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聖女召喚は重罪だそうです  作者: 恵ノ島すず


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第一三話 異世界生活3日目まで

 仲良くできる気がしない侍女の人たちは排除されたとはいえ、やっぱり常に誰かが傍にいるのは落ち着かない。

 お互いのために私は偉そうに振る舞わなきゃいけないんだなとはわかったけれど、無理をずっとしているのは疲れる。

 4人脱落した事により、人のやりくりも大変だろう。


 そういったわけで、まず、私のお世話はそんなにしてくれないで良いと伝える。

 その上で、マライア王女と瞬発力の高いメイドさん(名前はセラさんというそうな。人前では呼び捨てにしなければ示しが付かないとは言われたが、私より7歳年上のお姉さんのようなので心の中ではセラさんと呼びたい)以外は、基本的に部屋に入らないで欲しいと要望を出した。

 2人が忙しかったり休みだったりしたら、他の人でも仕方がないけれど。

 警備上もそれで問題はない。らしい。

 聖女が言ったからなにかがねじ曲がったのかもしれないが、一度心の扉が『すー、ぱたん』してしまったので、もうそこは気にしないことにする。がんばれない。

 マライア王女は『侍女に対する苦手意識を植え付けてしまったことは、やつら、そして私どもの不手際にございます』と責任を感じている様子だったし、そこにつけ込んだ気もするが、それも気にしない。


 セラさんは貴族のお嬢様ではなく下町の食堂の娘さんなんだそうで、私の落ち着かないという気持ちをわかってくれた。

 彼女の提案(にすかさず私が乗っかって)で衝立が運び込まれ部屋が区切られ、ソファにはやわらかい布がかけられていく(セラさんが『刺繍ってどうしても生地が固くなるし、座り心地を考えたらむしろない方が良いですよね』と言ってくれて、首がもげそうなくらい頷いた。何かの拍子にひっかけたらこわいし。用意してくれる私の部屋とやらは、もしソファを入れるならぜひ無地でお願いしたい)。


 セラさんのおかげでどうにかちょっと落ち着いた部屋で、簡単に食事を食べてお風呂に入ってすぐに寝て、そうしてようやく本当に、私の聖女としての異世界生活の第1日目は終わりを迎えたのだった。



 ――――



 翌日は、とにかくぐらんぐらんに眠くて、私はほとんどベッドの上から起き上がれなかった。

 時差もないのに時差ボケ? いや聖女として仕事をしなければとなんとか起き上がろうとはしたのだけど……。

 なんとか起き上がろうともがいていると、マライア王女がこの眠気の理由を私に説明してくれたのだが、それも聞いているうちに幾度も意識が落ちてしまう体たらく。


「本日はお休みください、聖女様。聖女様は、元の世界にいた時は持っておられなかった魔力を、急に大量にその身に宿すことになられました。魔力が御身に馴染むまでは、休眠が必要でございます。歴代の聖女様もそうであったと記録が残っておりますから……」


 ごめんちょっと途中聞けてなかった。なに? 今までのみんなも……ぐぅ。

 気づけば、日付が変わっていたのであった。


 翌々日は、バージルさんと再会できた。

 私が聖女の仕事をさせて欲しいと騒ぎ、ともに【穢れ】の浄化に行くことになったのだ。


 バージルさんが運ぶラタンのブランコみたいなのに乗せてもらって、空中遊泳。まではとても楽しくて良かったのだが。

 穢れの現場に着くなり、遠目からも真っ黒なヘドロのような物に覆われていた大地が、私の足元からしゅわわわわぱーっと光ってさーっと風が吹いたらと思ったらもう普通の地面に変わっていくものだから。

 あ、私って本当にものすごくものすごい備長炭体質なんだ……。と、なんだかショックを受けてしまった。


 マライア王女は大げさに私を褒めたたえ、バージルさんはどこか満足げに頷いており、きっといいことをしたのだろうとは思う。

 でも、イマイチ何かをした実感はない。本当に穢れなんてあったのか、さっきの黒いのなんてなにか幻覚とかそういうのじゃないのか。

 もしさっきのヘドロみたいなのが存在していたとしたら、どこに消えたのか。私が吸った? それは嫌すぎる。

 などなどと考えてしまう。

 そうしてぼけーっとしているうちに、3箇所の浄化とやらは、終わってしまったらしい。


 3箇所目の浄化が終了した現場は、自然豊かな森の中の湖のほとりだった。

 風景も良いしここで休ませて欲しいと私がわがままを言い、そこから更にわがままを重ねて、バージルさんと2人だけにしてもらった。他のみんなは、少し離れた所で休憩している。

 仕方なさそうにため息を吐いた彼がひゅんひゅんと指を振れば、パラソル付きのガーデンテーブルに椅子、あたたかなお茶に果物とお菓子があっという間に表れたので、これはもうお茶会だろう。

