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モブリーナ、獣人国への旅  作者: ひよこ1号


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1/3

歓迎と咆哮

獣人国に向かっているモブリーナです。

ウェェイ!!

色々と国家間の調整に調整を重ねて、やっと、やっとです!

父が本当に行くの?って一日に何度も聞いてくる日々よ、さらば。

途中の街とかにも寄りたいから、行きは十日のままで変わらないけれど、帰りは短縮して五日で帰ってくるように言われて、ごねにごねられて了承しました。

側近になって暫くしてから、ゾフィーは私の護衛としてずっとぴったりくっついててくれるので、父も安心。

女の子だしね!

お出かけしたいジモーネと、色々な国の魔道具が見たいし、魔導車の整備も出来るジビレも勿論旅に同行してる。

後は、色々な交渉役としてスヴェンとノアベルト。

交易用の商品を手に入れたいラルスと、化粧品の調査をしたいカミル。

うん、結構大所帯だな!

フロレンツは、リヒテンシュタール大公領で税金についての調査と調整を政務官と行ってるし、ライナルトはその補佐をしてくれてる。

ロイスターもリヒテンシュタール大公領で、騎士団の創設やら訓練などなど、頑張ってくれてます。


私は獣人国について、調べました。

ええ、この世界の獣人族がどんな人々なのかを。

獣人国と一口に言っても、幾つかあるんだけど、基本的にはネオガルドという国を指す。

ここは定住の地をもつ、ちゃんとした国家。

狼族と獅子族がそれぞれ王位継承をしていて、二つの氏族の話し合いで色々決めていく感じらしい。

竜人族は竜人国に居てネオガルドには居ない模様。

竜人国はエキナディアという国名で、さらに遠い北の方に居を構えている。

他にも、海の中には人魚の国もあるとか!


で、この獣人族の特徴は、『番』という伴侶システム。

前世でも色々な創作物で色々な世界観で色々な事が書かれていたけれど、世界観ごとに大きく違う。

から、あくまでこの世界では、の話なんだけど。

文献を調べたところ、どうやら魂の番というものらしい。

私は昔、もっと動物の本能的な何かであって、フェロモンとか関係してるんじゃないかって思ってたんだけど、この世界のは違うんだよね。

例えばね、動物の本能であれば、異性であり受胎可能な人々が恋に落ちる訳で、そこには一対一の恋愛ではなくて子孫繁栄みたいな感じで強い雄に雌が惹かれる、みたいな感じだと思う。

番というのは、一対一に絞られて、その相手だけを強く愛する感じね。

それ故に、色々問題が起きやすいの。

普通に恋愛して愛する人が出来ても、番に出会ってしまったら番しか見えなくなってしまうってやつ。

まあ、去られる方からしたら浮気みたいなもん。

でも獣人を好きになるなら、その辺を覚悟しなきゃいけないんだよね、多分。

獣人同士でも、人間と獣人でもね。

統計を見ると、圧倒的に同種族が多いんだけど、稀に異種族間があるの。

子供は親のどちらかの血を受け継いで生まれてくる。

ゾフィーみたいに、身体の一部にその受け継がれた血の一部が備わる場合もある模様。

発現したら、遠い祖先に獣人がいたんだね、みたいな感じ。

正直、この番システムって恋愛弱者とかコミュ障にとっては最高じゃねーの?って思ったんだけど、現場を見てみないと分からないよね。


物語によっては、番の縁を切る儀式、みたいのもあるけど、どうなんだろうって調べてみたら。

忘却薬が既にありました。

多分、魔法とか錬金術に近いんじゃないかと思うんだけど、それで縁が切れるから、妄執みたいな愛が消える。

よく、物語であるじゃない?

