王沢さんがやってきた。いつ部屋に呼ぼうかと、こっちはどっきどきしながら機会をうかがってたのにあっさりとだ。
お蔭で僕は半年掃除してない部屋を、二時間かけて大掃除する羽目になった。目につくいかがわしいものは、急いで処分したことは言うまでもない。
だが、これでは恋人なんかじゃなく、館詰になった作家と、担当編集だ。笑ってる場合じゃない。ったく。今日なんか本当だったら、九王沢さんが自宅にお泊りに来るなんて身もだえをして喜ぶべきが、ちいっとも嬉しくない。
「何か欲しいものがあったら、遠慮なく言ってください!わっ、わたしさっき見た駅の商店街、で仕入れて来ますから」
「う、うん…」
ってスルーしそうになったが、九王沢さんはこんな下町の駅前商店街などで買い物をしたことがあんまりないと思う。商店街、と言う固有名詞を発音するとき、やけにぎこちなかった。
「お掃除しましょうか。あ、でもすごく綺麗に住んでますね、那智さん」
さっきさんざ掃除したのだ。当たり前だ。お昼の焼きそばみたいに水着グラビア雑誌でも九王沢さんに見つけられたら、とんでもないことになるに決まっている。怒られる前に、詳細な解説を求められるだろう。そっちのが精神的にきつい。
「何でもわたしに欲しいもの、言ってくださいね。遠慮はいりません」
ああ、今一番欲しいものか。九王沢さんあなたです、ってちょっと冗談めかして言ってみようかなあと思ったが、これまた本気で解説を求められたら、そっちのが面倒くさいので、僕はあわてて口を噤んだ。
に、しても一応、この九王沢さんが僕の彼女なのだ。
九王沢さん、今日は避暑地のお嬢様を地で行く、薄いブルーのワンピースだ。着やせするタイプなので一見ほっそりとして見えるが、近くで見ると、やっぱりその、胸の辺りに視線が行く。その、メロンみたいに、たわわに実ったおっぱいが。
「おっぱいかあ…」
「えっ…」
九王沢さんは信じられないと言うように、目を見開いた。
やってもうた。
執筆の苦痛から、ついに禁句を口走ってしまった。僕はあわてて誤魔化したけど、遅かった。完全なるセクハラである。これまで地の文やカッコ書きでおっぱいを連呼していたと言うことはあったが、面と向かって九王沢さんにその言葉を言ったことはない。何しろ相手は爆乳の癖に、天使の笑顔のリアル聖処女だ。言えるわけない。そもそもだ。本人は逆に大きいのを気にしてるかも知れないじゃないか。
「今、なんて言ったんですか?」
「いっ、いやその今のは内なる願望のぼやきって言うか、息漏れみたいな感じで、その…九王沢さんのことなんかじゃ絶対なくて…」
「わたしのことですか?」
と、九王沢さんはそのものずばりの自分の爆乳に手を当てて首を傾げる。世の男はこの僕があの、Hカップのおっぱいを好き放題していると思いこんでいるのだろうが、冗談じゃない。あれは彼氏の僕でさえ、いまだに犯すべからずの禁断の果実なのだ。やたら実り過ぎているがまだ収穫時季は来ない、と言う。
「いやその、九王沢さんのことじゃないよ!だからね、ちょうどほっ、欲しいものがあったんだよ。思い出せなくてさ。確かさ、はっ、初めに『お』がついて最後に『い』がつくって言う…」
「最初に『お』で最後に『い』…ですか」
九王沢さんは眉根をひそめると、一生懸命考え出した。何とか時間稼ぎに成功した。こうやってるうちにどうにか話題を逸らそう。
「さ、さてもうちょっと書くかな…」
とデスクを振り返って知らんぷりしようと思ったら、九王沢さんがぐいっと僕の肩を掴んだ。
「分かりません!」
ええっ!?他のことはみんな即答なのに!?
