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いつか長編を書くかもしれない短編集

推しの悪役令嬢に転生したので、婚約者の第一王子を見定めます!!

掲載日:2026/06/19

「悪役令嬢×王子様×おもしれー女」系ラブコメです。

悪役令嬢も王子も、いい意味で “ おもしれーキャラ ” してます。

楽しんでいただければ幸いです。

私には前世の記憶がある。

それを――思い出した。


前世の私は気が弱くて、自分の言いたいことをはっきり伝えられなかった。


高校では、まわりに合わせて笑ってばかり。

「それ、違うよ」と思っても、空気を壊すのが怖くて言えない。

いつも一歩引いて、誰かの顔色ばかりうかがっていた。


家では、妹を優先するのが当たり前。

欲しいものがあっても「お姉ちゃんだから我慢しなさい」と言われれば、

うつむいて黙るしかなかった。


そんな私にとって、飼っていた犬のペロだけが、

唯一こころを許せる相手だった。


ペロは、私が泣いていると、そっと寄り添ってくれた。

その温もりだけが、世界でいちばん優しかった。


ある日、ペロが亡くなって、私はひどく落ち込んでいた。


気晴らしにスマホをいじっていたら、

たまたま広告で見つけたのが――

推しの悪役令嬢エリー様が登場する乙女ゲーム

『月影学園セレナーデ ~アリスと黄金の王子たち~』だった。


それからは、毎日が新鮮だった。


エリー様は、私が持っていないものを全部持っていた。


言いたいことを、はっきり言う強さ。

周囲に誤解されても、気にしない孤高さ。


厳しいけれど、言葉のすべてが正論で、

悪を許さない潔さがあった。


確固たる自分を持つ芯の強さ――

凛としたその姿に、私は何度救われただろう。


「あの人みたいに強くなれたら……」


いつしか私は彼女に憧れ、そう願うようになっていた。


しかし、ある日突然、私は交通事故で死亡した。


そして異世界に転生して――

前世の記憶を取り戻した私の前には、大きな鏡があった。


そこに映っていたのは……


(推しのエリー様!!!!)


私は興奮した。

三次元の推しのあまりの美しさに、鼻血が止まらない。

なんなら、一リットルくらい流れている気がする。


そして、どうやら推しの降臨に対する歓喜は

こころの中では留まりきらず、声にも出していたらしい。


侍女が慌ててやってくるのがみえた。


「お嬢様!? 大変ですわ!!」


(しまった……

 こんな姿を見られては、エリー様が誤解されてしまう!!)


私は、エリー様の “ 気高くも強い ” 雰囲気を出そうとするも、

緊張で胃がキリキリしてしまい、軽く吐血してしまう。


それを見た侍女は、床に広がる血も、すべて吐血したものだと勘違いし、

慌てふためきながら、私の看病にあたるのだった。


看病されるなかで、私は心に誓った。


(無様な姿で、エリー様の名に泥を塗ってはいけない。

 私が強くなって、エリー様が “ 最高のご令嬢 ” だと

 みんなに認めさせてやるのよ……!)



そうして、私は変わった。

私生活はもちろん、学園に入学してからも

“ 最高に気高い ” エリー様を演じ続けた。


平民を馬鹿にする貴族がいたら、バシッと一言申して差し上げましたし。

逆に貴族に不満を持つ平民がいたら、貴族の責務を説き伏せてあげましたわ。

毅然とした態度で、不正は見逃さず、悪を絶つ!


すこーし、私の胃がキリキリしてダメージを負いますが、

そんなもの “ エリー様の名誉 ” の前では、ちりあくた同然!!


婚約者の第一王子様とも学園で会ったけど、

“ エリー様にふさわしい男 ” か、私がちゃんと見定めなきゃね!


エリー様を大切にしない男なんて、わたしが絶対に認めないんだから!!

あ、ネクタイが曲がってましてよ、王子様。


大変な毎日が続くけど、

最近は、中庭に小鳥さんや猫さんたちがよく集まるスペースを見つけましたの。

誰も見ていないんだったら、少しぐらい……いいよね?


(今のところ、うまくいってるわね。

 この調子で、エリー様を演じ切ってみせるわ!!)


