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恋をすると、世界がひとつ壊れる  作者: Futahiro Tada


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引き受けるという決断

引き受けるという決断


 崩れたのは、空間ではなかった。

 崩れたのは――

 言葉の秩序だった。

 公開審問が終わってから、

 世界は一斉に喋り始めた。

 誰もが、自分の言葉を

 「正義」だと信じて。


 ***


 最初に動いたのは、

 旧修復師制度を支持する急進派だった。

「感情は危険だ」

「特異点は管理されるべき存在だ」

「今は安定していても、

 次に何が起こるか分からない」

 彼らは、未来の破滅を掲げる。

 恐怖は、最も拡散しやすい感情だ。

 ――もし、あの二人が恋を深めたら?

 ――もし、制御不能になったら?

 ――もし、世界が壊れたら?

 誰も、確かめていない未来。

 それでも、人は

 想像できる最悪に、簡単にすがる。


 ***


 一方で、希望もまた、暴走した。

「感情を取り戻せ!」

「もう管理された世界はいらない!」

「恋を奪う制度を壊せ!」

 新制度派の一部は、

 彼らを象徴ではなく、

 旗印にしてしまった。

 彼らの顔が、

 勝手に加工され、

 勝手な言葉が添えられる。

 ――恋は自由だ

 ――感情は解放されるべきだ

 彼は、それを見て

 言葉を失った。

「……僕、

 そんなこと言ってない」

 私は、胸の奥が冷えた。

 どちらも、

 彼を人として見ていない。

 恐怖派も、希望派も。


 ***


「……もう、限界ね」

 私がそう言ったのは、

 通信端末に表示された

 次の速報を見たときだった。


 ――旧制度支持団体、

   特異点隔離を求めるデモ開始

 ――一部地域で、

   感情共存派との衝突発生


 画面の向こうで、

 人が叫び、

 押し合い、

 倒れている。

 世界は、壊れていない。

 だが、

 壊そうとしている。

「……僕のせいだ」

 彼が、低く言った。

 肩が、震えている。

「僕が、

 恋なんて言葉を使ったから」

 私は、すぐに首を振った。

「違う」

 強く、言った。

「言葉を使わなかったら、

 別の理由で壊していた」

 人は、

 理由が欲しいだけだ。

 彼は、唇を噛んだ。

「……それでも」

 声が、掠れる。

「僕がいなければ、

 こんなことには」

 私は、彼の前に立った。

 逃がさない。

「あなたは、

 原因じゃない」

 目を見て、言う。

「あなたは、

 引き金でもない」

 世界が、

 ずっと抱えてきた矛盾が、

 あなたを通して

 表に出ただけ。

「……じゃあ」

 彼が、問い返す。

「僕たちは、

 どうすればいい?」

 その問いは、

 ずっと私の中にあった。

 修復師として、

 私は守る側だった。

 歪みを塞ぎ、

 問題を処理し、

 誰かを矢面に立たせない。

 でも――

 もう、それはできない。

 私は、静かに言った。

「……引き受ける」

「え?」

「この混乱を」

 一語ずつ、確かめるように。

「私たちが、

 逃げずに引き受ける」

 彼の目が、見開かれる。

「それって……」

「ええ」

 私は、頷いた。

「攻撃も、

 誤解も、

 期待も」

 全部。

「……それは」

 彼の声が、震える。

「君が、

 傷つく選択だ」

 私は、少し笑った。

「もう、とっくに傷ついてる」

 妹を失ったとき。

 恋を罪と教えられたとき。

 修復師として、

 感情を切り捨て続けたとき。

「これ以上、

 傷つかない方法なんて、

 ないのよ」

 だからこそ。

「意味のある傷を、

 選ぶ」


 ***


 その夜、

 私たちは一つの声明を出した。

 誰かに書かせた文章ではない。

 制度の言葉でもない。

 私自身の言葉。


私は、修復師でした。

世界を守るために、

感情を切り捨ててきました。

でも、今は分かります。

世界は、

守るものではなく、

生きるものです。

私たちは、

逃げません。

恋をしたことも、

それによって起きる揺らぎも、

引き受けます。

世界を壊さないために、

世界と向き合います。


 署名は、一つ。

 私の名前。

 彼の名前は、

 まだ書かなかった。

 それは、

 彼自身が選ぶべきだから。


 ***


 声明は、

 即座に燃え広がった。

 称賛。

 嘲笑。

 脅迫。

 そのすべてが、

 私たちに向かう。

「……怖い?」

 彼が、夜明け前に訊いた。

 私は、正直に答えた。

「怖い」

「それでも?」

 私は、彼の手を取った。

 しっかりと。

「それでも、

 手を離さない」

 歪みは、起きない。

 もう、偶然じゃない。

 恋は、

 後戻りできない場所まで来た。

 それは、

 破滅ではなく。

 選び続けるという覚悟だ。

 第4章は、

 次で――

 最終局面へ向かう。

 世界が、

 最後の答えを出す前に。

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