№1
「ねえ、ベイビードール。そろそろ僕ら帰りたいんだけど」
クリスは困ったように言った。いい加減、このままではいけない。しかし、ベイビードールは非情にも冷たく言い放った。「それは無理だ」
「もういいじゃん、この世界の住民ってことでさ」
スノーは面倒だと言わんばかりだ。
「駄目よ。だって、向こうの世界では私たちの仲間が待っているもの」
「ならば、それを強く望め」ベイビードールが言った。
「帰りたいっていう気持ちをさ」
スノーはベイビードールの言葉を引き継いで言う。
玲はとりあえず強く望んでみることにした。すると、眩い光が―――。
「ここ……。俺たちの世界だ!!」
鈴は嬉しそうに言った。
「? どうしたの、急に……」
巡矢恵は突然現れた鈴たちに驚いた。
「メグ姉! 実は俺たちな……」
鈴は今までに起きたことを話した。メグリヤは信じられないというように目を見開いた。
「まさか、そんなこと……。だって、鈴くんたちがいなかったのはたったの数分よ?」
メグリヤの言葉に、隣にいたレイチェルも頷いた。
「そんな……。私たちが向こうにいた時間が、たったの数分だったっていうの?」
「どうやらそのようだな」
「ええ?! 何であんたがいるの?!」
玲と鈴は目の前にいるベイビードールに心底驚いた。
「我も一度あの世界から抜け出して別の世界に行ってみたいと望んだものだ」
すると、いつの間にか来たコレスティーノがメグリヤとレイチェルを見てにっと笑った。
「なんや、美人さんが二人もいてはるやん」
コレスティーノはメグリヤとレイチェルの肩に手を回した。だがその時、トントンと背中をつつかれてコレスティーノは振り返る。そこにいたのは、不敵な笑みを浮かべた玲だった。
「出たわねっ、この変態! この世界では魔法が使えるってこと、もうご存知よね……?」
玲は水の魔法弾をコレスティーノに放った。
「うぉ?! 何や何や?!」
「鈴っ!」
玲が楽しそうに言った。
「おうっ!」
鈴はコレスティーノを光の縄で縛りつけた。ただし、この縄は電流を帯びている。
「ムッチャ痺れるんやけど?!」
「ふん。くだらん。それにしてもここは岩だらけだな。我のいた世界の方が素晴らしいな」
「でも、岩肌もいいと思うけど?」
「二人とも俺の心配をせぇへんのやな。冷たい奴らや」
「ご愁傷様」
レイチェルが言った。
「あいにくだけど、変態を助ける気にはなれないわ」
メグリヤはやれやれと言うように肩を竦めた。
ちょうどその時、クリスの兄であるゼロが通りかかった。
「おーい、そこの兄ちゃん! この縄解いてくれへんか~?」
「その魔質は鈴のものだな」
『魔質』とは、魔法エネルギーの性質のことであり、これは人によって違う。
「鈴、解いてやれよ」ゼロが言う。
すると、鈴はムッとして言い返した。
「嫌だよ。だってそいつ、玲ばかりかメグ姉とレイチェルさんまで手にかけようとしてたんだもん」
「……悪い、鈴。放っておこう」
ゼロは見なかったことにした。
「しゃあないな。スノー、これほどけるか?」
「いくら縄解きが専売特許の俺でも電流が通っているのは無理だな」
「なぁ、ベイビードール―――」
「お前のその口が黙るのなら解いてやろう」
そう言うと、ベイビードールは光の縄にゆっくりと手をかけた。
「絶対無理だよ、ベイビードール。それ以上近づいたら死ぬかもよ?」
鈴が警告するが、ベイビードールは聞く耳も持たず、縄をぎゅっと持った。電流がバチバチと火花を放ち、ベイビードールの手は焼け爛れていく。
その瞬間、電流の火花が勢いよく増した。かと思うと、蜘蛛の糸のようにほつれていく。
「サンキュ、ベイビードール」
「ふん。やわいな」