飲めばいいじゃーん!てなるけど、結構これ重いっていうか。

飲んだら最後、永遠に番との縁が切れるから、生まれ変わったらまた出会えるねみたいなものが無くなる。

元々飲む人はそんなんいらんわ!ってなって飲むんだろうけども。

例えば番に死なれてしまって、苦しさに負けて飲んでしまったりしたら、もう二度と見つけられない。

相手から愛されてもわからない。

何かしら問題が起きて、お互い好きでなくなって飲んだとしても、同じ。

生まれた時から強い本能として抱えてる獣人達にとって、これは大問題なんだよね。

ずっと持っている根源的な物を失くすのだから、個性アイデンティティを消してしまうようなもの。

社会的に例えれば、戸籍を消したり国籍を消してしまうような重大問題なんだろうなと思う。

人間は元々そういう感覚が希薄もしくは皆無だから、分かりにくいかもしれないけれど。

でも、もしかしたら、って考える。

番同士が何故人間と獣人に生まれ変わってしまったか。

人間は番が分からないって話よくあるじゃない?

それって、過去に何らかの形で番との縁を薄めたり切ったりした影響なんじゃないかなあって。

そんな風に思ったりしてムフムフする。

エモいね!


ネオガルドという定住地以外にも遊牧民として暮らしていたり、と獣人族の国家というか集落は色々な所にあるんだけど、最近はネオガルドに暮らす人が増えてるみたい。

やっぱり暮らしやすいんだろうね。

獣人て獣の特性もあるから、人間が暮らせない僻地でも暮らせたりしちゃうんだよ。

すごいよね。

砂漠だったり、氷点下の寒い場所だったり。

前世では科学や培ってきた技術で暮らしにくさをカバーしてたけど。

まあでも、何ていうか若い人達はそういう田舎での生活が大変だからと都会に出てくるっていうあるある。

そういう右も左も分からない子達が、奴隷商に捕まって売られちゃうんだろうなぁ。

ちなみにザイード帝国では奴隷も売られてます。

でも、色々と厳しい制約がある。

帝国人を奴隷として商ったら一発で極刑。

ザイード帝国において、帝国民を奴隷としていいのは帝室だけなの。

大体が犯罪奴隷だし、前世で言うところの無期懲役ね。

死なせるほどの重労働ではないけれど、自由はないし一生出られない。

恩赦もないのです。

刑罰も法整備も割と整っていて、やべぇ法律とかは無い。

例えば、魔術を使ったと訴えられた人は水の中に入れられて、生きていられたら無罪、とかね。

いやいや滅茶苦茶息止めるの上手い奴だったら勝つじゃん!?

あとは、熱湯に手を入れて怪我しなかったら無罪とか。

いやいやそれ確実に有罪になるよね!?

そういう迷信めいたものは流石に排除されてるので安心です。

あったら失くしてた。


何だかんだ途中の街で女子とカミルでキャッキャして楽しみつつ、旅は無事終わった。

獣人国に入ると、道の両側に獣人達がいて、何か歓迎されてる。

獣人達がいる。

獣人達がいるうううううううううぅ!!!!!

ヒャアアアアア!

可愛い、可愛い!

ちっちゃい子とかめっちゃ糞かわいい!!!

おっさんは……うん、うん。

とくに兎人族のおっさんは、うん……。

生バニー(おっさん)はちょっとキツい部分があるけど、差別はいけないね!!

ふわぁぁ!

最高か!?

最高だな!!


「可愛い、可愛い!!」


大興奮の私をゾフィーがぎゅっとしてくる。


「私はー?」

「勿論可愛いわ!ゾフィー!」


笑顔で言うと、むふん、と鼻高々。


「あの子達の身体、どうなってるのかしら~普通の人間と一緒なのか気になりますわね~ジークが居たら興奮してそうですわ」

「ああ……」


ジークというのは、ジークムント。

医者というかマッド寄りのアレな人である。

顔はいいのに残念系。

助手のウドと、色々頑張って開発してくれてるけど、あんまりお近づきになりたくない。

まあそれはそれとして。


「何でわたくし達歓迎されているのかしら……?」


沿道に並ぶ人々は笑顔だ。

子供達は手を振っているし、店にいる人も作業の手を止めて見ているし、建物の上階から見ている人達もいる。

めちゃくちゃ歓迎されてる……。

帝国内はここまで歓迎されてなかったし、テンション高い国民性なのかな?