遠い異国の学園で、今日も私は、

推しのエリー様のためにできる限りのことをするのだ。




【婚約者(第一王子レオン)目線】


私はアウルム王国の第一王子、

レオンハルト・フォン・アウルムだ。


王家の人間として、ふさわしい令嬢と婚約し、

ともに国を支えるのが務めだと教えられてきた。


私には、婚約者がいる。

彼女の名前は、エリシア・フォン・グランツ。


エリシア嬢はとても優秀な方だ。


家柄は公爵家で申し分なく、

婚約お披露目のパーティーでは、

見事な礼儀作法で来客をもてなしていた。


王妃教育はすでに学園入学前に終わらせており、

自領では領地経営に手を出して成果を出している。


しかし、彼女は自分にも他人にも厳しい。

そのため、周囲との間に距離ができていた。


このままでは、いつか孤立してしまい、身を滅ぼすだろう。


だから、月影学園に入学して、

彼女の “ 噂 ” を聞いた時は驚いた。


誰もが、彼女のことを

“ 慈愛の心にあふれた聖女様 ” のようだと言うのだ。


――困っている人がいれば積極的に助け

―― “ ノブレス・オブリージュ ” を説き

――孤児院に顔を出しては子どもたちに慕われている

そんな噂ばかり。


婚約者となったときに会った彼女からは、

信じられない変化だった。


気になった私は、彼女と直接会うことにした。



中庭のテラスに着くと、

そこには柔らかな陽光を浴びながら、

小鳥たちに囲まれて微笑むエリシア嬢の姿があった。


まるで絵画の一場面のようで、

私は思わず足を止めてしまった。


――そして、気づけば息をするのも忘れていた。

胸の奥がじんわりと熱くなり、

時間がゆっくりと流れていくように感じた。


いつの間にか、待ち合わせの時間を過ぎてしまい

私は、あわててエリシア嬢のもとへ駆け寄り、声をかけた。


「すまない、エリシア嬢。

 待たせてしまったね。」


「いえ、レオン王子殿下。

 わたくしも、いま来たところですわ。」


(そんなことはない。

 彼女はずっとここで、私を待ってくれていた……。

  ” いま来たところ ” だなんて……なんて謙虚なんだ……)


私がその慈愛の心に胸を打たれていると、

エリシア嬢の琥珀色の瞳がまっすぐに私をとらえ、

ふわりと風に揺れる髪とともに近づいてきた。


「あの、レオン様?

 ネクタイが曲がっています……わよ?」


ネクタイを直し、首をかしげながら上目遣いで話しかけてくる彼女に、

私は、何も反応を返せず、真っ赤になって固まってしまった。


(な、なんだ……この可愛い生き物は……?

 この私が、生娘のような反応しか返せないなんて……)


その後も、彼女は自然体で私に接してくる。


距離が近い。

笑顔が柔らかい。

ふとした瞬間に見せる慈愛の表情が、胸に刺さる。


(どうしてだ……

 彼女を見ていると胸の高まりがおさまらない……

 これは何かの病気なのか…………?)


レオン王子は、今まで感じたことのない感情に、振り回されるのであった。



なお、学園内では


本人達は知らないが、

二人の非公式ファンクラブが、すでに全校生徒規模で出来上がっている。


どちらも会長は、乙女ゲーの本来の主人公アリアであり


入会特典は、所属ファンクラブに応じて

『エリー様の慈愛100連写ブロマイド(アリア撮影/非公式)』

『レオン様の童貞赤面シーンだけをまとめた冊子(アリア編集/非公式)』

『二人の尊い瞬間を勝手に描いたイラスト集(アリア自作/非公式)』

となっている。



そして――


二人のやり取りを、遠くから眺めている存在がいた。


「第二王子殿下、いかがされましたか?」

「いや、なんでもない。行くぞ。」

 

……まさか完璧な兄上を骨抜きにしちまうなんてな。

兄上にふさわしくない女だと思っていたが、なかなかやるじゃないか。


「ふっ、おもしれー女。」


お読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか? 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


別作品ではありますが告知です。

8月1日には「転生×学園×ダンジョン系」ラブコメを連載予定です。

本作の雰囲気が気に入っていただけた方は、ぜひそちらも覗いてみてください。


よければ高評価とブックマークをお願いします。

また、感想欄で好きな場面やキャラなどを教えていただけると嬉しいです。

今後の作品づくりの糧にさせていただきます。


X(旧Twitter):@yomu_kobo

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