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第一夜:種撒いて、芽萌す

書いてみたかった和風です


至らない点もあると思いますがどうぞ好きお読み下さい

時は戦国。


 あるところに、世にも美しい姫がおりました。その名も花咲姫はなさきひめ

彼女が微笑めば、どんなに固い種でもたちまち芽吹いてしまうほどの美しさでした。

一目見ればたちまちどんな男も恋に落ちてしまう美しい姫の通り名でした。

 その姫が年頃になると、数え切れないほどの縁談が舞い込みました。

姫の父はたいそう娘思いで姫の眼鏡にかなう相手にしようと決めましたが、しかし姫はどんなに美しい男でも、どんなに富がある男でも、どんなに名誉を持つ男でもその首を縦に振りませんでした。

 父は姫を狙う男から姫を守るために城の最上階へ姫を隠しました。



 また、あるところに、世にも恐ろしい鬼がおりました。その名も金色夜叉こんじきやしゃ

鬼は異国の蛮人にも似た金色の髪を闇に纏い依頼されたことは必ず実行する。

一目見て無事ですむ者はいない、恐ろしい、鬼とも言うべき異端の忍者の通り名でした。


ある日、金色夜叉は一つの依頼を受けました。

―――世に聞く美姫・花咲姫をさらってこい――― と。


これは、今は昔、戦国の頃の話。

出会うことのなかった美姫と、夜叉の物語。



*      *      *


闇が包む夜を月が照らし、部屋はその月明かりでぼんやりと照らされていた。

花咲姫は眠ることが出来ず、布団の中で目を開いた。


「退屈ね……」

 花咲姫は誰もいない部屋でぽつりとそう言った。

花咲姫の部屋は城の最上階にあった。まるで、この世に一つとしてない宝物を守るかのように堅牢な城の最上階で、花咲姫は体を起こした。


サラリと、髪が流れた。

 花咲姫の髪は漆黒で艶やかで、その長さは床にも届きそうなほどに長かった。

華奢な首はその量の多い美しい髪を重そうに支える。


「月が、綺麗……」花咲姫は立ち上がり、部屋の窓に向かって歩き出した。

その窓の向こうには手を伸ばしても届きそうにない月が花咲姫を見下ろしていた。



そんな夜更けのいつもの晩に、一つだけ異質なものが交じっていた。


そんなことに気付くはずもない花咲姫はいつものように、窓から月を眺めた。

ただ、いつもと違う所があるとすれば…

手を伸ばせば、届くだろうか?

