ダン弱174 ボツ
要望があったのでボツ原稿の日本刀バージョンをこちらに。
因みに、これをボツにしたのはあくまでも作者の自己判断です。
あまり納得のいっていない出来だったのに、時間に追われて投稿してしまった結果、このような不出来な話になってしまいました。
刀から七支刀に変えたのも、刀の知識が無い事以上に、作者があまり刀という刀剣に対して、他の奇剣ほど熱を持っていないからです。奇剣は、マイノリティであればある程いいと、思っている作者の勝手な趣味で、読者の皆さんを振り回してしまいました。
では、もしお楽しみいただけたなら幸いです。
さて、昨晩アニーさんが帰ってから、前々から用意した物を引っ張り出してきた。ようやくこれを渡せる。
僕の技術と知識の粋を結集して、さらに研鑽に研鑽を重ね造り上げた至高の美術品。
トリシャとパイモンが並ぶリビングのテーブルにつき、僕はおもむろにそれを取り出した。
「これは、剣ですよね?」
「そうだよ。刀剣で間違いはない」
そう言って僕は鞘からそれを抜き放った。
「だけど、そんじょそこらの剣と一緒にするなよ?前にトリシャにあげた剣、あれもいい物だけど、これはそれの非じゃないよ?今日からトリシャにはこれをメインウェポンとして使ってもらう」
そう言って僕は剣を黒鞘から抜く。
反りの浅い刀身。鎬が高く棟を卸した、所謂棟を盗む造り。刃文はやや柔らかい印象で波打たせ、トリシャに渡すために女性らしさを追及した。刃文だけじゃない、鍔だって女性らしさと実用性重視だ。丸鍔に梅のレリーフ。謹み深い詫び寂だ。
「美しい剣です………」
トリシャがそうこぼす。
「剣じゃなく刀と呼んでほしいな。何百年と研鑽と研究を重ね造り出された、その機能美は最早芸術品。斬るため、殺すため、戦うために進化しきった、刀剣の、一種の到達点。刀。
やっぱり仲間に1人は刀を使う人が欲しいよね」
これを造るために、一体何振りの剣を造っただろう。刀はやっぱり男の子の憧れだからね。最高の一振りを造りたかったんだ。
僕は刀を鞘に納め、それをトリシャに手渡す。
「しかしキアス様、トリシャにハオリハルコンは持たせないのですか?」
パイモンがやや複雑そうな表情で、トリシャの刀と僕を交互に見る。魔族はオリハルコン至上主義みたいな所があるからね。僕がトリシャを蔑ろにしているように見えたのかも知れない。
「ふふ。じゃあちょっと試し切りをしてみようか」
軽快に席をたち、僕は魔王の間に向かう。元々そのつもりだったので、準備は済ませてあるのだよ。
「これは………、金属の棒ですか?」
トリシャが首を傾げ、それにパイモンも続く。
「まずはそれを斬ってみてくれ」
「えっ?で、でも………」
刃こぼれを気にしているのだろう。トリシャがやや躊躇したように、いいよどむ。
「大丈夫。トリシャなら出来るから」
「はぁ………」
安心させるように念押しするも、やはりトリシャは曖昧な返事を返すのみだ。だが、了承はしてくれたようで鞘から刀を抜くトリシャ。
うわっ!カッケー。
刀を構えるクールビューティー(今や完全に見た目だけ)なトリシャ。様になるなぁ。
鞘を床に置き、そんなに太くはない金属の棒の前に立つトリシャ。
「あ、あの、やっぱりちょっと素振りしてからでもいいですか?」
でもやっぱり、ちょっと及び腰だった。
トリシャが両手でしっかりと柄を握り、刀を振って見せる。
刃が風を切る音、トリシャの息遣い、きらめく刀身と、体捌き、録画して永久保存したくなるほど、見事な光景だった。あ、スマホで出来るか。通信機器としては役立たずでも、電子機器としての機能までは失われていないからな。
「やはり、見事な剣です。あ、いえ、刀でしたね。あれ?何をしているのですか?」
「お気になさらず」
スマホを構える僕に、首を傾げるトリシャ。いただきました。
『マスター、盗撮は犯罪ですよ?』
「失礼な。僕はコソコソと盗み撮りをしているわけじゃないぞ!堂々と撮影しているのだ!」
『盗人猛々しいという言葉もありますよ?』
うるさいな。トリシャだって、別に嫌がんないと思うぞ。確認はしてないけど。
「では、いきますっ」
改めて金属の棒の前に立つトリシャ。
こういう時って、普通は巻き藁でも使うんだろうけど、残念ながら今は手元に無い。
「………」
精神集中の為、瞑目するトリシャ。室内には緊張が漂い、僕もパイモンもアンドレも一言も発しない。
トリシャが目を開け、ゆっくりと構えを取る。
「ハッ!!」
短い掛け声と同時に、トリシャが刀を振り抜く。
シャァアン。
と、まるでガラスの粒をばら蒔いたかのような透き通った音が鳴り響き、トリシャの目の前にあった棒は、半分になって床に転がった。
「凄いですね!!金属を斬ったというのに、抵抗らしい抵抗も感じませんでしたよ!!それに、刃こぼれ1つ見当たりません!!」
嬉しそうに刀を眺めるトリシャ。喜んでもらえて何よりだ。
「どうだ、パイモン?」
「確かに良い物のようですね。ただ、やはりオリハルコンの剣の方が………」
やっぱ、オリハルコン=最強、みたいな認識なんだね。
「今トリシャが斬ったのが、そのオリハルコンだとしてもか?」
「「えっ!?」」
2人揃って床に転がるオリハルコンを見るトリシャとパイモン。やっぱりキャラが被ってるなぁ。
「これはっ!オリハルコンをも斬れる剣という事ですかっ!?」
詰め寄るトリシャに、宥めるどころか自分も知りたそうにこちらを見るパイモン。
「いや、もし僕がその刀でその棒を斬りつけたら、たぶん真っ二つになるのは刀の方だ。僕に剣術の技能はないからね。
トリシャは歴としたアムハムラ王国の騎士団長で、高い剣の技術がある。そして刀も、僕の渾身の傑作だ。高い技術とそれをさらに高める最高の刀があってこその芸当なんだよ」
折れず、曲がらず、よく斬れる。それが日本刀のコンセプトだ。
ただの土塊から、国宝を生み出す陶芸家のように、ただの鉄から実用性のみを追い求め、長い長い歴史を重ねて完成した、実用性だけで美術的価値を持つ刀剣。それが刀なのだ。
「とはいえ、ちょっとヒヤヒヤ物だったんだけどね。オリハルコンで試し切りって」
「そんな生半可な気持ちで、私にこの刀でオリハルコンを斬らせたんですかっ!?こんなきれいな刀でっ!?失敗したらどうするんですかぁ!!」
失敗したり刃こぼれしたら、失敗作って事で新しい刀を作るつもりだった。
ただ、涙目で訴えかけるトリシャに、その事実を告げる事はできなかったので、ここは素直に謝っておこう。
「ごめんねっ」
「可愛いので許します!!」
力強い宣言だ。