第三五話 もはや予言
師匠による謎精度予測、もはや予言と言っていいだろうそれによると、魔王はチチェスター王国内、それも王都に近い場所に出現するだろうとのことだった。
淀みの発生地点がチチェスター王国内に偏っていたことからも、その予言は当たるだろうと見られている。
また、魔王の出現時期は淀みの発生時期と頻度と過去のデータを照らし合わせ、予測されていた。
師匠からもそれと一致する『もう一月もかからずに魔王は出現するだろう』という予言があった。
そんなわけで、以前から少しずつ集結しつつあった世界各国からの戦力がいよいよチチェスター王国へとやって来ていて、ここ1ヶ月、王都は物々しい雰囲気になっている。
最近は、城内でも、他国の軍の偉い人とやらを見かける事がある。
私も代表の方々と面通しをし、実に丁寧な挨拶をいただいた。
ただ困ったことに、そういった挨拶の際には、だいたい私と年の釣り合いそうな高貴なイケメンのご紹介もいっしょにされてしまうのだ。
それも、私が師匠にベタ惚れだという情報がどこから漏れたのか、彼と似たような背格好やら雰囲気やらの人を用意していた国も多い。
正直、辟易してしまう。
先代の影響力を越えたい身としては、色んな国や地域の人々の代表と交流しないわけにはいかないのだけれども。
ところで、師匠と王太子殿下は、チチェスター王国が誇る2大キラキラ美男子である。
あまりにうんざりした私は、誰かと会う時はこの2人を引き連れて行く事にした。
そうすると、大抵の人は『ぐぬぬ負けた』というような顔をして引き下がってくれるので。
師匠だけだと身分が物足りない(何せ今彼は平民の死刑囚で、元の身分にしても伯爵である)らしいので、微妙に食い下がられることもあった。
王太子殿下だけだと私が寂しいし、殿下のやわらかな物腰をなめてかかる輩もいた。
たぶん、ちょっと悪そうなタイプの男性が多くご用意されていたせいだろう。
本当にどこから漏れたのか……。私を誰かに押し付けたい師匠が積極的に言い触らした可能性は、高そうだが考えないものとする。きのせい。
ともかく、そんなわけで、2人揃ってというのが1番楽だったのでそうしているのだが、なんというか、悪女にでもなった気分だ。
当人たちはいっしょにいさせれば友人同士らしく気安そうに楽しそうにしているので、さほど気にしてないのだろうけれど。
というか、殿下に至っては『私ならばバージルとも上手くやれますよ』と、逆ハーレム要員としての有能さをアピールしてきたりもした。
2番目以降でも光栄だみたいな事も言っていたが、いや私はそういうの無理なんで……。
そうしてなんとかかんとか乗り切って、そんなどこか息苦しい生活をすること、師匠の予言からちょうど1ヶ月。
今日も今日とて師匠と王太子殿下に付き添ってもらおうと、朝食後に軽い打ち合わせをしていた、その時に。
「ああ……。今日、だな。今日の、夕方だ。魔王が、出る。なりかけが、魔王になる」
「……そうか、わかった。バージル、私は各所に指示を出しに行く。聖女様、申し訳ございませんが、一度御前を下がらせていただきます」
「えっ、いやえっ、師匠、当たり前みたいな顔してなに突拍子もないことを……!? 王太子殿下も、なんですんなり受け入れてるんです!?」
師匠と王太子殿下が『今日は雨が降るよ』『じゃあ傘を用意しておくね』くらいのテンションで、とんでもないことを言いだしたものだから。
私はけっこうな勢いでツッコミを入れたのだが、2人は互いに目を見合わせて苦笑いなんてしている。
「バージルの言うことに、間違いはありませんから。私は一足先に見せてもらいましたが、これの魔王研究は確かな物です。バージルが言うならば、そうなのでしょう」
「あ、ずるい! 殿下は見せてもらえたんですね!? 日々師匠が何か書きつけたりまとめたりしているらしい【研究】とやら、弟子の私はまだ見せてもらっていないのに……!」
「……今日が終われば、リアにだって見せてやる。というか、全世界に向けて公開する予定だ。王子サマは国を動かす人間で、通しておかなければいけない話も多い。仕方ないだろう」
殿下の説明に私が不満の声をあげれば、師匠は心底うっとうしそうにそう言いよった。
いや、うっとうしいというよりも、なんだかものすごく疲れているみたいな……。
「師匠……? なんか、顔色が悪くないですか……?」
「……いよいよの、決戦だ。さすがの俺だって、緊張くらいはする」
師匠はゆるく首を振って否定したが、その動作もひどく緩慢で、緊張なんてあまりに師匠らしくなく、しかも緊張程度でここまで人の顔色が悪くなるとは、到底思えない。
私は、ますます首を傾げる。
「そう、ですか……?」
「そうだよ。ボーっとしている時間はない。おい王子サマ、さっさと動け。リアも、王子サマの邪魔してないでお前はお前の準備をしろ。今日の主役は、お前なのだから」
「はいはい。いってくるよ、バージル。……また、後で」
「あ、はい! 私が主役……ですかねぇ? どっちかというと、魔王さんが主役のような……?」
師匠の指示で、王太子殿下は速やかに、私はまだ首を傾げつつ、それぞれに動き出した。
師匠も師匠で立ち上がり、どこかへと行こうとしているらしい。
「ああじゃあもうリアと魔王の2人が主役ってことで良いから、さっさと行け。俺も、何箇所か顔を出しておきたいところがある。……また、後でな」
『また、後で』と殿下と師匠が視線を交わしたのは、ほんの一瞬。
けれどその絡まった視線が、どちらもひどく複雑な感情が籠もっているように感じられて、やっぱり私は、頭に疑問符を浮かべずにはいられないのだった。
2人とも、何か、隠している……?