「一緒に考えて下さい。那智さんだって、思い出しかけてるじゃないですか」
「い、いや思い出しかけはしたけど、今はいいから」
「よくありません。このままだとわたしも何だか、気持ち悪いです。わたしも協力しますから、ちゃんと思い出しましょう。さあ」
「ええっ」
完全に裏目に出た。一心不乱に物事を考えるのが大好きな九王沢さんの習性を利用したつもりが。思い出すも何も。面と向かって言えたらこっちだって、苦労しない。
「最初に『お』で最後に『い』ですよね…?」
おっぱいだよ。
言えない。いつか大声で言ってみたいが。それでなくても以前、依田ちゃんが吹き込んだ『那智先輩は性的にやりたい放題』だと言うデマを解消するのに、あれだけ苦労したのだ。
「それは食べ物ですか?それとも別のもの?」
「どっ、どっちだろうね…?」
確かに食べ物かも知れないけど、やっぱり別のものかも知れないぞ。
「真剣に考えて下さい。わたし、絶対手に入れてみせますから!」
九王沢さんがぐいぐい迫ってくる。この角度はまずい。僕の今一番欲しいものが、やたら魅力的に見える。ああっ、あんなに谷間が深い。
「おっ…」
「お!?」
おっぱいだよ。目の前にぶらさがってる!しかもゆさゆさ迫ってくる。限界だ。言うしかない。僕は、覚悟を決めて声を上げた。
「『温度計』ッ!」
…って、そんな度胸あるわけないじゃん。
九王沢さんが電気屋さんで温度計を買って来てくれた。まったく必要ないものなのに暑い中、本当に申し訳なかったと思う。最近の温度計はデジタルでかわいかった。わあっ、湿度もちゃんと表示されるんだなあ。
「感動する小説…感動する小説…」
冷房病になりかけた頭の中でぐるぐるその単語が回る。うっかりそのままそれを原稿に書いてしまうところだった。
ああ、もう四時だ。結局、夕方になってしまった。小説は一行たりとも進んでいない。大体無茶なのだ。プロ作家じゃあるまいし、こんなに根詰めて小説が書けるはずがない。一行たりとも進まねえ。ああ、やってらんねえ。
さっきまで一時間ごとに九王沢さんに原稿を見せろとせっつかれて困ったが、もう鬼編集者の根気もつきたのか、声をかけてくる気配もない。それはそれで、寂しいっちゃ寂しいが。
がらんとした部屋を僕は見回した。すると、さっきまで部屋の隅にいた九王沢さんがいない。あれ、トイレかな。やけに静かになったと思っていたが、そう言えばさっきまで九王沢さんも何やら海外に送る記事みたいなものを、ちょこちょこ書いていたのだ。
「那智さん」
と、思っていると、がらりと寝室のドアが開いて驚くべきものが姿を現した。なんと、髪の毛を後ろにまとめて青い朝顔の柄をあしらった白い浴衣を着た九王沢さんが、そこに立っていたのだ。不意打ちな上に、物凄い破壊力に僕は一瞬、言葉を喪ってしまった。
「そっ、それ…?」
「今日は花火があるらしいので、持って来たんです」
いつもの五倍増しくらいのかわいい天使の笑みで、九王沢さんは微笑んだ。
「そろそろ夕涼みに出ませんか?」
感無量、と言うやつである。
感動する小説なんざ、けっ、一行たりとも書けはしないが、今の僕自身は『感動』の二文字に浸りきっている。なんとあの、九王沢さんと浴衣デートで花火だ。ゲームなどでは定番のイベントだが、なぜこれが定番なのか、よく分かる。やっぱり定番って外しちゃいけないのだ。
あの九王沢さんと腕を組んで、夜店を歩く。ブーン、と言う夜店の発電機のモーター音が辺りに響き、チョコバナナ、りんご飴、亀釣り金魚釣り、射的などの屋台には浴衣を着たカップル連れが通りすがる。近所の子供たちがはしゃいで走り回る。他の女の子ではありえないが、九王沢さんのすごいところはそのすべてが未経験だと言うことだ。
「那智さんっ!すごいですね、縁日って!わたし、帰りたくなくなってきちゃいました!」
子供みたいに目をきらきらさせて、どこまでも僕の腕を曳く九王沢さん。じゃんけんでチョコバナナを一本余計にゲットして、テンションは最高潮だ。僕もお祭り見物なんて、久しぶりだったが楽しかった。
まあそりゃ、去年みたいに一人じゃ楽しくないに決まってる。縁日なんて、人混みで余計に気温は上がるし、神社はそこかしこに蚊がいるし、ビールはぬるいしで何もいいことはない。クーラーががんがんきいた居酒屋でジョッキ生を傾けて、テレビで花火中継でも見る方がよっぽど楽しい。
夏の熱気と日向の匂いが、まだ道に残っていた。
「ビールです」
「あ、ありがと」
