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Red tea  作者: 紅騎士と黒猫
シャンデリア戦
14/19

№2

 シャンデリアの上は円形状になっていて、足場が確保されていた。だから落ちる心配はないのだが……。


 一体何を賭けて戦うというのだろう。鈴はそれが気になって仕方がなかった。頼みの綱のクリスは不意打ちを食らったせいで動けない。……というか、意識がない。


 痛そうだな、と鈴は場違いなことを思った。


 どちらにしろ、溜息しか出てこないことは変わりはない。


 「玲、俺マジで嫌なんだけど……」

 

 こういうときは素直に言った方がいい、どうせ戦うことになるのなら。


 「ふうん。じゃあ、私は不戦勝ってことでいいのかしら?」


 「ああ、もうそれでも―――」


 鈴が面倒臭くなって降参の印に両手を上げようとしたその時。


 「それなら私の言うことを聞いてくれる?」


 「……やっぱり良くないです」


 鈴は試合終了後のことを想像し、試合放棄宣言を取り消した。


 「それにしても困ったわね、魔法が使えないとなると。ねえ、ベイビードール。あなたの力で魔法を使えるようにすることってできる?」


 「無理だ」ベイビードールは即答した。


 「あーあ、本当に面倒臭いわね。鈴の言う通りだわ」


 玲はそう言いながらスクラマサクスを軽く振った。


 その時、鈴が叫んだ。


 「メンドくせえっ!!」

 

 鈴はツーハンデッドソードを渾身こんしんの力を込めてシャンデリア―――ステージ―――に突き刺す。


 「ったく、まどろっこしいことは嫌いなんだよ!! 俺は気が短いんだ!!」


 鈴の豹変ぶりに驚く一同。しかしそれは玲とて例外ではなかった。


 鈴は苛立ちを隠そうともせずに話を続ける。


 「あのさぁ、みんな俺のことを小っちゃいとか気が弱いとか馬鹿にしてるけどさ、俺そんなんじゃねーし! 『殺シタイ』っていう衝動を抑えるのにすっげえ苦労してるんだからな!」


 鈴はまるで一時停止ボタンを押されたかのように喋るのを止め、フッと不敵に笑った。


 「殺し合いなら大歓迎だよ。玲が相手なら尚更いいね。『僕』はくだらない死に方なんてしたくないんだ」


 






 「なあ……。鈴、性格変わってぇへんか?」


 観客席。コレスティーノがスノーにひそひそ尋ねていた。


 「性格というよりは『人格』だ」


 スノーはツッコんだ。


 「うっ……」


 クリスが殴られた後頭部に手を当てながら起き上ってくる。


 「よっ、おはようさんやな」コレスティーノは片手を上げて挨拶した。


 「ここは……?」


 「前を見てみるのじゃ、クリス。玲と鈴が戦っておる」


 「え?! 二人が?!」


 クリスは観客席の手すりから身を乗り出すようにして凝視した。確かに双子がステージの上にいる。


 「止めなきゃ―――」


 「まあ待て。中々面白いことになっているぞ」


 フローラは愉快そうに笑う。


 







 もう分かっているかもしれないが、鈴は二重人格だ。


 普段は『精神年齢』、『外見年齢』相当に純粋で元気のある子供―――とりあえず、まだ成人していない―――だ。だが、突然ブチ切れて人格が変わることがある。


 通常時の第一人称は『俺』。ブチ切れると第一人称が『僕』に変わり、自虐的で破滅思考になるのだ。


 「さて、と……。戦いの続きをしようか」


 鈴は容赦なくツーハンデッドソードを玲目掛けて振り上げる。気のせいか、普段より剣を振るうスピードが速い。


 「また正気を失ってるわよ、鈴!」


 玲は攻撃をかわし、剣を横に薙ぎ払った。鈴はわざと体制を崩してそれを避ける。


 「理性なんて無くてもいいじゃないか。あったとしても、虚しいだけだよ」


 「あなたは間違っている。スズ、あなたは間違っているのよ」


 金属音が鳴り響く。


 「僕が? まさか、そんなことないよ。リンが君と戦いたくないって言うから『僕』が代わりに出てきてあげたんだ。『スズ』がいなければリンはとっくの昔に壊レテタ」


 ―――無様ダネ。


 「それに君も同じだったじゃないか」

 

 「私が……?」


 二人は攻撃を止め、立ち止まった。


 「君も彼と同じで壊れていた。壊れていたから僕たちを作り上げた、これ以上壊れないためにね。……今の君は、自我をしっかり持つことができているみたいだけれど」


 殺シタイ殺シタイ殺シタイ、殺シタクテ仕方ガナイ。


 コイツハ僕ノ敵ダ。敵ハ殺サナケレバナラナイ。


 「……とにかく、君がいると彼は疲弊するんだよ。君のわがままに振り回されて、可哀そうに」


 「そんなこと……」


 玲はそれきり口をつぐんでしまった。

 

 スズはやれやれと肩を竦める。「ホラね、言い返せないのがその証拠。―――どうやら僕たちは気が合わないみたいだ。何でだろう、もしかしたら君が変わってしまったせいかな?」


 鈴はツーハンデッドソードを持てあますように右手でくるくると振り回していた。


 玲は一瞬の隙をついて鈴の剣を彼の手から払い落す。


 「わぉ。意外に小賢しい手を使うんだね、君」


 彼は大して面白くもなさそうに、吐き捨てるように言った。


 「……小賢しい手を使うのはどっちよ」


 玲は低い声で言った。


 「何? 聞こえないんだけどー?」鈴は意地悪くにやりと笑う。


 「小賢しい手を使うのはどっちよ!!」


 玲は出せる限りの声を出して叫んだ。

 

 「あなた卑怯よっ! 都合の悪い時だけ入れ替わるなんて!!」


 「卑怯なんかじゃない。これは一つの戦略だよ」鈴は玲の攻撃をかわしながら言う。


 「あんたに言っているわけじゃないの!」


 剣先は鈴の右腕をかすった。微量の血が飛び散る。


 「逃げるなんて卑怯よ、リンっ!!」




 ブスリと音がした。玲が振るった剣は、深く鈴の腹部に突き刺さっていた。玲は、彼に何て声をかければいいのか戸惑っていた。


 「………玲」

 

 スズかリン、どちらなのか。玲には見極めることができなかった。


 「今日は、ごめんね」


 それだけ言うと、鈴は気を失って倒れてしまった―――。

 

 

『黒猫』こと畔です。ここに出てきた双子の設定(主に鈴の二重人格について)は後々本編に書く予定(セリフは丸々同じ)なので、もしそれが出てきたら「これ、『Red tea』と同じだろ!」とツッコんでやってください(笑)。

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