第二章:やきもち、知らないくせに
何気ない日常のなかに、小さな波紋が広がる。
気づけば心がざわついて、落ち着かなくなる。
それは、はじめて気づく自分の感情――。
悠李はまだ、自分の気持ちに戸惑っている
第二章:やきもち、知らないくせに
放課後の教室は、いつもより少し静かだった。
窓の外の空は薄く曇っていて、やわらかな風がカーテンを揺らしている。
悠李は教室の隅に立ち、ぼんやりと中を見つめていた。
その視線の先には、笑顔で話す玲央の姿があった。
クラスの男子数人と楽しそうに話している。
(なんで、あいつがそいつらと……?)
その問いが、頭の中をぐるぐる回る。
胸の奥がチクチクと痛み出し、妙にざわつく感覚。
いつもはこんなこと、気にもしないはずなのに。
悠李は無意識に息を止めて、目を細めていた。
それでも視線は玲央から離れず、心がざわつき続ける。
(俺は――嫉妬なんて……そんなもの、興味ないし)
そう自分に言い聞かせる。
だけど、胸の中のモヤモヤは強くなっていった。
手のひらがじんわり汗ばんで、どうしていいかわからない。
背筋を伸ばそうとしても、どこか力が抜けてしまう。
「あいつは誰とでも仲良くて、いつも明るくて……」
そんなことは知っている。
けれど、目の前で楽しそうにしているのを見ると、なぜか胸が締めつけられた。
「なんで俺じゃなくて、そいつらなんだ……?」
声に出して言いたい気持ちをぐっとこらえた。
悠李はゆっくりと後ろを向く。
視線を逸らしたはずなのに、心はどうしても落ち着かなかった。
――あいつは俺の隣にいるべきなんだ。
――この場所は俺の特等席のはずだ。
でも、それを口に出すことはできない。
ツンツンした態度の裏で、胸の中はわだかまりでいっぱいだった。
その日の帰り道。
悠李は足を止めて、深く息を吐いた。
「……俺、なんでこんなに落ち着かないんだよ」
独り言のようにつぶやいて、視線は遠くの空を見つめる。
胸の奥がムズムズする正体を、悠李はまだ知らなかった
気にしていないようで、気にしてしまう。
見ないふりをして、でも無意識に見てしまう。
そんな自分の心の揺れに、悠李は戸惑うばかり。
彼の胸の奥で、少しずつ何かが動き始めていた。