そう思って、花咲姫が丸く輝く月に手を伸ばしたこと。そして、そのせいで

「きゃ………」

小さな手が、バランスを崩した体を支えようと手を伸ばすも、空を切って。


…窓から、落ちてしまったことだろうか。



窓の外には、屋根があるから怪我はしても死ぬはずはない。

花咲姫はそれも知っていたが怖かった。

痛いのは嫌いだった。花咲姫は目をつぶって、痛みを覚悟した。



「………………?」

何故だろう?来るはずの痛みは訪れなかった。

花咲姫は不思議に思って、恐る恐る目を開けた。その先には…



「なんだ?」



見たこともない人間が、花咲姫を抱えて立っていた。屋根の上に。





「あなたは一体どなたですか?」


花咲姫は見慣れない風貌の男を無遠慮に見つめる。


花咲姫の教育係の茂野が見たら、「異性を無遠慮に見るのははしたないことです」と言って花咲姫を叱るだろうが、茂野は今いない。


 目の前の男は目が鋭く、顔はよく分からなかった。黒い布が巻いてあるせいだ。

背は高く、しっかりしたそれでもしなやかな体つきでその装束はまるで忍者のよう。

そして黒い布の間から出ている長い髪は。

「あなた、綺麗な髪ね。……月みたい」


花咲姫が眺め続けた、あの月にそっくりの金色の髪だった。



「‥‥‥‥は?」

男は怪訝な声を出した。花咲姫は押し黙った。

 自分が初対面の人にそんなことを言ってしまったのがまるで、子供のようで恥ずかしかったのだ。それに加えて、呆れられてしまったのだから輪をかけて恥ずかしい。

 今年でもう一六歳なのだから、もっと大人の発言をしなければ。

「ええと。……助けて頂いてありがとうございます」


「‥‥‥‥は?」

これも違うのか…。一体何を良いのか分らなくなって花咲姫は混乱したまま俯いた。


「…済まない。あまりにも的はずれなことを言うものだから返事が雑になってしまった。

…俺を見て助けを呼ばないのか?」


「何故ですか?もう助けてもらったので、助けを呼ぶ必要はない気がしますが…

あっ。もしかして、私を助けるときに怪我をなさったとか?それは大変です」

花咲姫は焦ってそう言った。自分を助けるために怪我を負ったのならば、手当をしないと。


「いや、違う。……もういいんだ。何か調子が狂う。取りあえず、部屋に入っていいだろうか?」

「もちろんです。包帯や薬もありますから」

「……そういう意味ではないんだが」

男は花咲姫を抱えて、窓から部屋に入っていった。




「申し遅れました。私の名は花咲姫です。あなたの名は…?」

「……俺は金色夜叉。敬語を使うのは下手だから、その無礼を許して欲しい」

「いえいえ。結構です。命の恩人さんに敬語を使ってもらおうと思いません」

「………」

金色夜叉は黙った。花咲姫は首を傾げた。

そういうことではない…といっても通じないと分かった金色夜叉には黙る以外に道がなかったのだ。


「あと、説明しておくと俺は忍者だ。この城に忍び込んできたんだが」

わざわざ金色夜叉は花咲姫にそう言った。反応が常人と違うので言ってやりたくなったのだ。これで、把握してくれるだろうかと思いを込めて。


「まあ、それはご苦労様です。この城は入りづらそうですから大変だったでしょう」

花咲姫はそう言った。金色夜叉は思惑が外れてがくっとなった。

「…何故捕まえようとしない?」

「あなたは私を助けてくれましたから。そんな人が私には悪い人に思えないのです」


「…あのな。少しは危機感を持ってくれないとこっちとしてもやりづらいのだが」

金色夜叉はまさか、花咲姫をさらいに来たのにこのような事態になるとは夢にも思っていなかった。

「危機感…」花咲姫は考え込んだ。


「…分かりました。次からは窓から手を伸ばさないようにします!もう二度と迷惑かけません」花咲姫は考えた末にそう言った。


金色夜叉はさらに調子が狂ってしまった。

「そういうことじゃないだろう!俺はお前をさらいに来たんだ!!ちょっとは警戒しろ」

思わず本音を言ってしまったのだからよっぽど焦っていたに違いない。


「そうなのですか…。そうだとしたら、私は助けを呼んだ方がいいのでしょうか?」

「自分で考えろよ。……それぐらい」

金色夜叉はとりあえず今日はもう帰ろうと思った。…疲れた。


 今日はただの下見だった。姫の部屋の様子を窺おうとしたら、まさか姫が窓の側に立っていて、そして落ちたのだから驚いてしまい、見つからないよう逃げるより先に助けてしまっていたのだ。

助けてしまったことに気付いたときは慌てた。大声を出されたらどうやって逃げようか、そればかり考えていたのだ。

まさか、世に聞く美姫がこんなにも世間知らずとは…。


金色夜叉は目の前の花咲姫に目をやった。


…確かに、世に聞いたとおりの美しい姫だが。

 月明かりなのが惜しいほどの美しさだった。美しいぬばたまの如き髪は小さい顔を包み込み、鼻も口も小作りで愛らしく、目は大きく、黒曜石のように輝いていた。体も、やや細すぎるが充分女性らしい柔らかさを持っていた。まるで香るばかりの麗しさだ。

 そういえば、さっき助けたときもいい香りがした。何かの花の香りのようだった。


「…まあ、俺には関係ない」金色夜叉は何かを振り払うようにそう呟いた。

「何がですか?金色夜叉様」

「何でもない。あと様付けをするな。…気持ちが悪い」

「そうですか…。あ、金色夜叉さんは一体おいくつですか?私は今年で一六になるのですよ」

「…俺は十七だ」

「近いですね!私の周りにはそんなに年の近い方がいらっしゃらないのでとっても嬉しいです」

花咲姫は嬉しそうに笑った。金色夜叉はその美しさに見とれそうになりながら、顔をそらした。


もう、帰ろう。色々な意味で辛くなってきた金色夜叉は立ち上がった。

「行かれてしまうのですか?」

「…ああ」

「また、会いに来てくれますよね?」

花咲姫は期待をするように金色夜叉を見つめた。


「‥‥‥‥ああ」

金色夜叉はその視線に耐えられず、返事をした。



花咲姫は、金色夜叉が去ったあとも、ずっと同じ方向を見つめていた。

金色夜叉が出ていった窓からは月が送った明るい光が差し込んでいた。



タイトルの「芽萌す」の萌すは「きざす」って読みます


芽が出始めるという意味です


そんぐらい分かってらあ、という方もいらっしゃるかもしれませんが一応

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