九王沢さんが屋台で買った紙コップのビールをサービスしてくれる。そう、これだよこれ。大人になったら、一緒に行く人がいなかったら、縁日なんてなーんにも楽しくないじゃないか。
たこ焼きと焼きそば、焼きとうもろこしにケバブを買って二人で分けておつまみにする。九王沢さんはプラスチックのグラスに入った白ワインだ。一昔前はお祭りのお酒なんてビールしかないのが普通だったけど、最近では屋台で売っているものも案外バリエーション豊富だ。
九王沢さんはもちろん、これも初めて見るたこ焼きに夢中だ。つまようじを挿したたこ焼きをスマホの写メで撮ってイギリスの両親に送っていた。
「そしてこれが、インスタントじゃない本当の焼きそばですね!?」
「いや、そんなに大げさなものじゃないから」
その辺の町内会の屋台が炒めた焼きそばだ。そりゃ鉄板焼きでインスタントとは段違いだけど、焼きムラがあってキャベツが生だったり、ソースがよく混ざってなかったりして、素人料理のご愛嬌も味のうちと言うもので、とにかくそう騒ぐものでもない。
「今日は、感動しました」
まだ、花火も始まってないのに九王沢さんは目を潤ませていた。それこそ、連れて来た甲斐がある、と言うものだ。
「感動した、か」
にしても人を感動させるなんて死ぬほど難しいと思ってたのに、これほどあっけなく九王沢さんから感動した、と言う言葉が出るものだと思うと、拍子抜けもいいとこだ。文章や文学の世界では難攻不落なのに、九王沢さんを感動させるには、どんな紙数を費やすよりも、その辺でやってる夏祭りに連れて行けばそれで十分なのだ。
「那智さん、『感動』は、『好き』に似ているのかも知れませんね」
ふいの九王沢さんの言葉に、僕は、はっとして息を呑んだ。九王沢さんといると、こういうことがある。一瞬、テレパスでも使えるんじゃないかなと思うくらい的確に、僕が考えていることを捕捉するのだ。
九王沢さんは僕の空いている方の手をそっと両手で握ると、自分の身体の方へ寄せてきた。心臓が破裂するかと思った。しかし九王沢さんは、淡く微笑むばかりだ。そうしてちょっと潤んだ瞳で何を言うかと思ったら。
「わたしのこと、好きになって下さい」
「はい」
即答してしまった。いや、もう好き、って言うか、今のでコアヒットしてしまったのだ。しかし、九王沢さんの狙いは違うところにあったようだ。自分で言った癖に、顔がぼっと一気に真っ赤になっていた。
「そっ、そう言うことじゃないんです。今のは」
ちょっとぴんときた。そこで僕は思ったことを言ってみた。
「僕たちが、こうやって付き合ってからじゃなくて、初対面だったらどう思う?って言う話かな」
「そうです」
こくこく、と、九王沢さんは頷いた。
「そうしたら那智さんは今みたいに、即答できますか?」
また、はい、って言いそうになったけど、やっぱり九王沢さんの言う通りだと思った。だって半年前、僕はそうやって九王沢さんにデートに誘われたのだから。正直あのときの僕は、ただただ、面喰っただけだ。
九王沢さんのことは確かに元から超弩級にかわいいと思ってはいたが、異性として付き合うかどうかなんて、思考の段階で言えば、まだまだ、はるか先なのだった。あのときの僕は実際、九王沢さんが本当はどんな女の子なのだ、と言うことすら、まともに把握していなかったのだから。例え反射的に、
「はい」
と言ったにしても、その答えは九王沢さんを満足させはしなかっただろう。
彼女はたぶん、こう言っただろうから。
それは、僕自身の言葉じゃない、と。
「『感動』と『好き』。この二つの言葉だけは、たぶん口にしたら、その瞬間から本質から離れてしまうと思います。だからもしかしたら、それを文章にして他の人に感じてもらうには、その言葉自体を、なるべく使わない方がいいのかも知れません。だって、わたしたちは皆、究極的には誰か他の人にはなりえない。『違う』のですから」
僕はずっと、闇の中でも清かな光沢を帯びて輝く、九王沢さんの瞳を見つめていた。確かにそうかも知れないと思った。今、彼女が口にした、好きになって下さい、の『好き』はそのまま置き換えられることなのだ。極論だが、
「これを読んで感動してください」
と主張する小説は少なくとも、本質的に『感動する』小説にはなり得ない。なぜなら僕たちは、それぞれ勝手に『感動する』のだ。究極的になり得ない、他人の話から自らの中に共通点を見出して。つまり僕たちはどこまでも、『自分自身について』感動している。いや、もっと言えばそれを理解し合える他人が存在し、自分の大切な感情を共有しえると感じられることに喜びを見出すのだ。
