『彼女』
なぜ私が無理に通いつめてまで
毎日貴方に会っていたのか
好き以外の理由を
考えたこと、ある?
あの頃ははただ別れたいと思っていた。最初はよかった、どれだけ僕を想ってくれているかっていう、安易な考えでいれたからだ。
彼女はどんなに遅い時間になっても、その日の都合をつけて会いに来た。
最後は狂気の沙汰でしかなかったけれど、牽制をしつつ、僕は彼女を拒絶することができなかった。
好きだったから、まだ彼女を。
「どういうこと?」
聞き返す僕に、彼女は訝しげな視線を向ける。彼女は長い金髪を後ろで束ねていたけれど、派手という印象はなく、緩くかかったパーマがどことなく彼女を上品にみせていた。
「私が貴方といる理由、でもいいよ」
「好きを抜いてだろ?まさかお金とか?」
彼女は笑う。『まさか。第一貴方、そんなもの眼中にないじゃない。あたしもそこまで財や名声に興味が無いわ』と。
たしかになぁ、なんて笑って見せれば、彼女は不意に笑みを絶やす。
「貴方、なにを考えているの?」
では、何故か。
断っても断っても、逃げても逃げても見つけに来る彼女に、いつの間にか僕は優越と蔑み、あとは可哀想な子供を見るような、妙な慈しみを覚えていた。
いつからおかしくなったのか、変わったのは彼女、いや僕ではないか。
赤いバレッタがよく似合うその髪を、僕は撫でながら呟く。
「なんで、僕を好きになったの?」
彼女は好き以外の理由を問うたけれど、僕にはどうでもよかった。
それに同意義じゃないか?追わずにはいられない理由が、好きになる前にあるのなら。
「そんな風にいうのね、貴方。」
とうとう、ぼくまで捻くれてきてしまったんじゃないかって。
「 僕をこうしたのは君だから。僕をこうしようとしたのも君なら、別れるだなんて、君だけが逃げ出すなんて、どうしたって許せるはずが無いんだ 」
あたりはずれなんて、もうどうでもいいよ、と。
にかっと笑って見せれば、目を見開く彼女にどうしようもなく触れたくなる。
手を伸ばして、彼女の後ろ髪。赤いバレッタに触れて、ほどいた。
あいしているよ、と。
そんな甘い言葉なんて、なかった。
Fin.