私は、誰?
そうやってどれくらい考えようと、結論が出ることはない。私がよくやってしまう悪い癖だ。
頭で理解はできないが、どうしてか生まれた第二の人生、ってことで片を付けるのも悪くないのかもしれない。来世に自由を願った身だ、丁寧に丁寧に、人の気に障らないように肩身を狭くして生きる必要はないのだ。夢だったら残念、で済ませばいいはずだろう。
自分をそう、半ば暴論を押し付けるように説得して、改めて前を向く。心なしか、気持ちも少しだけすっきりしたような気もする。この世界初めての笑みが零れて、張りつめていた糸がほどけていくような錯覚がした。
「ひとまず、身の回りの確認からかな!」
今までで一番元気な独り言を零して、雪の降り積もった世界に足を踏みいれる。ぎゅっと独特な音がなって、普通は見られないようなトカゲの足のような足跡をつけた。それが自分の足からできているのが面白くて、暫く意味もなく歩き回っていた。
そうして、新たに「自分の体力が今までの比じゃないほど増えている」ということに気が付いた。確かに少しは疲労感を覚えるものの、それは心地よい疲労感と表現するに相応しいもの程度だった。高山をうろつくと酸素が薄い為に普段より疲れやすいということを知識として持っていたため、滅多に運動をしない私がこうして歩き回れているのが不思議に思えた。
元々のこの肉体の持ち主がすさまじいスーパーマンだったのかもしれない。先ほど割り切った判断を下したのが尾を引いているのか、半ばふざけた推測を下してそのまま世界をさまようことに決めた。
色々見て回って、自分が大層な美形に生まれ変わったことをも認識した。自分の顔に鱗が付いていたら嫌だなぁ、というどうでもよい自我によって近くの氷の反射から自分の顔を確認したことがきっかけである。顔がどうこう、とかは今のところ第一村人に出会っていないからどうでもよかったのだが、これでも年頃の女子高生である。気になってしまうのが性だろう。
結果から言えば、私は銀髪碧眼のイケメンの顔を手に入れたらしい。白人顔、とでもいえばいいのか。"雪の様だ"と形容できる肌と髪、そしてそれらの顔のパーツにくっきりと映えるサファイアの如き瞳。あまりの人間離れに少し不気味に思えるほどだった。ただまあ、パッとしなかった前世と比べればマシではあるだろう。馴染みにくい顔なのは否めないが。
また、どうやらここらの高山地帯は度々人間が立ち入っていることが分かった。足場が不安定な中をぴょんぴょんと飛び回って探索をしていたら、山小屋のような、ログハウスのようなものが陰に建てられていたのだ。
規模はそこまで大きくなく、狭い一軒家くらいのサイズ感だった。果たしてこれを建築した相手が"人間"であるかは分からないが、文明がある程度は発展しているように見える。歴史に特別詳しいわけではないが、周囲に室外機のようなものは見えなかったため、きっと現代ほど進んでいるわけではないだろうと推測できた。
そして今、この山小屋にこっそり忍び込むか否かを迷っているのだ。良心が「不法侵入だ」と囁いてきているが、その常識はこの世界で通用するのだろうか。万が一人間が居たとして、どうするのか。私の元来よりの思慮深さが仇となって、山小屋の扉とは反対側壁を背にで息を潜めて考えていた。
「あの~……どなたですか?」
真横から声が聞こえてきて、声が出そうになった口を押さえる。恐る恐る声が聞こえた方向に目を動かすと、そこには明るい茶色の髪に人懐っこそうな黄色の瞳を輝かせた青年が窓から顔を出していた。
すっかり失念していた。扉はなくとも窓はあるだろうに!