№3
「やれやれ、本当に殺ってしまったではないか」
ベイビードールが満面の笑みを浮かべている。
「さてと……。鈴を蘇らせなければな」
ベイビードールが「立て」と言った。すると、鈴の身体はむくむくと起き上がる。
鈴は全身血だらけだった。
……ちょっと怖いんだけど。玲は思った。
「ここから面白くなるぞ」
スノーが身を乗り出して言う。コレスティーノも陽気に笑いながら鈴に見入った。
「何を笑って見ているんだ、鈴を手当てしなくちゃ駄目だろ!」
クリスはスノーたちをたしなめ、ばっとシャンデリアまで飛び降りると、こんなこともあろうかと用意しておいた救急箱を開き、てきぱきと治療を始めた。
そのおかげか、鈴は何とか『まとも』に見れる状態になれた。
鈴は治療を受けている間、黙りこんでいた。時折玲の方を向いては、すぐに俯いてしまう。玲に何か言いたいことがあるのかもしれない。邪魔をしてはいけないと思ったクリスは、すぐに観客席へと戻って行った。
そして、シャンデリアの上では新たな戦いのゴングが鳴り響いた―――――――。
「―――鈴?」
鈴が何か言いたそうにしていることを玲も気付いていた。
「俺が、間違っていたんだ……」
「?」
「玲、そうだよ」
そう言うと、鈴は玲に近づき、両手で肩をぐっと掴んだ。ゾンビに肩を掴まれたような気分だった。手を払いのけたかったが、力が強くて敵わない。
―――あれ? 鈴って、こんなに力が強かったっけ?
「そうだ。やっと気付いた。俺は今まで、どうして気付かなかったんだろう……」
鈴は勝手に熱弁をふるいだした。
「玲」
「・・・ふえ?」
いつもの鈴ではない鈴に、玲は戸惑いを隠せなかった。
「……玲、俺と結婚してください!」
「はっ?」
玲は凍りついた。寒気がした。おやじギャグ並に寒気がした。
鈴は玲が意味を理解していないと思い、少しだけイラッとしたのか、スッと目を細める。
「だから、俺と結婚しろって言ってるんだよ。……それとも、俺とじゃダメなワケ?」
鈴はじっと玲を見つめた。……至近距離で。
「なっ……?! リ、鈴のくせにっ!!」
玲は思わず赤面して、それだけ言うのが精一杯だった。
一方で、観客席は異常な盛り上がり様。
「やった!! 結婚式大好き!! 酒が飲み放題!!」
スノーとコレスティーノは馬鹿みたいにはしゃいでいた。
「ふん。我が力は偉大だ」
ベイビードールが自信満々に―――これこそ望んでいたこと、と言いたげに―――言う。
「なんなんだ。これ・・・」
クリスはほっとしたが、それもつかの間。はっきり言って、訳が分からなかった。
「ふむ。シャンデリアは愛を成就させる場所か。これはこれで面白いではないか」フローラが鼻で笑う。
「どうだ? 鈴、玲。怒りは愛へと変わったであろう?」
ベイビードールが言う。しかし、玲のオーラは怪しかった。
「こんな紳士的な―――というより、積極的な鈴。鈴じゃないわ・・・」
玲の声がいつもより低くかった。
「こんな・・・こんな」
玲が剣を振り上げた。そして―――――
「可愛い鈴もいいけど、積極的な鈴もいいわ!!」
剣を宙に放り投げ、パッと表情を明るくして言う。
「ベイビードール、とりあえずシャンデリアから下ろしてくれる?」
「喜んでもらえたならいいだろう」
ベイビードールは静かにシャンデリアを下ろした。
シャンデリアから降りると、鈴の暴走はエスカレートしていった。
「ファーストレディだよ、玲」
なぜか彼はファーストレディ主義に則っていた。さすがに吐き気がしてくる。
「ねえ、ベイビードール。やっぱり鈴を元に戻してくれる? 気持ち悪すぎて・・・」
「あと二時間もすれば元に戻るだろう」