私の問いかけには、ジビレもゾフィーもさあ、と首を傾げる。

けれど、ジモーネだけはちょっと考えた後に言った。


「もしかしたら、ですが。国として訪問するという事は、その国の存在を認めるという事になります。ザイード帝国は今やこの世界で一番大きく強い国ですから、たとえ皇帝でなくとも、皇女が訪問するという事が国としては大変な名誉なのかもしれません」

「なるほど、それは考えられるかも」


つまり、人権を得た、ってやつだ。

強い人が、立場の弱い人に声を掛ければ、周囲の人の態度が変わるという変化が起きる。

獣人を見下している国々も未だ多い中、強国であるザイード帝国が友好をしめしたのだから、これは一大事。

粗相のない様にと、歓迎ムードなのか。

純粋に、自分達の国に来てくれて嬉しい!みたいな感じかもしれないけれど、余計好感度爆上がりしますよね!

はぁぁ、楽しみだなぁ。

今も楽しいけど!



王城らしき荘厳な建物に着いて、入り口から奥へと続く赤い絨毯の上を歩く。

案内してくれるのは、白い狐人の美形さん。

そうそう。

この国の人達の服装も、中世ヨーロッパ風の帝国とは違う。

遊牧民みたいな簡素さの服の人もいるけど、雑多な感じに装飾を盛ってる人もいる。

なにより、王城では伝統衣装っぽいの着てるんだけど、服の上にもう一枚服を重ねてるんだけど片方の合わせが毛皮。

左側が毛皮で、右側は脱いでる感じ。

えーと分かりやすく言えば遠山の金さんね。

この桜吹雪が目に入らぬか……って通じる人まだおる?

あんな風に外側は片脱ぎなのね。脱いだ方の袖は肩にかけたり、そのままにしてたり。

内側の服はしっかり着てるから、金さんみたいに半裸じゃないです。

中国とか遊牧民とか、一番近いのはチベットのお洋服かな。

かーーーなりカッコイイ。

ぼーっと見上げてると、白狐さんがニコッとした。


「見惚れているのですか?」

「ええ!素敵なお洋服ですね!!気持ちよさそうな毛皮です!」


そう答えたら、一瞬きょとんとしてから、気まずそうに頬を染めた。

ん?

ああ?

もしかして自分に見惚れてるって勘違いしたのかな?

谷底に突き落とすような事してごめんて。

でも、本当に衣装と宝飾品が気になって、後ろを振り返れば、カミルも目がギラッギラしてる。

光ってるよ、カミル。

眼が、圧が強い!


それから、この世界の獣人族はね、四つ耳が多い。

二つ耳もいるんだけど、何が違うかと言えば、獣人としての力が違うみたいなのね。

二つ耳の方がより、獣に近いんだって。

人間の血が混じる事によって、段々と血が薄れて四つ耳になったというのが定説。

だから逆にだけど、四つ耳の人が獣耳を隠して人間達に混じって暮らしていた時代もあるんだよ。

迫害が酷かった時期とかね。

うーん、夢が沢山つまったモフモフ達も、色々と大変だったんです。

ちゃんと両国の友好の為に私も頑張らなきゃ。

狐さんについて、てこてこと歩いていたら、大広間っぽいところに着いた。

右に赤、左に黒の服の集団が並んでて、中央の奥には赤い衣装の人が座っている。

あの方が、今の盟主であり獅子族の長でもある、緋虎フェイフゥだ。

なるほど、金の髪は鬣のようで、眼は炎のような橙。

緋色の服も良く似合っている。

彼が、立ち上がり、玉座に座るよう、丁寧な手つきで手で指し示す。


その時。


物凄い咆哮が、左の狼族の方から放たれた。


「グォオオオゥルゥウアアアア」


驚いて見れば、青年が複数の人達に押さえられながら、何とかこちらに近づこうと藻掻いていて。

私を隠すかのようにカミルとゾフィーが立ち塞がった。


「ヒッ」


悲鳴を上げながら、震えながらも、ジモーネが背後から私を抱きしめる。

なん?

なんだ?

何が起こったんだろう?

さっきまで歓迎ムードだったのに、何かしちゃったのかな?

