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聖女召喚は重罪だそうです  作者: 恵ノ島すず


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第一四話 魔王様の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます

 穢れの浄化を行った翌日からは、私は貴賓室、バージルさんは拘置所と、それぞれで5日程過ごした。

 その間に、バージルさんの聖女召喚を行った罪に対する裁判が行われたのだった。

 この世界(国?)があまりに乱暴すぎる印象を受けていた私は、ずっと恐恐としていた。


『判決、死刑! この場で執行! はい斬首! おしまい! 閉廷!!』


 こんな風になりはしないかと。

 結論としてはもちろんそんなことはなく、バージルさんの狙い通り初日に話し合った想定通りの判決が下された。


『バージルを死刑に処すが、その執行は魔王討伐完了後まで延期。それまでの間は王家の命に従い労働せよ。なお魔王討伐完了後の死刑の執行については、被害者である聖女リア・シキナの裁量に委ねるものとする』


 要約すれば、こんな感じに。これプラス即時の家名と称号のはく奪である。

 なお、精一杯ごねてはみたのだが、バージルさんは魔王関連の仕事をする時以外は城の地下牢で過ごす事に決まってしまった。

 死刑囚は死刑囚である。他の罪人との兼ね合いから、バージルさんだけ自由にさせるわけにはいかない。また、王家の命に従いと決まったために、どこか遠方に送るわけにもいかない。

 よって、城の地下牢行き、らしい。


 魔王関連の仕事をする時は、バージルさんに命令を下す王族の立ち合いが云々とかなにやら細かい規定はあるらしいのだが、ともかく外には出られるそうな。

 外に出さえすれば、湖のほとりでしたように、お茶会なんかもたぶんまたできるだろう。

 となれば。


 魔王様の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。


 と、聖女のくせに、真剣に魔王の活躍を祈ってしまう。

 いやでも、私は、一刻も早く死刑囚という立場そのものからの脱却をバージルさんにさせたいのだ。

 それには、私あるいはバージルさんが先代の聖人と同じくらいの影響力を世間に対して持つ必要があるだろう。

 そのためには、やはり魔王関連で活躍して手柄をあげたりするのが効果的に違いない。

 となれば、やはり、魔王の活躍を祈らねばならない。


 誰かやどこかに被害が出て欲しくはないが、バージルさんは国を出し抜けるレベルで速やかに淀みをどうにかできて、私は穢れを浄化できるようなので、まず大丈夫だろう。私が召喚された現場含め、4箇所全部被害ゼロでバージルさんが瞬殺したそうな。

 というわけで、淀みには、ぜひ色んな所にじゃんじゃかぼこぼこ湧いて出て欲しい。私たちを色んな所で活躍させてくれ。


 がんばれ魔王……!



 ――――



 バージルさんの刑が確定し、魔王の活躍を祈った翌日。私がこちらの世界にやって来て、一週間。

 今日から私は、お城の中に私の自室というものがあるらしい。自室と聞いていたのに、なぜか一室に収まっていないけど。なんで。

 ここからここまでの一画を私が好きに使って良いとかいう区画をマライア王女に案内されながら、私はあまりの意味のわからなさに、ほけーっとしていた。

 いくら大は小を兼ねると言ったって、限度があるだろうに。意味が分からない……。


 応接室とかいう大小雰囲気違いのいくつかの部屋は、来客があれば活用するものらしい。これらが豪華絢爛なのは、国の威信とか聖女たるものとかそういう理由によるものなのだろう。

 図書室めいた書斎には、ちょっとテンションが上がった。貴賓室の方にはなかった本棚に、ずらりと様々な本が並んでいる。こちらの世界の事を、ここでしっかり学んでいきたいと思う。

 衣裳部屋とそこに並ぶ煌びやかなドレスだの宝飾品だのなんだのも、聖女の職務上、これらが必要な場に行くことがあるということなら、恐縮してしまうが、まあ受け入れよう。普段着はなんでも良いということだし。


 ここまではある種公的な、私個人というより聖女という仕事のための施設の意味があるようなので、良い。

 問題はプライベート空間。


 まず、どう見ても大浴場の規模な私専用の浴室。

 いや、浴室自体は私からのリクエストだ。あると嬉しいとは伝えた。

 しかし個人用のと言い張るには、いかんせん広すぎる。

 高貴な方は人に髪を洗ってもらったり、肌を磨いてもらったりするそうなので、というかメイドさんたちにやりますよと申し出られたので、たぶんそのために広く造られているのだろう。

 でも、その申し出は断ったので。今後もお風呂は一人で入るつもりなので。このお風呂は広すぎてかえって使いづらい。お城で働いている人みんなで使って良いよって言っておこうかな……。