 バージルさんと対面で座り、私は尋ねる。


「バージルさん、ええと、今何か不便とか無いです……?」

「聖女サマに心配していただくような事なんて、なにもないさ。まだ裁判も始まっていないしな。リアの方はどうなんだ? そろそろ俺を殺したくなってきたか?」


 この人は。こっちが心配したというのに、しれっと涼しい顔でとんでもない質問を返してきやがった。

 私は、バージルさんをキッと睨む。


「なってません。なりません。そんなそろそろは永劫きません」

「ま、それは追々か。誰も知り合いのいない、違った文化の国に連れて来られたんだ。不満は後からいくらでも出てくるだろうさ。どんな細かい事も悪い事嫌な事は全部俺のせいだからな。忘れるなよ」


 バージルさんはニヤリと悪そうな笑顔でそう告げた。


 ふん。逆に、贅沢させてもらうたびに『バージルさんのおかげ!』って唱えてやるわ。

 こちとら、祖父の家から追い出されるかと恐恐としていたところからの、お城住まい貴賓室滞在だぞ? 日本食ではないものの、高級そうなおいしいご飯を頂いているんだぞ? それも、自分で用意も片付けもしなくて良いのだ! 三食! めちゃくちゃ感謝してやる。都度感謝してやる。

 全部バージルさんのおかげ!


 ふふふ、と私が不敵な笑みを返すと、バージルさんは嫌そうに顔をしかめる。


「なんだよリア、その顔は。俺の事は置いておくにしても、本当に今不便はないのか? いやにお前を世話する人間が少ないような気がするが……」

「あー……。私が人見知りを発動しちゃって、できるだけ傍にいる人間は減らしてもらいました」

「ふうん? ……なにかあったんじゃないだろうな?」


 バージルさんの声が、不機嫌そうに一段低くなった。鋭い。

 気まずくなって視線を泳がせながら、私は答える。


「まあ、あった、はありましたね。私の挙動不審っぷりを4人の侍女が笑って……」

「はあっ!? 俺の聖女にふざけた事を……! おいそいつら今生きてないだろうな殺すぞ」


 ガタン、と席を立って怒りをあらわにしたバージルさんに、私は口早に続きを聞かせる。


「あの、笑って、その4人はその場でメイドのセラさ……、セラにボッコボコにされました。意識失うくらいに遠慮なくぶん殴られてました。で、更にマライア王女が怒ってて、解雇もされるって聞いたので、それ以上はヤメテー! って、お願いした次第です」

「んんん、それは……。あーいや、それ以上するとリアが気に病むか」


 ぽすんと席に戻り、仕方なさそうにバージルさんはため息を吐いた。


「です。その人たちはもう良いんです。ただ、私、侍女の人たちに苦手意識できちゃって……。普通に元々人付き合いが得意な方ではないですし、ど庶民なので人にお世話されるのにも抵抗ありますし、高貴な人は特にご遠慮したいなぁって……」

「……その経緯で侍女が全員遠ざけられてるなら、ざまぁないな。聖女に仕える侍女なんて、どれほどの栄誉か。そこから聖女サマのお気に入りになれれば、城内でもかなりデカい面ができたはずだ。そのチャンスを失ったのは、さぞ悔しいだろうな」


 けけけ、と愉快気に笑うバージルさんに、私は焦る。


「えっ、あの、私、なにもしてない侍女の人達に、悪い事しちゃってますかね? いやますかねというか、悪い事をしちゃってますね?」

「いや? プラスを与えていないだけで、悪い事ではないな。出世の機会は他にもあるから、リアは気にしなくて良い。恨まれるとしたらまずリアを笑った4人が恨まれるだろうしな。処分が生温いのだから、恨みくらい大いに買っておけと俺は思うよ」

「そう……、でしょうか」

「そうだ。そもそも、なにもしなかった事こそが、【なにもしてない侍女】の落ち度だ。メイドは殴れたんだから。出遅れたにしても、自分たちだって倒れたそいつらを足蹴にでもすれば良かった。どうせ内心自分もリアの事を馬鹿にした奴らに同調していたから、動けなかったんだろ」

「そ、そう、ですかね……?」

「絶対そうだ。侍女って全員貴族の娘だから、自分が偉くて特別だって勘違いしているやつが多いんだよ。俺が伯爵になった途端に揃って『魔王討伐の暁には、婚約してさしあげてもよろしくってよ?』って手のひら返したくらいだ。田舎の農家出身の魔法使いでしかなかったときは、まるっきり存在から無視していたくせに、な」

「なるほど」


 私はようやく、心から頷くことができた。


 よし、このままでいこう。

 この人を結婚相手として狙っているような人たちに、親切にする必要はない気がするもの。うん。

 というか、伯爵になった上で魔王討伐までしろよなあげくにそこまでしても婚約か。結婚じゃないんだ。あまりに上から過ぎない?

 そんな人たちとは、仲良くできそうな気がしない。


 一応、私の担当らしい侍女達の中に、バージルさんに対して手のひら返ししなかった人はいないのか聞いてみようとは思う。もしいれば、仲良くしようと試みても良いかもしれない。

 何事にも例外は……あるよね? なかったらどうしよ。

 いや、私の担当らしい侍女達の中にいない分には、単に運が悪かったということで良いか。

 侍女という生き物全てがそんなではない、と思いたい。

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