何か無礼だった?

と思ったけど、緋虎フェイフゥはその青年と狼族に向かって怒鳴っていた。


『鎮まれ!無理ならば、直ちに連れて行け!』


獣人の中には耳を伏せて、委縮している者達もいるし、特殊な叫びか何かだったんだろうか?


『これは、どういう事でしょうか、緋虎フェイフゥ殿』


流暢なネオガルド語で、スヴェンがジモーネに抱きしめられた私を庇うように前に立つ。

狼族側にはカミルとゾフィーが臨戦態勢をとったまままだが、見守っている。

放せとか何とか言いながら、咆哮を上げた人物は連れていかれたわけですけど。


「失礼があった事をお詫びする。あの者は王族に連なる烈風リィエフォンと申す者。将来有望と見て、次期王にと皆も推す者でしたが、此度の乱心。許さぬと仰せであれば、即刻首を刎ねさせましょうぞ」

「いいえ」


その問いには私が答えた。


「わたくし達が怒りに触れる何かをしたとか、持ち込んだとかその様な事はないですか?」

「いいえ、ありません」

「でしたら、後ででも事情をお聞かせ願えれば、特に問題とはいたしません。わたくしは、この城に着くまでに沿道に並ぶ、歓迎する民達を見ております。そして、その温かい親愛の情に心に打たれました。ですから血を流す事は望みません」


私の言葉に、緋虎フェイフゥは瞠目して、会釈した。


「誠に得難き皇女殿下、というお噂が真実であると知りました。どうぞ、持て成しを受けて頂きたい」

「はい。是非」


私はちょこん、と玉座に座らされ、緋虎フェイフゥは右隣に別の豪奢な、でも玉座よりも小さい椅子に座す。

左側には素早くゾフィーがぴったりと立ち、背後に側近達が並ぶ。


「皆の者、宴だ!!」


沢山の料理が運び込まれて、酒や飲み物も振る舞われて。

美しい歌舞を見せられる。

食事はゾフィーが一口食べては渡してくれるので、それをもぐもぐと食べた。

本来なら毒見も無礼に当たるかもしれないけれど、獣人国ではない第三国の思惑で毒が仕込まれる可能性を示唆して、毒見を置く事を事前に許可して貰ったのだという。

そういう調整が色々とあるのね、大変。

もぐもぐ。

この、お焼きみたいなの、美味しい。

肉まんをギュッとして焼いた感じ。

私の表情を見たゾフィーがまた一つ渡してくれて、大口でかぶりつく。

肉美味しい!


『おいちい』


私の言葉に、一瞬戸惑った後、皆が一斉に笑い出した。

え?

何か変な事言った?

馬鹿にするような嘲る笑いというよりは、和やかな笑顔なんだけど……。

発音変だった?と思って、多分私の顔が赤くなった。

近くに座っていたスヴェンも笑いながら、言う。


「殿下、それは幼児が使うおいちい、という言葉です。正しくは『美味しい』と」


は。

は、はずかしいいいいいいいいい!

はずか死ぬうううぅ!!


これじゃモブリーナじゃなくてバカリーナだよ!

うああああ!

まだセーフ!幼女だからまだセーフゥゥ!

地団太踏みたいし、転げまわりたいけど我慢。


だから、せめて言い直した。


『美味しい』


そうしたら、緋虎フェイフゥが笑顔で拍手してくれて、宴席に参加している人々も皆拍手してくれた。

ああもう、恥ずかしい。

言語を学ぶって難しい。

一応、勉強したのにぃぃ。

スヴェンの方が何で流暢なのーー!

八つ当たり気味にキッとスヴェンを睨んだら、肩を竦めてスヴェンは微笑む。


「殿下が以前からこの国に訪問されたいと望んでおいでだったので、必死で勉強したのですよ。全ては殿下の為に」


うっ。

それを言われてしまったら、拗ねたり八つ当たりは全然違う!

