僕達が見る世界
ちょっとだけちょいエロなシーンがありますが、エロくないと思います。
あそこにあるのはゴミの山、そう言う人が多いけどそれは違う。
僕達にとってこの山は宝物だ。遥か上空で光る星のように輝いていて、とてもキレイで美しくて感動さえして、何だか安心する。
深呼吸をして電源を入れる。もう眠たくない、早く宝物から一等星を探したい。振り向くと野良猫が笑っていた、欠けた歯を見せながら。
僕は首にかけているカメラを、ピースしているような野良猫に向けた。ピントを合わせ、AFの切り換えスイッチで近景にして、シャッターボタンを押した。その瞬間カシャっと音がなり光った。
手応えがあった、きっと良い感じに撮れているだろう。早く現像したい、けど焦っちゃイケない、今から宝探しするんだからコレに集中しないと。
【ゴミはごみ箱に捨てて下さい】
この看板を見ると政府がどれだけいい加減なのかがわかる。監視カメラや見回りをしている警察がいない、じゃあ捨てましょう、気付いた時にはもう山なっていた。放ったらかしにしたのが悪い、こんな看板意味がない、でもいい加減な政府のお陰で僕達は生きているんだ。
蹴飛ばしてやれ、だからといってお礼なんて言わない。踏ん付けてやれ、いつも高見から見やがって。跡形も無くなれ、何故神様は良い人間と悪い人間を作ったの。
昔より今の方が幸せだからどーでもいいか、例え家族と縁を切ったとしてもさ。はは、家族との思い出なんて忘れてしまいたい、だって過多だもん、悪事過多、悪い人間なんだ。
暴行、強盗、傷害、殺人、誘拐、猥褻、ありとあらゆる犯罪を犯した。僕は悪魔の子と言われ、誰も近付かず手を差し伸べてくれず、いつも独りぼっちで泣いていた。
その時抱き締めてくれたのがエリーナだった。同い年なのに僕なんかより何百倍もしっかりしてて、とても強かった。エリーナも親が原因で独りぼっち、他にも幾つか共通点があったから共に行動できた。
この宝の山に連れてきてくれたのはエリーナ。ここが楽園だって教えてくれたのも、街の人は不幸せと教えてくれたのも、生きていくすべを教えてくれたのも、好きと僕の耳元で告白したのも。
僕も同じだ、好きだ。だから互いの唇を合わせた、愛し合った。売春のように金銭目的じゃなく、愛あるものだ。パートナーの心音が、体温が、伝わり世間からどれ程後ろ指を指されても僕達は生きているんだと実感した。
互いの胸にそっと手を置くとわかる。ドキドキと脈打つ心臓、生きているという証。エリーナは恥ずかしがってるけど、恥ずかしい事なんてしてないから目を開けなよ。僕を見て、もっと見て、僕もエリーナを見るから、全てを見るから。
この時間が永遠に続いたらどんなに幸せだろうか。神頼みをしたさ、心を込めて心の奥底から頼んだ、だけど願いは届かなかった。太陽が顔を出し、今日が始まっただけ。風が吹いていた、追い風だった。
朝と昼は二人で宝探しに向かい、夜は愛し合った。この繰り返しはほのぼのしていて平和で、気付いたらエリーナのお腹に新しい命が宿っていた。産まれてくる赤ちゃんはやさしい人間になってくれるだろうと信じたい、やさしい僕のこどもなんだから。
しかし、世界が音もなく崩れた夢を見た。何かの予兆か、だとしたら守らないと、今日は宝探し中止だ。一日中家にいよう、手を繋いでいよう、君から絶対離れたりしない。
お昼が過ぎた頃、外からウルサイ足音が聞こえた。奴等だ、政府がやってきたんだ。何しにきたんだ、今更ここを追い出しにきたのか、楽園を荒らしたら一人残らず殺してやる。
僕はエリーナを抱き締めた。怖くないよ、僕がいるから大丈夫、エリーナの震えを止める為に互いの唇をつける、今日は舌を絡ませた。
いつのまにか足音は聞こえなくなっていた。そーっと扉を開けると、宝探しをしている仲間の姿は少ない。あれ変だな、皆疲れちゃって家に帰ったのかな。
夕焼けの中歩く、エリーナはスヤスヤ寝ていたから僕一人で。少し歩くと顔がない人形を見つけて満足気な女の子がいたので、気になる事があったから話し掛けてみる。
「奴等が何かしたのか教えてほしい」
「私達を助けてくれるって言ってたよ」
「助けてくれる……」
「街には地上の天国があるんだって」
