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鏡の向こうの世界では

作者: 露(つゆ)
掲載日:2026/10/15

「薫(かおる)! 俺はお前のことが好きだ! ずっと……好きだった! 付き合ってくれ!」

 俺は、ずっと胸に秘めていたことを薫に叫んだ。しかし、薫から返ってきた言葉は……。

「ごめん、お前にだから言うけど、俺、男が好きなんだ。お前のことは大事な親友だと思ってる」

 こうして衝撃の事実と共に俺の初恋は見事に玉砕した。


 俺の名前は敷島 晶(しきしま あきら)! 男勝りで名前も男っぽいってよく言われるけど、正真正銘の女だ!

「はよっ! 薫!」

 俺は登校途中、前を歩く大きな背中をばしっと叩いた。

「お、晶、はよ!」

 こいつは舞野(まいの) 薫。俺の幼なじみで親友。

「昨日のサッカー観たか?」

 薫はいつもの調子で言う。

「もち! 惜しかったよな~!」

 こんな他愛ない会話が俺は好きだ。でも……俺はその先に一歩進みたいと思ってしまった。

 だから、告白した。結果はご存知の通り。


 俺は告白の後、学校のトイレの鏡を見る。髪の毛はショート。でも胸は膨らんでいる。俺はため息をついた。

「俺が男だったらなぁ……」

『なら、なってみる?』

「え?」

 鏡から声がした気がする。まさかと思って鏡を触る。

『ふふ、混乱してるわね』

 鏡の中にいる自分が確かに口を動かして喋った。

「うわっ! なんなんだ!?」

『考えたことない? 鏡の向こうにも世界があるって』

 え、つまり鏡の向こうの世界にいる俺が話しかけてきてるってことか?

『ちょっと理解したみたいね』

 信じがたいけど、実際こうして喋ってるわけだし……。

「……その鏡の向こうの世界にいる俺がなんなんだよ」

『鏡の向こうの世界に行ってみない? って言ってるの。私と立場を交換するの。男になれるわよ』

 男に……? そうしたら薫にも……。でも……。

「お前はなんでそんな話持ちかけてくるんだ?」

 鏡の俺は少し切なげな顔をしたあと笑った。

『私にも、叶えたいことがあるの』

「……」

 こいつの目的は不明だけど……でも……俺の願いが叶うなら……!

「行く!」

 鏡の俺は、にこっと笑って

『契約成立ね』

 そう言ったら鏡が光だした。


「うわっ!」

 眩しさに驚いて目を閉じる。そして再び目を開けると……。

 そこには学ランを着た俺が鏡に映っていた。でも……髪の毛長い……。なんでだ?

 とりあえずそれは置いといて、胸をぺたぺた触ってみる。無い。

「……」

 トイレの個室に入ってアレを確認する。……ある。

「……よっしゃあ!!」

 俺は男になれたことを喜んだ。


 とりあえず家に帰ると母さんに

「あんた喋り方変えたの?」

 って変なことを言われたから

「ちょ、ちょっと気分転換」

 と誤魔化しておいた。そういや鏡の俺は女っぽい喋り方してたな……。まあいいか。


 次の日、登校中に薫を探してみるが見当たらない。どこだ……? と思っていると、いきなり背中を叩かれた。

「おいっす! 晶!」

 鈴を転がしたような可愛らしい声。でもこの喋り方……。

 振り返ると小柄な女の子がいた。でもすぐにわかった。薫だと。

「(薫……女の子になってんじゃん……。確かに俺が男になってたら薫が女の子でも不思議じゃない……)」

「何ぼーっとしてんの?」

「あ、ああ……なんでもない……」

 薫の言葉に俺は慌てて取り繕った。

「昨日のドラマ観た? キュンキュン度ヤバい回だったよね~!」

「あ……観てない……」

「え……晶、欠かさず観てたじゃん……」

 あ、こっちの俺はそうなの?

「しゅ、宿題わかんなくていつの間にか時間経ってて……」

「めっずらしー」

 この感覚……やっぱり薫だ。どうでもいいことを話して楽しむ。女の子になっても薫だ。

 決めた。今日告白しよう。善は急げだ。

「そういえば晶、喋り方変えた?」

「ん、んん……まあ、気分転換」

「へぇ~」


 そうして放課後、俺は薫を学校の中庭に呼び出した。

「晶、どうしたの?」

「薫……俺……」

 俺は薫に向かって叫んだ。

「俺、薫のことが好きだ! 付き合ってくれ!」

 そう言うと、薫は少し悲しそうな顔をして言った。

「ごめんね、晶。前にも言ったけど私、女の子が好きなの。だから晶の気持ちには応えられない」

「え……」

 ああ……そうか……元の世界の薫が男が好きなら、この世界の薫は……。どのみち……叶わない恋だってことかよ……。

 そんな俺に薫は告げる。

「でも、晶は私の大事な親友だよ。それは変わらない」

 その言葉に俺は気づいた。薫は薫だなって。


 学校のトイレで俺は鏡に向かって話しかける。

「なあ」

『なあに?』

 鏡の俺は応える。

「知ってたんだろ? こうなるって」

『……うん』

「ならなんで……」

 鏡の俺は悲しそうに笑う。

『私も、可能性ってものを信じたかったから』

 ああ、まったく……。

「お前もどうしようもなく俺だな」


「よっす! 薫!」

 登校中の俺は薫の大きな背中を叩いた。

「なんだ晶、元気じゃん」

「ずっとへこたれる俺じゃないの」

「確かに」

 薫は笑った。


 俺は結局、元の世界に戻った。鏡の俺も同意した。

 鏡の世界に行っても、根本的な解決なんてしない。俺はそれを知ったから。

 消極的な理由だけど、俺はこの世界で生きていく。


「なあ薫」

「? なんだ?」

「俺はお前の大事な親友だろ?」

 薫は笑う。

「ああ」


 鏡の向こうの世界には、もう行かない。

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