むうっとしてしまう表情は取り繕えなかったけど。


「貴方の忠義に感謝をしますわ、スヴェン」

「有難きお言葉です、殿下」


「皇帝陛下の溺愛も分かる。私に娘が居たら懐に仕舞っているところだ!」


そう言いながら、緋虎フェイフゥは盃を上にあげた。

応えるように、宴席に並ぶ人々も盃を掲げてから飲み干す。

おっさん達の陽気な飲み会に、新たに美しい女性が入ってきて、さっきとは違う踊りを披露してくれた。


異国の舞踏ダンスはとても美しい。

見せる為の踊りで、帝国の舞踏ダンスのような格式と厳かさは無いのだけど。

手の動きも指の動きも滑らかで美しいのだ。

まるで鳥を模しているかのように。

でも逆に下半身は時々荒々しくステップを踏んで、優美な上半身の動きとの違いが面白い。


『美しい、です』

『ありがとう』


私のたどたどしい言葉に、緋虎フェイフゥが優しく礼を述べる。

何か、緋虎フェイフゥもお父さんみがあるな!

私も齢五歳だから、仕方ないんだけど……。

宴会芸の一つでも身に付けないといけないと思いました!ハイ!

まだ舞踏ダンスは身体も小さくて出来上がってないから、難しいかもしれないけれど。

何か出来ないか探しとこう。



そして、翌日。

昨日はいっぱい食べて飲んで楽しかったなーって思っていたんだけど。

王宮の侍女がやってきて、何と!

緋虎フェイフゥが私達にもこの国の衣装を仕立ててくれてたというんですよ!

わーーーすごい、嬉しい!

侍女に着せてもらって、私は嬉しくてくるくると回った。


『とても、綺麗』

『似合う!』


私の言葉に侍女達はそう返してくれた。

極上の笑顔付きで。

そんな侍女達の頭の上には獣の耳。


『お耳も可愛い!触りたい』

『いいよ』


この国には敬語とか迂遠な言い回しは少ないみたいだから、ほぼタメ口みたいになる。

にこにこ応じてくれたけど、失礼ではないのかな?と思いつつ、触る。


はああああ!

もふもふ、なめらか!

やわらかーい!あったかーい!!

ナニコレ最高。

獣人の何が良いって、モフモフと人間の合体っていうのもそうだけど、意思疎通が出来るっていうのもいいところだよね。

くすぐったそうに、はにかみつつ好きにさせてくれて。

偶に耳がぴるぴるって動くのも可愛くて。


『可愛い!最高!』

『ありがとう』


そんなやり取りを何度か繰り返していたら、ゾフィーが拗ねた。


「本物の獣人の前では、ゾフィーは撃沈ですね……」

「そんな事ない!ゾフィー大好き」


ぎゅっと抱きつけば、ゾフィーはすぐ機嫌を直して、ギザギザの歯を見せて笑う。

はー可愛い。

何なのここ、天国なの?

死んでもいいくらい幸せなんだけど。


って思ってたら、緋虎フェイフゥがやって来たと侍女が伝えてくれた。

そして、二日酔いなど全然していない、緋虎フェイフゥが現れる。

だが、その顔は非常に困ったような。


『おはよう』

「おはようございます。……少し、厄介な事態になりまして」

「お聞きいたしましょう」


私の日常語録から朝の挨拶を引っ張り出して披露したけど、華麗にスルーされました。

それだけ困った事態なんだなあって、こと。


「実は、昨日の烈風リィエフォンなのですが、その……」


言い難そう。

だが、一瞬強く目を閉じた後で、覚悟したように緋虎フェイフゥは目を開いた。

真っすぐ射抜くように見られて。


「貴女を番だと、言うのです」

「え」


ええーーーー!?

どう見ても十歳以上年上ですが。

私まだ五歳ですが。


「そ……それはどうしたら」


この国に嫁ぐ事は出来ない。

帝国皇女というより、大公なので……。

あ、くそ……父め。

そういう事か!

私を帝国から離さない為に、大公領を与えたのかーーー!

しまったーーー!

いや別に良いんだけどもーーー!