絶対的に『違う』彼岸にいるはずの僕たちは、それでもつながろうとして『感動する』のだろう。
「ここで必要なのは、『想像力』です」
九王沢さんは秘密の扉をそっ、と開けるように言った。
「わたしたちの『感性』は、それぞれ違うデータバンクで形成されています。しかしあるたった一つのイメージで、同じ検索結果がともに現れたとき、わたしたちは『伝わった』と判断します。つまりそれが、恐らく『共感する』と言うことなのでしょう。しかしここで一つ注意したいのは、それが完全な一致がもたらしたものではない、と言うことです」
僕はそこで密かに息を呑みそうになった。九王沢さんが、『感動する』ことが『好きだ』と言うことと、同じだと表現した本当の意味に気づいたからだ。
「突き詰めたら、実は『違う』と言うことしか分かりません。だから不完全でいいんです。必要なのは、不完全な『正解』なんです。『不一致ではなく、一致に近い不一致』」
と、言うと九王沢さんは謎めいた笑みを投げかけて僕の表情をうかがった。
「これがわたしが、那智さんに教えてもらった『好き』と言う意味だったと思うんです」
突然ぱらぱらと火薬が弾ける音がして、紅い光が、九王沢さんの美しい顔を脇から照らした。闇の中で光る瞳はより一層きらきらして、僕は花火よりもむしろそこから、目を離せなくなりそうだった。
「花火が始まったみたいですね」
しかし九王沢さんは、その視線を外した。僕はやっとそれで、我に返った気がした。そうだ、九王沢さんは何より花火を楽しみにしていたんじゃないか。
紅い色は、薔薇の花をイメージしたものだと言う。打ち上げ花火に、それぞれテーマが設けられているのだと知った九王沢さんのテンションは最高潮だ。色とりどりに辺りのビル群を染める花火は、空気を揺るがす轟音を立て続ける。その音が盛大に上がるたび九王沢さんは、どよめく観衆と一緒に声を上げて僕の浴衣の袖を引っ張った。
僕はそれを見て、何だかほっとしたような気がした。九王沢さんと話していると時々、地から足が離れて、どこか別の世界へ連れ去られたみたいな気分になる。それはそれで悪くない気分なのだが、日常に引き戻されて思わずはっとしてしまう。僕の隣にいるのは、そんな風にして知れば知るほど不思議な女の子なのだ。
ふと、九王沢さんが意味ありげに瞳をきらめかせて僕を見た。何かを思いついたのだ。形のいい唇をすぼめて、彼女は歌を口ずさむようにこう囁いた。
Rose is a rose is a rose is a rose…
「『バラはバラでありバラでありバラである』。二十世紀を代表する前衛作家、ガートルード・スタインの言葉です」
又は二十世紀を代表する美術評論家と言ってもいい。二十世紀初頭、美術をはじめとするあらゆる文化の忠心だった最盛期のパリをリードした女性、それがガートルード・スタインだ。彼女が開くサロンには当時最先端の表現者が集まり、まさにエコール・ド・パリと言う言葉を象徴する人物だった、と、九王沢さんは言う。
「スタインは若き日のパブロ・ピカソを発掘し、修業時代のヘミングウェイに影響を与えました。彼女自身も美術評論や収集の他、小説や詩も手がけました。『バラはバラでありバラでありバラである』、この一節は『聖なるエミリー』の中のフレーズと言われていますが、どのような意味かご存知ですか?」
僕は、首を振った。恐らく何らかの底意を秘めた言葉だとは思うが。
「一般的には、薔薇がそうであるように『物事は、本来、それ以上でもそれ以下でもない』ものだ。そのように解釈するのが適当かも知れません。さっきの『感動』の話につなげるとするならば、例えば『美しい』ものは、人が『美しい』と言う意味を与えて初めて、『美しい』。それは『バラがバラであることとは、何の関係もない』」
僕は疑問なく頷いた。何となくだが、言いたいことは分かる。例えば今打ち上がっている花火だって綺麗なものだが、それは観衆が『綺麗だ』と言う価値を与えなければ、『綺麗なもの』になり得ないと言うことだろう。見方がうがちすぎた概念のように思えるが、まあ、納得できない話じゃない。
「今、わたしたちは『綺麗だ』と言う概念を共有しています。だから花火は『綺麗』なのでしょう。確かに理屈は通っています」
しかし、と九王沢さんはなぜかあえなくかぶりを振るのだ。