皆はソコに行ったというのか、楽園を捨てて、僕達は繋がっているんじゃないのか。そんな訳ない、ある筈ない、夢なんだ、コレは悪い夢なんだ。覚めろ、こんな世界にはいたくない。
「消えてしまえ」
「えっ」
「さっさと僕の前から消えろ、目障りだ」
「ひどい、ひどいよ」
早く覚めろ、息が詰まって苦しい。早く行けよ、地上の天国へ。楽園がこの世界で唯一幸せになれる場所という事が分からない奴なんて、繋がっていない。千切れてしまったんだ、何もかも全部。
泣きながら走っていく女の子、泣かせたのは僕だけど罪悪感なんてない。仲間じゃないから、よそ者だから、泣かせても良い。
さあ、早く夢から覚めよう。エリーナが待っている、皆が待っている、宝の山が待っている。
扉を開けた、雨が降っているけど構わず開けた。誰もいない、雨が降ろうと風が吹こうと台風が来ようと、一人は宝探しをしているのに。
簡単に繋がりは千切れるんだ、仲間だと思っていたのは僕だけなんだ、仮面を被りやがって、畜生。その場で泣き崩れるしかなかった、悔しい悲しい歯痒い辛い虚しい、ソレらが涙となって流れてくれたら笑顔になれる。
エリーナ、僕の背中を擦ってくれて有難う。エリーナ、僕らはいつまでも繋がっていようね。エリーナ、神様はいつか光を射してくれるよ。
今だ、今しかない、我が子よ。出ておいで、ママに負担をかけずに。パパは手を伸ばし待ってるからさ、小さな君は小さな手で僕の指を掴んで。
時計の針はカチカチ動く、戻りはしない、進み続ける。そうだな、今度長針が天辺にきたら君は掴むよ。僕にはわかるんだ、君のパパだから。
雨音に負けない泣き声が楽園に響いた。元気な声だ、生きている声だ、我が子は誕生した。生きようとしている、泣いて酸素を取り入れ、僕の指を力強く掴み。産まれたばかりなのに凄い、精一杯だ、体中が熱くなってきた。
エリーナ、女の子じゃなくて男の子だったね。エリーナ、スカートをはかせるのは可哀相だからズボンにしようね。エリーナ、この子の名前はどうする。
「ウィルよ、名前は」
「エリーナが付けた名前なら何でも」
僕の手を握るエリーナ。痛い、もっと優しく握ってよ、お願いだから。するとエリーナは下半身から血を流しながら、僕を押し倒した。何するんだエリーナ、落ち着こうよ。
「好きよ、大好きよ」
僕も好きだよ、大好きだよ。愛し合うなら言ってくれれば良いのに、何で無理矢理、これじゃあ愛があるのかワカラナイよ。
ウィルが見てる、教育上良くないからやめよう、今直ぐにでも。僕は金縛りにかかってるみたいに体が動かなかった、だからエリーナを止められない、いつのまにか止めないでと言っていたけど。
雨が上がり陽光が射し込む、血と精と何かのにおいが充満していた。窓を開けよう、そうしないとクラクラする。六畳しかない小さな家だからもっと広くしないとな、胸を高鳴らせ呟いた僕はスッキリしていた。
最後の交わりはとても気持ち良かった。エリーナ、今まで僕を支えてくれてありがとう、ゆっくりお休み。ウィルは責任を持って僕がしっかり育てる、この命にかえても。
「もう宝探しをしているのか、はりきってるね」
「へへへ」
少しだけ成長したウィルは既に宝探しを始めていた。ウィルはエリーナの事を覚えていない、でもエリーナの事を僕が話しているからゼロの小さな心の中で生きているんだ、キラキラしてるんだ。
凄く愛らしいね、自分の子は何でこんなに愛らしく見えるんだろう。エリーナ、僕達の息子は世界一愛らしいよ。天から見てるかい、円らな瞳で。
「お父さん、何で家はいっぱーいあるのに誰も住んでないの?」
「悪い人間に皆殺されたんだよ」
「会いたかった、話したかった、遊びたかった」
「直ぐに会えるよ。神様にやっと願いが届いたから」
「ねがいって何」
「生まれ変わるんだ、この世界は」
宝の山の頂上に光の魂があるだろう、神様からのプレゼントなんだ、最高なんだよ。神様は僕達をずっと見ていたんだ、感謝しないと、頭を下げないと。
暫し電源を切るけど平気だよね、目を覚ました時には悪い人間は一人もいないんだから。生まれ変わった世界には仲間もいるよ、エリーナもいるよ、勿論僕も愛らしいウィルもいるよ。
手を繋いでいるから離れない、ギュッて掴んで、小さなその手で。そうそう、言う事聞いて偉いね、後でほっぺにスリスリしてあげるね。
電源が再び入った時、僕達が見る世界は――