 トイレも、こんなここに住めそうな広さはいらなかった。

 いや、数もあるから来客想定なのかな。来客の中にはドレス姿の人もいるだろう。そういえば私も時にはドレスを着る機会があるのかもしれないし、その場合は人に手伝ってもらう必要があるのかもしれない。お城の使用人の方たちも使うのだろうし。じゃあ必要か。

 ただこれらは、元々お城にあった施設で、わざわざリフォームしてもらわなかったらこうなっただけなので、良しとしよう。まだ、大は小を兼ねるの範囲な気がするし。


 寝室の広さは貴賓室より少し広いくらいだったので、落ち着かないけどもうこの城ではこれが普通なのだと思っておく。

 家具は私の好みで揃えてもらったし、床を張り替えてもらって土足厳禁にできたことも満足。あ、ここにも客間と同じように簡易のと紹介されたけど普通にしっかりしたお風呂とトイレが付属しているんだ。普段はこっちを使おう。


 ここまでも、まあ、まあ良い。

 きっと、お城というのはこういうものなのだ。

 いくら私のプライベート空間でも、私が落ち着くような庶民仕様にするわけにはいかないのだろう。


「あの、どう考えてもわかんないんだけど、質問して良いですか……?」

「はい、なんなりと!」


 一通りの部屋をめぐり終わって、入り口に程近い所にあるサンルームへと戻って来て、私はマライア王女に尋ねた。

 すぐに朗らかな笑顔で頷いてくれた彼女に、私は訊く。


「このサンルームもそうですけど、談話室とダイニングも、どんな大家族で住むことを想定してるんですかって言いたいくらい、無駄に広くて席が多いですよね? 私が認めた私以外の人に利用させる用の寝室とやらが、宿屋でも始めるのかというレベルでたくさんありますし……」


「あー……。もちろん、利用されなくとも良いのです。ただ、後から増やすというのは難しいために、こちらに住まれる方が最大このくらいまでは増えるかもしれないという想定で、整えさせていただきました。というのも……その、お気を悪くしないでいただきたいのですが……」


「はい。怒らないので、率直に言ってください」


「かしこまりました。その、……歴代の聖女聖人様方の中には、数多くの配偶者や恋人やご友人を自分の傍に置かれる方がいらっしゃいましたので……」


 歯切れ悪く、非常に言いづらそうに、マライア王女は答えてくれた。

 ご友人(笑)。なるほどね。先代のせいじゃん。

 私が乾いた笑みを浮かべていると、マライア王女は焦った様子で更に言う。


「あの、気に入った使用人なんかをこちらに住まわせてもいただいてもよろしいかと!」

「あー、なるほど。……セラさん、住みます?」


 部屋の隅に立っていたセラさんに尋ねてみると、マライア王女はすいっと視線を泳がせ、セラさんは苦笑いを浮かべる。


()()()使用人には、別に寮がございます。リア様が私を()()()くださるのであれば、光栄なことでございますが……」

「すみませんそういう意味じゃないです。職場が近くなったら便利じゃない? くらいの意味でしたっ!」

「そうでございましょうね。質の悪い者にここに住んでも良いと言ってしまうと『自分は聖女様の恋人である!』などと言いふらされかねませんから、お気をつけくださいませ」

「はい……。気をつけます……」


 セラさんの丁寧な説明に、私は顔を覆って項垂れた。

 なるほど、通常ではない使用人(笑)ね。そんなんばっかか!

 これ、もしや先代だけじゃなくて歴代けっこう好き勝手してきたのかな……?


「過去には、色恋抜きで、捨て子やら未亡人やら行き倒れやらを端から拾ってきては、独り立ちできるまで面倒を見る癖のある聖女様もおられました。人ではなく、動物や植物を揃えた方々も」

「あるいは、美術品を収集されたり、ここは絵を描くための部屋ここは裁縫のための部屋といったように用途を分けるのもよろしいかと」


 マライア王女とセラさんは、優しくフォローしてくれたのだが。


「動植物やら物を増やすのはともかく、身分不確かな人をやたらとお城に入れるのはマズくないですか……? ここ、王族の皆さんが住んでる区画と接してますよね……?」


「確かに、私ども王族の部屋も近くにはありますが、気になさる必要はございません。聖女様が認めた存在であれば、それこそが確たる身分ですもの」

「ご家族ご友人ご親戚から引き離され異なる世界にさらわれて来た方が新しい家族を望む事を制限するなど、とんだ非道かと存じます。どうぞ、リア様の御心のままに」


 私の懸念は、マライア王女にもセラさんにもきっぱりと否定されてしまった。

 いやダメでしょ。普通にダメでしょ。

 別に、変な人は引き込むつもりも拾うつもりもないけれど。

 正直、そんなことができる権限を与えられていることが苦痛。

 どうするんだ、私が他国の密偵とかに騙されたら。

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