嵌められてたのに今気が付いた。

私もまだまだだな……フッ。

いやいや、現実逃避はいけない。


「わたくしは、こちらの国に嫁ぐ事は出来ません。何せ、広大な領地を賜っているもので……」

「存じております。ですから、御迷惑でなければ、連れて行ってもらえればと。此処に残っても狂死するか自害するかしかありませんから」

「えっ……そんな、そんな酷いのですか?」


渋い顔をした緋虎フェイフゥが考えながら答える。


「個体差にもよりますが、王族は二つ耳が多く生まれる、故に獣としてのさがも強いので、自然と番に対する愛や執着も強くなるのです。氏族にもよりますが、基本的に王族は番としか婚姻を許されない」

「ほう……!」


ほうほう!

生の番情報だ!

すごい!


「番としか子を残さぬ王も多いが、愛妾をかかえる者もいる。けれど、王族は番との間の子供だけ」

「ん?え?番と出会ってからでも、別の人とその、子供を作れるんですか?」

「ああ、作れる……が?何か?」


ええっ!?

何となく、何となくだけどさ!

番に会ったら他の異性なんてぜーんぶいらないってなるのかと思ってた!!


「番に出会ったら、その方しか愛せなくなるとばかり」

「ああ、そういう事か。確かに愛は番に捧げるし、大抵の者は仰る通り。ですが中には愛と欲は別だという者もいるし、個体差であるとしか……」


肩を竦める緋虎フェイフゥに忘却薬は……と聞きたいが、多分これは失礼にあたってしまう。

うーん。

何と聞けば良いものか。

そう言えば、いつのまにか緋虎フェイフゥさんが砕けた口調になってた。

敬語使われるのもなんだし、このままでいいや。


「その……番への思いを抑える方法、などは?」

「ああ、有る。忘却薬という番を忘れさせるという薬が。でも、これは基本的に使用を勧めてはいない。楽になる者もいれば、喪失感でおかしくなる者もいる。番への思いが絶たれるだけで、何事もなかったように戻れるかはそれも個体差。かつては……特に四つ耳に多かったのだが、獣人以外と恋をしたから、まだ見ぬ番との関係を断ちたいと」


おお……闇の歴史……。

本には残らない伝承だ……。

まあ他国には伝わらない事ってあるよね、多々。


「その場合、忘却薬を飲むのと同時に、獣耳を落とし、人間の世界へと追放処分となっていた時代もある。断ち切られた番の方が、喪失に耐えられずに死ぬ事もあるので、誇りを失った者、番を裏切った者と忌み嫌われて、忘却薬を口にした者は獣人国では受け入れられない」


うわあ……。

かなりディープでダーク……。


「それは今も、ですか?」

「王族ならば、子をなすことは許されないし、追放となるが……市井の民までは管理しきれていない。だが、やはり忌避される傾向にはあるな」

「ふむ……」


ではここで、その忘却薬使って!

などと言ったら親善の意味が大破してしまう。

けれど、婚約する事も、その約束も出来ない。


「何も約束は出来ませんが……とりあえず、会ってみてもいいですか?」

「分かった。では食事の後で連れて来させよう」


何かとんでもない事になっちゃった。

モブリーナ、どうなっちゃうのかしら。

短編として書いたので一篇が長いです。三話で終わります。番についての設定は作者様によって世界観と同じく様々ですが、この世界ではこんな感じに設定しました。基本的に王族は魂の力が強いので、生まれ変わっても同じ立場になる事が多く、番を永遠に失う選択をするよりは狂死するのが作法()です。たとえ忘却薬を飲んだとしても、生き延びられる代わりに断種&追放。

色々忙しいながらも、日々小説を書くひよこです。

皆様いつも感想ありがとうございます。マジ神様…!頑張って色々書きます!

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― 新着の感想 ―
※お待ちしておりました♪ 『番』…なんて厄介な… モブリーナ「他人事だと思って(−_−;)」 え、だって、ねぇ⁇
獣人の王族であることの誇りが番でもあるので、その関係断ち切るくらいなら誇り捨てるか死ねや?ってことになるのは、まぁ、ありそうですね。 モブリーナ初の外交!モフモフパラダイスの堪能っぷりが羨ましい…狐さ…
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