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英雄

作者: Irene

ずっと貴方の姿を見ていました

痩せ、衰え、それでも戦う貴方を

その真っ直ぐな背中を

私は側で見続けていました


始まりは九年前、

まだ貴方が現役の船長であった時の事

定例の人間ドッグ

そこで最初の癌が告げられた


家に戻った貴方は

冷静に母にそのことを告げた

蒼白になった私に

初期だから大丈夫だ、と告げてくれましたね


手術には貴方の友人が駆けつけた

これはその方との最初の出会い

これから始まる貴方の戦いの

とても頼りになる優秀なパートナー


手術から一年、何も無かった

全てが順調で安心していました

その時貴方を襲った発作

今度は心臓に欠陥が見つかった


それを知ったその足で

貴方は命の危険を冒しながらも帰ってきた

泣きながら募る母に言いましたね

それでも家族のいる母国に帰りたかったと


仕事を止め穏やかに日々を過ごしてましたね

それでも病魔は人知れず潜んでいた

欠けた貴方の左手の薬指

果たしてそれは奇跡か偶然か


ひょんな事で負傷した指

それの治療の段階で見つかった二回目の病

初期段階で肺に見つかったそれ

これは幸運だと信じたいです


半分の肺を切除した後も

貴方は変わらずあろうと勤めてましたね

癌治療にも立ち向かい

其処に訪れる方々に勇気を与えてましたね


治療があっても変わらず私達と共に収穫に来てましたね

辛い筈なのに凍て付く冬の風の中

共にいてくれましたね

そんな貴方を尊敬していました


けど運命は残酷でした

貴方が抗えば抗うほどに

まるであざ笑うかのように全てが狂いました

その理由は病だけではありませんでした


今も思い出しますあの夏の日を

貴方の目が心なしか黄色く見えたあの時を

医者は誰も気づかなかった

不運は貴方の友人がこの国にいなかったこと


黄疸に気づかなかった医師達に

治療を受けながら貴方は彼らをからかった

それをすることで彼らをフォローした貴方を

強いと言ったのは誰だったか


その数ヵ月後貴方は高熱で倒れました

原因不明のそれに手立てはなく

病室で苦しむ貴方を

私達はただ見ているしか出来ませんでした


やっと見つかった原因、それは院内感染

二種類のそれは巧妙に隠れていました

すぐさま対策をとる医師たちを横目に

私に怒らないよう宥めていましたね


その後の検査で見つかった癌

それは二箇所同時に再発されていた

涙を耐えながらそれを告げる貴方の友人に

貴方はただ静に微笑んだ


体力の限界を超えていたその体は

もう手術に耐えるほどの力は無かった

只気休めの抗がん剤を投与するしか

手立てはありませんでした


その時貴方は我侭を言いました

それはとても小さな我侭

だけど貴方にとって大切な我侭

それを叶えない家族はいないと断言できましょう


遺された時間はごく僅か

その時間を貴方は懸命に生きました

私達家族と共に

そう、それが貴方の我侭


少しずつ、少しずつ自由が利かなくなる体

それでも貴方はいつもどうり振舞ってました

だからそれに答えようと

私達もそうしました


痛みがだんだん強くなっても

貴方は薬を頼りませんでした

せめて最後のその瞬間まで

あなた自身で居たいからと


再発からもうすぐ一年

とうとうその時が近づいてきました

食事すら満足に取れなくなった貴方は

ある朝、私を密かに呼んだ


呼んだ私を静かに見つめる貴方

枕の下から銃を取り出し

それを私に渡した

そして、コロシテクレトイイマシタ


嗚呼、きっと後にも先にも

貴方に逆らったのはその時だけでしょう

声を荒げ拒否する私を

不満そうに、でもどこか満足げに見ていた貴方が脳裏に焼きついた


それから貴方は緩やかに死んでいった

最初は体が、次は声が

眠る時間が増えていくのを只見ていました

母と共に貴方の元から離れませんでした


あの日、お昼近くのあの時間、

貴方は声なき声で私達に窓を開けるように言いました

そして、窓から見える村を一望しながら

眠るように逝きました


貴方は違うと言うけれど

なりたくないと言うけれど

それでも私は声高々に言うでしょう

歴戦の猛者たちと同じく貴方もまた


      強く、気高い、英雄です  

           と

モデルは父です

気持ちの整理をつけるために書いたものを日本語に書き直しました

で、そのまま投稿

...こうやって書くと家の父親凄かったんですね...


病名であれ?って思うのがあったら言ってください

たぶん大丈夫だと思いますが...


感想お待ちしております!(ペコリ)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  英雄の生き様が連ねられています。  力強さ、気高さとは、ただ戦うことができるだけではありません。  いかなるときであっても自身を「演じる」というくらいまでの精神がなければなりません。  …
2014/07/19 22:05 退会済み
管理
[良い点]  読みやすかったです。  病と闘う姿もすべての行いが英雄にふさわしいと思いました。  分量が少ないながらも、無駄が省かれている。  ストーリー性もあります。 [一言]  拝読させていただき…
2014/06/22 21:22 退会済み
管理
[良い点] 感涙しました [一言] うちも父が癌で入院し、壮絶な闘いののち、父は戻ってきました。 そのあとは元気で不倫したりして充実な毎日みたいですよ。
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