「さっきの言葉に戻ります。しかしスタインは、このフレーズの意図を言及していません。彼女はただ、この言葉の響きが『楽しい』から、詩にしたのだ、と述べています」
スタイン自身の著『アリス・B・トクラスの自伝』において、このフレーズを延々と繰り返し、彼女のシンボルのように扱うといいと言ったのは、スタインの秘書であり終生の世話係だったアリスだったのだ、と言う。
「この言葉に、本来定義はないのです。つまり、どのように読む人がイメージを持っても自由なのだ、とスタインは表現したかったとわたしは解釈します。同時に、それは『人を感動させるもの』と言うことの本質を衝いていると、わたしは思うんです」
「本質?」
また花火の音が、轟いた。あの薔薇の花の色だ。また、九王沢さんの顔に紅色の照明が当てられたようになった。
「ちょっと思い出して下さい。わたしたちはこの言葉をもう一つの意味で、イメージすることが出来ると思います。那智さんはその風景を、わたしと、イングランドで見たことを憶えていますか?」
「薔薇を?」
言われて、僕はようやく思い出した。そう言えば九王沢さんの伯母さんが経営するコーンウォールの大農場で一面の薔薇園を見たのだ。
Rose is a rose is a rose is a rose…
そのフレーズは、薔薇園を管理しているお婆さんが言っていたのだ。
「お嬢様に教わったのよ。誰のかは忘れたけど、いい詩よ」
体格のいい、白髪の綺麗なイングランド人の女性だったが、彼女は九王沢さんに教わったスタインの詩がお気に入りで、ずっと口ずさんでいたのだ。目の前の光景に僕も一瞬、目を奪われた。なんとそこには麗らかな初夏の陽に蒸れて、海のようにして咲き誇る見頃の薔薇の花々が群れていたのだ。
ただ、息を呑むしかなかった。
そこにあるのは、それ以外に何も考えられなくなるほどの薔薇であり、薔薇であり、薔薇であり、薔薇であった。
「こう言うしかないでしょ?」
肥った老婆は朗らかに微笑むと、ちょっと肩をすくめた。
「今のあなたみたいにただここに立って、見上げれば誰にでも分かるのよ」
「美しいは、美しい。綺麗は綺麗」
九王沢さんは僕の横で歌うように言った。
「感動するものは、感動する。それで、いいんです」
ぴったりと、九王沢さんは僕に身体を寄せてきた。その途端、僕たちに目を見張るような紅色の光が降り注いだ。すぐ傍の夜空一面に、大輪の薔薇が咲いていた。思わず、次ぐ言葉を喪った。
「八月を日本の古語では、紅染月、と言うそうですね」
そんな僕を後目に九王沢さんは、目を輝かせて言うのだ。紅い光に染まった夜空はまさに、その言葉に相応しかった。
「魔法の時間です。今はちょうど、『紅染月の魔法時間』かも知れないですね」
降り注ぐ光の中で九王沢さんは、その天の使いのように微笑むのだ。
「わたし、今、感動しています。那智さんとこうやっていられて幸せです。また来年もこうやって花火に連れてきてくださいね?」
(そうか)
ありのまま、感動したことを書けばいいのだ。人を感動させることなど、本質的には出来ない。自分の感動を、伝えることが出来なければ。吹っ切れた。これだ。それから僕は足早にアパートに戻ると、一気に思いの丈を書き上げた。タイトルはそのまま、『紅染月のマジックアワー』だ。九王沢さん、驚くぞ。これぞ、感動する小説だ。
「ボツ…ですね」
轟沈だった。徹夜で書いたのに、起き抜けの九王沢さんに一刀両断された。
「何を表現したいのかは、分かりますよ。でもたぶん、那智さんのこと、よく知らない人だと、なんのことだか、判らないと思います」
感動ってムズカシイ。やっぱ、なんのこっちゃだ。
(魔法の時間、か)
九王沢さんがあの晩、言っていたフレーズがその途端、頭に引っかかってきた。あれはまさに魔法の時間だったのだ。それはほかの人にはありふれていたとしても、そのときその場所にしか現れない、再現不可能な魔法の時間。そんな魔法の時間を人と共有するのは難しい。あの晩、それを九王沢さんとだけでも共有できたことが、まず奇蹟なのだ。
「先輩、それで原稿は?」
「あっ」
秋号には九王沢さんの文句のつけようのないエコール・ド・パリの美術と文学の論文が載った。インターネットで話題になったお蔭で学術畑に好評になり、他大学からも教授が買いに来た。
ちなみに。おまけに掲載された、原稿を落とした僕の全身全霊の謝罪文と依田ちゃんの講評会での容赦ないダメ出しとバッシングが、文芸部員全員の涙を誘ったことは言うまでもない。
この秋、全文芸部員が泣いた。