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勇者になれなかった勇者

 突然だが我が夫婦は戦闘狂である。


 古龍エンシェントドラゴンを倒した時、大いなる達成感を得た。それは長い苦しみからの開放と、世界一を攻略した満足感があったからだ。

 魔法を使えない俺達が知略を駆使し、様々な罠に嵌め何度も何度も執拗に攻撃した。


 それはどこか俺達の夜の営みに似ていた。


 俺は嫁さんの、嫁さんは俺の身体の隅々まで味わい、反応を逐一チェックした。相手の隅々まで知るなんて、そこいらのハーレム野郎には不可能に違いない。

 深く、深く愛することは感情だけでは出来ない。

 人は必ず飽きるし、常に心が通じ合ってるなんて有り得ない。相手に大して不満を持つことのほうが多かったりする。

 それは最早、精神鍛錬さながらであった。


「さくらあああああああああああ!!」


 仕事から帰ると息子を寝かしつけてたさくらに抱きつく。


「ユウキっ!おかえり!!」


「会いたかったよさくら!」


「私も!いや、私はもっと会いたかった!」


 大げさな声の掛け合いである。結構恥ずかしいものだが、愛は態度だけでは伝わらないのは昔からよく言われていることである。

 必死に彼女をつなぎ止めないと、突然出会ったイケメンにかっさらわれてしまうかもしれない。

 NTR小説を何度か読んでしまって、変に警戒してしまう俺がいた。

 もしかしたら彼女も同じように思っている可能性もあるが……。

 さくらは一度も俺から逃げたことがない。常に正面から向き合って愛してくれる。

 愛は更なる愛をもって返したい。どうにか彼女を俺の虜にしたい。俺の無い魅力をフルに使って。

 俺とって愛し合うことも戦争なのかもしれない。


 そんな我らが現代に帰ってきてしばらくは久しぶりの日本を楽しんだが、直ぐに飽きた。

 学校の授業はちょっと着いていけてないし、魔法なんか使えないのに魔法高校にいるしモンスターもいない世界では楽しみがない。


 もちろん家族と一緒にいるのは幸せだし、仕事も頑張ってはいる。

 ちなみに仕事は営業職です。なんか普通だ。俺がまだ結婚出来る年齢ではないので、息子は「佐伯」姓になっている。


 平和な日常もいい。だが刺激が欲しい。

 そんな俺達にとって体育祭が久々の実践になるかもしれないので、楽しみで仕方ない。

 朝練にも気合が入っている。


―――――――――


「ユウキ、俺はこの戦いが終わったら勇者になる」


 ヒカルは体育祭が終わったら静香に告白するらしい。結構なことだが既に両思いなのに3年も勇者になれなかったのは障害おさななじみがいるからだろう。


「いや、それ失敗フラグですから」


 冗談抜きに待たせすぎである。それは相手にも言えることだが、ずっと一人の男を好きなままなんてまず有り得ないのだ。しかも彼氏でもない男を。


「内藤さんのお弁当、すごく美味しいね」


「あ、う、うん……。ありがと」


 現に今現在、奪われかけている。B組のクラスメイトに。

 彼の名前は野丸のまるだん。ダン、もしくは「ノーマル男」と呼ばれている。

 偏差値、及び顔面偏差値50。身長170センチ。体重62キロ。まさに普通過ぎる男。

 だが、彼は普通故にリア充としての能力があった。それは「誰とでも分け隔てなく仲良くなれる」「話のレパートリーが多い」など、おおよそ普通民としては優秀なのだ。

 更に静香も元々、普通レベルの女子だった。それが一生懸命魅力的な女性になるように努力している。

 だからハーレムメンバーの仲でも一番モテるのだ。

 気付かないうちに静香は彼に惚れていた。

 俺が「あいつのこと気になるんだろ」とかちょっかいかけてたら弁当を作ってきたのだ。ヒカルの時もそういった行動をしていたが、対抗馬がいたので特別な行動になり得なかった。


「あの二人、お似合いだと思うよ」


 さくらも彼らがくっついたらいいと思っているそうだ。いつまでも地蔵状態のヒカルではダメなのだ。

 そしてその光景に大いに喜んでる女、らん。さっきから気持ち悪いくらいにニヤニヤしている。そりゃそうだろう。最大の難敵が消えかかってるんだから。


「俺達みたいにな」


「やんっ!ユウキったら!」


 もちろん俺達の愛も続行中である。これは恋愛小説ではないのだ。結婚したら話が終わるわけではない。


―――――――――


「てめえ!魔法が使えないくせに校内でイチャイチャしやがって」


「何睨んでんだコラァ!」


「こっちの姉ちゃん、いい乳してんな!」


 テンプレ極まれり……である。いや、こんな種族が現代日本に生息するわけないのだ。

 彼らは帰還組かなんかだろう、きっとそうに違いない。


「あ?汚ねえ目で俺の嫁の身体見てんじゃねーよ」


「はぁ?てめええええ!!!」


 3人はよく分からない言語で呪文を唱えるとそれぞれ火、氷、風の魔法を放ってきた。……が大したことない。


「はああああああああああああああああああああ!!」


 俺は気合いで魔法をかき消した……とかじゃありません。普通に避けた。


 そして3人の腹に一発ずつ打ち込んでおいた。傷の残りにくそうなとこ選ぶ俺ヤサスィ!


「久々のモンスター退治なんだから私にもやらせてよぉ」


「こんな奴らゴブリンが魔法打つ程度のレベルだぞ」


 人間をモンスター呼ばわりする俺らも大概だが。

 Bクラス以下の生徒は基本的に弱い。覚えたてで実践でろくに使ってないような魔法を面白がって使うだけ。

 張り合いがない。張り合いがないよ……。


「いやあすごいね!ユウキ君!」


 手を叩いて褒めてくれるのはダンだ。彼は戦闘能力も普通である。……魔法が使える時点で普通じゃないな。

 彼の笑顔に目をキラキラして光らせる静香。その様子にアセアセするヒカル。ニヤニヤする蘭。じっと観察する委員長。マジワロス。


「ダン!俺と体育祭で勝負だ!」


 はい?ついにヒカルが暴走を開始した。仮にも元勇者である。


「え?なんで?」


 真面目に聞き返すダン。彼は今回実行委員なので出場する必要が無いらしい。しかも同じクラスで勝負とか無い。


「う、うるさい!とにかく勝負しろぉ!」


 おいおいそれ噛ませ犬の台詞だよ。

3年も待ってくれる女性なんて稀です。

出現率0.005%もいないでしょう。

気になる人が出来たら3ヶ月以内に勝負を決めましょう。

競争率の高い女性は1ヶ月で新しい彼氏が出来るとかザラです。(前の彼氏と別れる前に新しい彼氏を作る女性も結構います)


なあに。ゲームじゃないんだし好感度をそんなにあげてなくても意外と付き合ってくれたりします。

実際に付き合ってみてから好きになってもらえばいいんですから!

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